夫婦間DVカウンセリング

家庭内、特に夫婦間におけるDV(ドメスティック・バイオレンス)は、残念ながら、お子さんにとって一番の犠牲を生んでしまうことがあります。これは、ご夫婦が共に真剣に考えるべき問題です。

配偶者からの暴言、暴力、侮辱に耐え続けている理由として「子どものために…」とおっしゃる方がいらっしゃいますが、それは本当にお子さんのためになっているでしょうか。時には、経済的な不安や精神的な依存から、自立することが難しい「共依存」の状態に陥ってしまっているケースも見受けられます。

目次

DVとは家庭内暴力

DVを受けたことがある女性の割合:4人に1人 継続的にDVを受けている人:10人に1人

DVとは”ドメスティック・バイオレンス”の略語で「家庭内暴力」のことを意味します。

家庭内暴力の定義は広く「思春期の子どもによる暴力」や「子どもへの虐待」まで含まれますが、現代では「配偶者や恋人などからの暴力」という意味で使われていることが多いです。

DVは家庭内で起きるものなので、周囲に気づかれにくく身近に感じていない人も多いでしょう。

しかし、実際はDVを経験している人は多く、一見なにも問題ないような家庭で起きているケースが多いです。

グラフに示す通り日本のデータで、男性から身体的暴力を受けたことのある女性は26.7%で、4人に1人はDVの被害経験者です。また、繰り返される継続的な暴力を受けたことのある女性は10%程度いるとされ、10人に1人は深刻な被害にあっています。

DVと傷害事件は紙一重

もし、赤の他人に手をあげれば、それはDVとは呼ばれず、「傷害事件」として扱われ、場合によっては逮捕に至ることもあります。これは、たとえ夫婦や親子であっても同じです。家族や身内だからといって暴力が許される、という考え方は、現代では通用しません。

DVには様々な形がありますが、たとえ傷害事件に至らないとしても、いかなる形のDVも決して許されるものではありません。

では、なぜDVは何度も繰り返されてしまうのでしょうか。その背景には、パートナーに対する支配欲やパワー・コントロール志向、さらには過去の生育歴や心理的脆弱性が関与しているとされます。

DVが繰り返される背景には‥ 加害者側の「自信のなさ」や「劣等感」

DVとは「家庭内暴力」のことです

DV(ドメスティック・バイオレンス)とは、一般的に「家庭内暴力」を指します。

DVの背景にあるもの

DVが起こる背景には、古くから続く日本の社会構造も影響していると考えられます。経済的・社会的に男性が優位とされてきた社会構造が、「子育ては女性の役割」「妻は夫を支える存在」といった固定的な役割分担の意識を生み出し、現在でもそうした考え方が文化的に根付いている側面があります。

また、攻撃性や暴力性が「男らしさ」の象徴のように捉えられる風潮が、結果として長年にわたりDVを見過ごす一因となってきた可能性も否定できません。

DVは一方的な支配関係

DVは、決して単なる夫婦喧嘩ではありません。加害者が被害者に対して、一方的に暴力(精神的なものも含む)をふるうことであり、そこには支配関係が存在します。被害者は、いつ起こるか分からない暴力(DV)に常に怯えながら、安全とは程遠い日々を送ることになり、心身ともに深刻なダメージを受けてしまいます。

長期にわたってDV被害を受け続けると、その状況に慣れてしまい、「私が悪いから殴られるんだ」「私が至らないから怒らせてしまうんだ」といった、歪んだ考え方をしてしまうことがあります。その結果、うつ病などの精神的な不調を抱え、ますます身動きが取れない状況に陥ってしまうことも少なくありません。

男性優位の考え方が根強い社会では、DVが単なる夫婦喧嘩として軽視されてしまうこともありますが、時には命に関わるような深刻な事態を引き起こすこともある、非常に重大な問題なのです。

DVに見られる「暴力のサイクル」

DVの加害者は、一日中暴力を振るい続けているわけではありません。DVには、多くの場合、一定のサイクルがあると言われています。

  1. ハネムーン期(解放期): 激しい暴力の後、加害者は「もう二度としない」「本当に悪かった」などと謝罪し、急に優しくなる時期があります。まるで新婚時代(ハネムーン)のように穏やかで愛情深く振る舞うため、被害者は「今度こそ変わってくれるかもしれない」と期待し、つい許してしまうことがあります。
  2. 緊張形成期(蓄積期): しかし、この穏やかな時期(ハネムーン期)は長くは続きません。加害者は再び、些細なことからストレスや不満を溜め込み、イライラし始めます。物にあたったり、ため息が増えたり、被害者に対して批判的な言動が増えたりするなど、攻撃的な兆候が見え始め、家庭内の緊張感が高まっていきます。
  3. 爆発期: 溜め込んだ怒りやストレスが限界に達すると、激しい暴力(身体的・精神的など)が爆発します。この時期、加害者は「お前が悪いからだ!」「お前のせいだ!」などと、暴力を振るう原因は被害者にあると主張することが多くあります。

そして、爆発期が終わると、再び「ハネムーン期」へと戻り、このサイクルが延々と繰り返されてしまうのです。

DVには様々な種類があります

DVと聞くと、一般的には「殴る・蹴る」といった身体的な暴力を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、実際には「暴力」の形はそれだけにとどまらず、大きく以下の5つのタイプに分類することができます。

身体的暴力

  • 最も分かりやすいDVの形です。殴る、蹴る、髪を引っ張る、物を投げつけるなど、身体に直接的な危害を加える行為です。
  • 傷害罪にあたる可能性もあり、肉体的な苦痛だけでなく、精神的にも深い傷を残します。

心理的(精神的)暴力

  • 言葉や態度によって、相手の心を傷つけ、精神的に追い詰める暴力です。
  • 大声で怒鳴る(恫喝)、脅す、「誰のおかげで生活できているんだ」などと人格を否定する、人前で侮辱したり恥をかかせたりする、長時間無視する、相手の意見を全く聞かない、命令口調で罵倒するなどがあります。
  • また、携帯電話やメール、持ち物を無断でチェックしたり、行動を過度に詮索したりすることも含まれます。
  • 被害者の自尊心を破壊し、精神的なダメージを与える深刻な暴力です。

性的暴力

  • 相手の意に反して行われる、性的な行為全般を指します。
  • セックスを強要する、見たくないポルノ画像や映像を見せる、避妊に協力しない、異常な嫉妬心から性的な行動を強要・制限するなどがあります。
  • これらの要求を相手が受け入れないと、心理的DVや身体的DVに移行していくこともあります。
  • 被害者に大きな苦痛や屈辱感を与える暴力です。

経済的暴力

  • お金の面で相手を支配し、経済的な自由を奪う暴力です。
  • 生活費を渡さない、または極端に制限する、収入や貯金をすべて管理し自由に使わせない、外で働くことを妨害したり禁止したりする、借金を負わせる、ギャンブルなどにお金を使い込み生活を困窮させるなどがあります。
  • 被害者を経済的に依存させ、「加害者に従わなければ生きていけない」という状況を作り出すことを目的としています。

社会的暴力

  • 相手の人間関係や社会的な活動を制限し、孤立させようとする暴力です。
  • 友人や家族、親戚などとの付き合いを制限したり、誰と会うか、どこへ行くかを常に監視したりする、携帯電話やパソコンの使用を制限・禁止するなどがあります。
  • 被害者を外部の世界から隔離し、まるで軟禁状態に置くような行為です。
  • 被害者の自立心や判断力を奪い、社会との繋がりを断ち切ろうとする暴力です。

DV被害から抜け出せない心理

DVを受けている被害者の方は、そのつらい状況から抜け出すことが、非常に難しい場合があります。また、一度は離れることができても、再び加害者の元へ戻ってしまうというケースも少なくありません。このような行動の背景には、相手に対する複雑な感情や、根強い恐怖感が影響しています。

DV被害に気づかない・認めたくない心理

被害者の中には、ご自身がDVを受けていることに気づいていない、あるいは認めたくないと感じている方もいらっしゃいます。長期間にわたってDVを受け続けると、それが「当たり前」になってしまい、どんなにひどい仕打ちを受けても、

  • 「私が悪いから、夫を怒らせてしまうんだ…」
  • 「彼も仕事でストレスが溜まっているから、仕方がないのかも…」
  • 「相手は精神的に不安定だから、私が支えてあげなきゃ…」
  • 「相手もつらい家庭環境で育ったから、こうなってしまう気持ちも分かる気がする…」
  • 「厳しいことを言うのも、私のことを愛してくれているからだ…」

などと、自分なりに理由をつけて相手の行動を正当化し、理解しようとしてしまうことがあります。そして、暴力のサイクルにおける「ハネムーン期」が訪れると、加害者の優しい態度に触れ、つい安心してしまい、「今度こそ大丈夫かもしれない」と再び期待してしまうのです。

恐怖心と報復への恐れ

自分がDV被害者であると認識していても、現状から抜け出せない方もいます。
「もし、この状況を誰かに話したら、何をされるか分からない…」「別れようとしたら、もっとひどい目に遭うかもしれない…殺されるかもしれない…」といった強い恐怖心から、誰にも相談できず、声を上げられなくなってしまいます。加害者から「もし逃げたら、家族や友人に危害を加える」などと脅されている場合もあります。仮に別れることができたとしても、その後の報復を恐れて、なかなか行動に移せないのです。

「子どものために」という思い込み

お子さんがいるご家庭では、「子どものためには、やはり父親(母親)が必要だ」「私が我慢すれば、子どもは両親のいる家庭で暮らせる」と考え、どんなにつらくても我慢し続け、加害者との生活を続けてしまう方もいらっしゃいます。しかし、DVのある環境が、本当にお子さんのためになるのでしょうか。

経済的な依存

加害者から生活費を厳しく制限されているなど、経済的なDVを受けている場合、家を出るための資金(逃亡資金)すら用意できないことがあります。ましてや、別れた後の生活を立て直すためのお金など、到底準備できないというケースも少なくありません。

精神的な影響と無力感

繰り返しDV被害に遭っていると、被害者の精神状態は非常に不安定になります。自尊心が著しく低下し、「自分には価値がない」と思い込んだり、何をしても状況は変わらないという無力感に苛まれたりします。その結果、自立した生活を送ることへの不安が大きくなり、この悲惨な状況から抜け出す気力さえ失ってしまうのです。

DV加害者に見られる傾向とタイプ

「DV加害者」と聞くと、何か特別な、恐ろしい人物を想像するかもしれません。しかし、決してそうとは限りません。DVの加害者は、反社会的な雰囲気を醸し出しているような、一見して分かりやすいタイプの人ばかりではないのです。むしろ、普段は周囲から「真面目」「冷静」「優しい」といった印象を持たれていることも少なくありません。

そのため、DVが表面化し、警察沙汰などになった場合には、周りの人々を「あの人がまさか…」と驚かせることになります。加害者になる人に、特定の職業や学歴、年齢があるわけではありません。しかし、性格的な傾向として、以下のような共通点が見られることがあります。

ここでは、DV加害者に見られる傾向を理解しやすくするために、いくつかのタイプに整理しています。必ずしも当てはまるわけではなく、複合的に重なる場合もあり、DVを理解する一つの視点としてご参照ください。

嫉妬深いタイプ

  • 出会った当初や付き合い始めは非常に優しいことが多いですが、次第に「相手を好きだから」という理由をつけて、私生活に深く干渉し始めます。
  • 相手の行動を細かく制限したり、常に監視したり、友人関係を断たせようとしたりすることで、被害者を孤立させ、自分だけの所有物のように扱おうとします。(社会的DVや経済的DVの傾向が見られます)

男尊女卑の考えが強いタイプ

  • パートナーが外で仕事をしたり、資格取得の勉強をしたりするなど、自立しようとすることを嫌います。それは、女性が経済的・精神的に自立することで、自分の優位性が脅かされると感じるからです。
  • このタイプの人は、自分勝手な性的DVや経済的DVを行う傾向があります。

責任転嫁するタイプ

  • 自分の暴力や暴言、経済的な締め付け、行動制限など、問題行動の原因をすべてパートナーのせいにします。「お前が〜するから、俺はこうするしかないんだ」といった具合です。
  • 人生で問題に直面した時に、自分で責任を取ろうとせず、常に他人のせいにする傾向があります。自分が被害者であるかのように主張するため、論理的な話し合いが非常に困難です。(あらゆるタイプのDVを引き起こす可能性があります)

批判的な言動を繰り返すタイプ

  • 常に批判や悪口が多く、被害者を侮辱したり、人前で恥をかかせたりします。ひどい場合には、子どもの前でも平気でそうした言動をとります。
  • このような心理的な暴力を受け続けることで、被害者の尊厳や人格は深く傷つけられ、自己否定感が強まり、「自分はダメな人間だ」という無力感や虚無感に支配されていきます。(心理的DVの典型です)

弱いものいじめをするタイプ

  • 自分より弱い立場の人に対して、優しさや思いやりを持てず、いじめや虐待を平気で行うことがあります。罪悪感を感じることが少なく、相手がどれだけ傷ついているかを冷静に見極めながら、暴力や暴言をエスカレートさせることもあります。
  • 動物虐待などの傾向が見られることもあります。また、差別意識が強く、自分より立場が下だと見なした相手を蔑み、侮辱的な態度をとります。(性的DV、身体的DV、精神的DVなどが強く現れる傾向があります)

このように、加害者にも様々なタイプがありますが、これらのタイプが複合的に現れることも多く、その時の気分や状況によって態度が変化することもあります。

DVが子どもに与える深刻な影響

「自分の父親が、母親に暴力をふるっている…」「母親が、父親に対して暴言を吐き、侮辱している…」
その時、お子さんは部屋の隅でおもちゃやゲームで遊んでいたり、本を読んでいたり、テレビを見ていたりするかもしれません。「子どもは意外と平気で、気にしていないみたいです」… もしそう考えているとしたら、それは少し違うかもしれません。

見ている「フリ」をする子どもたち

多くの場合、子どもたちは全部「フリ」をしているのかもしれません。おもちゃやゲームで遊んでいる「フリ」、本を読んでいる「フリ」、テレビを見ている「フリ」…。ただただ、そうしているだけなのです。家族を守るはずの親が、もう一方の親を攻撃している… この信じられない光景を目の当たりにして、必死に「気づいていないフリ」をして、その場に耐えているのかもしれません。

心への深刻な影響と虐待との関連

家庭内でDVがあれば、それを目撃したお子さんには、計り知れないほど深刻な精神的ダメージが及びます。これは「心理的虐待」にあたります。夫(妻)の暴力や暴言は、パートナーだけでなく、多くの場合、お子さんにも向けられるため、「児童虐待」へと繋がってしまうことも少なくありません。

実際に、DVのある家庭において、親から身体的な虐待を受けているお子さんは6割から7割にも上るとされ、精神的な虐待(面前DVを含む)に至っては、ほぼ100%全員が受けていると考えられます。

暴力の連鎖というリスク

DVを目撃したり経験したりすることは、将来の対人関係に影響を及ぼすリスク要因のひとつとされています。たとえ他者に対して暴力を振るわなくても、自分自身を傷つける行為(自傷行為)や、薬物・アルコールへの依存などに陥ってしまう危険性も指摘されています。お子さんの健やかな成長を願うのであれば、DVの連鎖を断ち切らなければなりません。

DVを支える「共依存」という心理

なぜ、DVは繰り返されてしまうのでしょうか。そこには、加害者と被害者の双方に、複雑な心理が働いていることがあります。

加害者の心理:劣等感と支配欲

DV加害者の多くは、心の奥底に強い「劣等感」や「コンプレックス」を抱えています。そのため、他人を攻撃したり、自分がいかに凄いか、偉いかをアピールしたりすることでしか、「自分は優れている」と感じることができないのです。DV加害者にとって「暴力」とは、自分が人より優位であることを示し、劣等感を打ち消すための手段となっている場合があります。

加害者は、自分より確実に弱い(と見なした)相手を選び、暴力によって相手をコントロールしようとします。この点で、DVは「いじめ」とよく似た構造を持っていると言えるでしょう。加害者は、自身の「自尊心」を満たすためにパートナーを苦しめますが、ただ暴力や暴言を繰り返すだけでは、当然、被害者は離れていってしまいます。そのため、暴力の後に急に優しくなり、「本当に悪かった」と許しを請い、身体や心の傷を慰めるような行動をとる(ハネムーン期)こともあるのです。

被害者の心理:見捨てられ不安と自己肯定感の低さ

一方、DV被害者の方にも、暴力や暴言を受け入れてしまったり、その状況から逃げ出すことができなかったりする心理的な傾向が見られることがあります。その背景には、「この人に見捨てられたら、私は生きていけない」という強い“見捨てられ不安”がある場合が多いです。被害者自身も、「自分はダメな人間だ」「叱られて当然なんだ」と思い込んでいるため、たとえひどい暴力を振るわれたとしても、相手にしがみついてしまうのです。

共依存関係の形成

つまり、加害者も被害者も、根底には強い“劣等感”を抱えており、それが異なる形で現れている、と考えることができます。

DVが何度も繰り返されるうちに、お互いがその「劣等感」を埋めるための、いわば「道具」のような存在になってしまい、「共依存」と呼ばれる不健全な依存関係が形成されていきます。

幼少期の経験の影響

DVをする側もされる側も、幼少期に自身がDVや虐待を受けていたり、それを目撃したりしていたケースが多く見られます。親から無条件に愛される経験が乏しいと、子どもは「自分には価値がないんだ」という劣等感を抱きやすくなります。

また、人との健全な関わり方を学ぶ機会が少なかったために、偏った方法でしか対人関係を築くことができない、という場合もあります。

DVだけでなく、親が過保護や過干渉であった場合も、お子さんの心のバランスは崩れやすくなります。過度に批判されて育った結果、劣等感を抱くのは自然なことであり、親に対する怒りや不満を心の中に抑圧したまま大人になると、潜在的に「怒り」を溜め込み、ストレスを感じた時に攻撃的な性格として現れてしまうこともあるのです。

DV加害者も被害者も、心の奥底にある「満たされない欲求」をお互いに求め合っているのかもしれません。しかし、暴力や依存によって得られる満足感は、一時的なものに過ぎないということを、認識する必要があります。

幼少期からの環境が与える影響

「DVは連鎖する」と言われることがあるように、長年育った環境の中でDVを経験したり、目の当たりにしたりすることで、暴力に対する感覚が麻痺してしまうことがあるのかもしれません。

当時はDVを見たり、被害を受けたりして、とても怖く、つらい思いをしたはずなのに、無意識のうちに「自分がこのようにされてきたのだから、相手にも同じようにしてもいいのかもしれない」という感覚が刷り込まれ、親がしてきたことを、今度は自分が繰り返してしまう… これは、残念ながら非常に多く見られるケースです。

満たされない心と劣等感

自分の心の中に満たされない何かや、強い劣等感を感じていると、それが何かのきっかけで刺激された時に、強烈なストレスを感じ、イライラが爆発してしまうことがあります。また、相手のことを「未熟だ」と感じることで、「自分の方が正しい」「自分の方が優れている」と、人を上下関係で判断してしまい、相手に対して支配的な態度で接してしまうことがあります。

しかし、そうした態度の根底には、本来あるべき愛情が欠けていることに気づかなければなりません。

家庭内の緊張状態

DVが行われている家庭では、常に緊張状態にあり、配偶者もお子さんも、安心して過ごすことができていない、という特徴があります。たとえ身体的なDVが行われていなかったとしても、父親(あるいは母親)が非常に厳しく、怖くて、いつもビクビク、オドオドしながら過ごしてきたという方は、精神的なDVの被害者と言えるでしょう。

子どもの発育・発達への深刻な影響

親の言動は子どもに大きな影響を与える

母親が父親に殴られたり、罵倒されたりしている姿。あるいは、父親が母親に罵倒されている姿。そんな様子を日常的に見て育ったお子さんが、果たして人を心から敬うことのできる人間に育つでしょうか。誰かを馬鹿にするのではなく、お互いの良いところを見つけ、認め合い、毎日を楽しく過ごせること。それが、本来の家族のあり方ではないでしょうか。

もちろん、時には厳しいことを伝えなければならない場面もあるかもしれません。しかし、子どもは親の背中を見て育ちます。親がとっている行動や、子育ての仕方を、子どもは自然と真似てしまうものです。

夫婦は、それぞれ異なる価値観を持った二人が一緒に暮らしているのですから、価値観がぶつかり合うことも、たまにはあるでしょう。しかし、その対立する様子をお子さんに見せるのは、あまり良い影響を与えません。また、感情的になってしまい、自分自身をコントロールできなくなってしまうのも、大きな問題です。

仕事や家族関係など、考えるべきことが多い中で、ストレスが溜まることもあるでしょう。しかし、そんな時こそ、感情的にならずに冷静に話し合い、お互いに助け合うことが必要です。

考え方の癖を見直すヒント

DVの背景には、加害者側の考え方の癖、いわゆる「認知の歪み」が関係していることが多くあります。ここでは、その修正に向けたヒントをいくつかご紹介します。考え方の偏りや暴力傾向に気づき、専門的な支援を受けながら、心理的背景に丁寧に向き合っていくことが改善への第一歩です。考え方の偏りや暴力傾向に気づき、専門的な支援を受けながら、心理的背景に丁寧に向き合っていくことが改善への第一歩です。

人を上下で判断する考え方を変える

社会生活を送る中で、仕事の能力などで人と比較されたり、自分自身を評価されたりする場面は多々あります。「あの人は優秀だ」「自分はまだまだだ」と感じることもあるでしょう。

しかし、そうした社会での評価基準や競争原理を、そのまま家庭に持ち込むのは適切ではありません。

結婚生活においては、パートナーのことを一人の人間として尊重し、相手が何か新しいことを始めたいと思っているのであれば、応援する姿勢を示すのが、本来の姿ではないでしょうか。しかし、自分に自信がないと、相手を暴力や恐怖によって支配しようとしてしまい、相手が嫌がることを平気でしてしまうことがあります。

そうなってしまう原因には、もしかしたら、幼い頃から親にそのような扱いを受けてきた経験が影響している可能性も考えられます。そして、最も大きな問題は、相手に対して愛情ではなく、「支配したい」という意識が働いてしまっている点にあります。

結婚生活や人間関係は、愛情や信頼関係によって成り立つものである、ということを理解できれば、相手への接し方も自然と変わってくるはずなのですが、その基本的な点が理解できていない方も、残念ながら少なくありません。

自分の中の劣等感と向き合い、自信を育む

自分に自信がないばかりに、相手を傷つけてしまう… そんな悪循環から抜け出すためには、まず自分自身が自信を持てるように、何かに取り組んでみるのも良い方法です。

趣味でも、仕事でも、勉強でも構いません。自分で目標を立てて何かに打ち込む経験は、DVの状況にも変化をもたらすきっかけになることがあります。「目の前にいる人を、自分の思い通りにコントロールしたい」という感情が、意識的、あるいは無意識的に湧き上がってくることもあるかもしれません。しかし、そうした時こそ、自分のやるべきことに集中し、一時的に相手から距離を置くことも大切です。

配偶者やお子さんは、あなたとは違う一人の人間です。思い通りにならないのは当然ですし、無理にコントロールしようとしても、お互いが幸せになることはありません。本当の幸せを考えるのであれば、今、自分自身が何をすべきなのか、冷静に考えてみることが必要です。

謙虚な姿勢で努力する姿を見せる

自分に自信が持てない人ほど、「自分はこんなにすごいんだ!」とアピールしたり、「もっと認めてほしい!」という欲求が強くなったりすることがあります。しかし、本当に自信のある人は、多くの場合、そんなことを声高に主張したりはしません。むしろ、周りの評価を気にすることなく、一人黙々と自分のやるべきことに取り組んでいるものです。そして、その真摯な姿が、自然と周りの人々に認められ、評価されていることも少なくありません。

周りからの評価は、時に自分の認識(自己評価)とは異なることもあります。「自分はこんなに頑張っているのに、周りは分かってくれない」と感じることもあるかもしれません。それでも腐らずに努力を続けていくことで、いずれ認められる日が来ることもあります。

また、「すごいと認めてもらいたい」という強い承認欲求は、幼い頃に親や先生などから十分に認めてもらえなかった、関心を持ってもらえなかった、頑張りを否定された、といったつらい経験からきている場合もあります。もし、そうした心当たりがあるのであれば、まずご自身の心の傷を理解し、それによって歪んでしまった考え方を、少しずつ修正していく必要があります。

幼少期の環境要因を理解する

両親が仕事などで忙しく、家にいる時間が少なかったり、子どもと十分にコミュニケーションを取る時間がなかったりした場合にも、お子さんが将来DVの加害者や被害者になってしまうリスクが高まる可能性があります。また、親自身が何らかのトラウマを抱えていることが、子どもとの関わり方に影響を与えているのかもしれません。

自己肯定感が十分に育まれず、「自分は自分のままでいいんだ」という感覚を持つことができないと、常に心が不安定な状態に陥りやすくなります。

最初は冗談のつもりで言った言葉でも、相手を深く傷つけていることがあります。
通常、子どもは成長過程で様々な人間関係を経験する中で、「こういうことは言ってもいいけれど、こういうことは言ってはいけないんだな」ということを学んでいきます。しかし、DVのある家庭環境では、日常的にあるべきでないコミュニケーションが繰り返されているため、感覚が麻痺してしまうのです。

また、周囲の環境から影響を受けやすく、乱暴な言葉遣いや激しい言い方などを真似してしまうこともあります。

結婚生活は職場とは違うことを理解する

結婚生活に、職場のような効率性や上下関係を持ち込もうとする方がいますが、そうした考え方は少し見直してみると良いかもしれません。お互いの気持ちを話し合うことは大切ですが、感情的になって喧嘩腰になってしまうと、建設的な話し合いはできません。

そして、自分の意見を通すためだけに意固地になり、最悪の場合、暴力に発展してしまうケースもあります。相手ばかりを責めるのではなく、自分自身の言動も冷静に見つめ直す必要があります。お子さんが見ている、ということを考えても、感情的にならずに、問題解決に向けた話し合いをすることが大切です。

相手をけなしたり、相手の意見を尊重できなかったりすることは、相手の人格そのものを尊重できていないことになります。そうした状況になった時は、一度お互いに距離を置くことも必要になってくるでしょう。DVに至らないためにも、適切な距離感を保って付き合うことも時には必要です。

DVが起きている家庭では、「共依存の関係性」になっている場合も多く、また、世間体を気にして別れられないという方も多くいらっしゃいます。しかし、お互いのためにも、一度距離を置いて冷静になることが必要です。

幼少期から培われた考え方から脱却する

日々生活していると、誰でもイライラしたり、一言二言、文句を言いたくなったりすることもあるでしょう。しかし、その言葉を発する前に、「相手がどう思うか」を少し立ち止まって考えられるようになれば、状況は変わってくるはずです。

自分本位な考え方ではなく、相手の立場に立って考えられるように、考え方のトレーニングとしてカウンセリングを利用するのも有効な方法です。

何も考えずに言葉を発してしまう癖がある方は、その発言がどのような結果を招く可能性があるかを、少し想像してみることが大切です。「もし自分が相手から同じことを言われたら、どう感じるだろうか?」と考えてみる必要もあります。

相手のことが本当に好きであれば、相手が喜んでいる顔や、笑顔でいる姿を見たい、と思うのが自然ではないでしょうか。
それなのに、自分の体裁を守ることや、自分の感情ばかりに意識が向いてしまってはいませんか? そうした考え方をしてしまう背景には、幼少期に自分自身が大切に扱われてこなかった経験が、大きく影響している場合があります。

まず、自分自身を大切に扱うことができるようになること。それが自信に繋がり、相手を束縛したり、馬鹿にしたりするようなDV行動を減らしていくことに繋がるでしょう。

評価を受け、それに見合った行動をとる意識

人からそれなりの評価を受けるようになると、「その信頼や期待に応えたい」という気持ちが生まれ、物事に一生懸命に取り組めるようになることがあります。もちろん、その根底には「自分がこれをやりたい」という主体的な気持ちがあることが大切ですが、まずは、自分自身を認めてあげることから始めてみてはいかがでしょうか。

「自分には、こんないいところもあるな」「こんなこともできるようになったな」と、自分の良い面や成長した点に目を向けることも、プラスになります。

威嚇的な態度を取ってしまうのは、まるで怖がりの犬が、人を威嚇するためによく吠える様子に似ているかもしれません。しかし、吠えたところで相手を怯えさせるだけで、相手は心を閉ざしてしまいます。相手からの信頼や肯定的な評価が得られるように、日々の行動を少しずつ変えていく努力も必要でしょう。

自分に自信が持てれば、人の評価が気にならなくなる

自分に本当の意味での自信がつけば、何か不安なことが起こったとしても、暴力で解決しようとしなくなります。暴力以外の方法で、自分の気持ちや考えを相手に伝えられるようになるはずです。暴力で相手を従わせなくても、あなたの魅力や誠実さで、相手に理解してもらうことは可能です。

自分に自信がなかったり、何か強い不安を抱えていたりすると、気持ちが不安定になり、一緒にいる人にその感情をぶつけてしまうことがあります。そうした時には、まず自分の考え方の癖に気づき、相手の意見や行動を尊重する姿勢を意識してみるのも良いでしょう。

もちろん、自分の意見をきちんと伝える必要はありますが、そこでは暴力で訴えるのではなく、冷静な話し合いや、論理的な意見として述べましょう。

人は思い通りにならないものだと悟ること

配偶者やお子さんに対して、「この人たちは、自分の意に沿うように発言し、行動すべきだ」という考え方は、根本的に間違っています。配偶者もお子さんも、あなたとは違う、一人の独立した人間であり、それぞれに考え方を持っています。ですから、あなたと考え方が合わないことがあるのは当然なのだ、ということを、まずしっかりと理解しておきましょう。

自分の感情の赴くままに、言葉を発したり、行動を起こしたりするのではなく、何かを発言したり、行動したりする前には、少し立ち止まって考える習慣をつけることが大切かもしれません。少し他人行儀に感じるかもしれませんが、「相手に嫌われたくない」と本気で思うのであれば、相手を力で支配しようとするのではなく、自分自身が自信を持てるような行動を積み重ねていく方が、はるかに効果的でしょう。

仕事を頑張ってみることもいいですし、家族に優しくすることも一つです。

父親(あるいは母親)が、配偶者に対して優しく、思いやりを持って接している姿を見ることで、お子さんたちも「あのように接すると喜ぶのだな」ということを、自然と学ぶことに繋がります。

DVに対して取るべき行動

DVは、決して許される行為ではありません。もしあなたがDVを受けているのであれば、ご自身の安全と尊厳を守るために、行動を起こすことが大切です。

毅然とした態度で臨むことも必要

DVを繰り返し受けていると、「自分が悪いからだ」という感覚に陥ってしまうことが多いのですが、「もしDVが行われたら、次は離れる・別れる」という、ご自身の中での強い決意を持つことが重要です。DV加害者は、「もうしない」と口では言っても、多くの場合、また同じように感情を爆発させます。

その言葉を信じて何度も我慢を繰り返すことは、結果的にあなたがその状況から抜け出せなくなるだけでなく、お互いのためにもなりません。

一緒にいるのであれば、楽しく、幸せな状況であることが基本です。そうでない状況が続くのであれば、お互いのために、離れることも真剣に考える必要があります。DVの根底には、相手に対する甘えや、「この人なら、このくらいやっても大丈夫だろう」という見下した気持ち、計算があるのかもしれません。

しかし、それは相手の幸せを完全に無視した行為です。そのような関係を続けることは、決して良いことではありません。相手のことを少しでも思うのであれば、「離れる」ということも、一つの愛情の形であることを覚えておいてください。

閉鎖的な環境に陥らないことが大切

DVを受けている場合、誰にも相談できずに一人で悩んでいる可能性が高いです。そうした時には、誰か信頼できる人に相談すること、助けを求めること(SOSを出すこと)が必要になります。相手と自分だけの閉鎖的な関係の中では、DVがさらにエスカレートしてしまう危険性があります。第三者に相談し、客観的な視点を取り入れながら、きちんと対応していくことが大切です。

専門家であるカウンセラーなどに話を聞いてもらうことも、有効な手段です。できれば、DV加害者の方もカウンセリングを受け、ご自身の心の中にある自己否定感や考え方の偏りに向き合い、それを修正し、根本的な解決に向けた加害者支援が重要とされています。その一方で、まずは被害者の安全確保が最優先であり、支援は個別に行う必要があります。

名古屋聖心こころセラピーでは、DV加害者、被害者それぞれの方のお話を丁寧にお伺いし、思考パターンを変えていくための心理的なアプローチ(認知への介入など)も行っています。

DV克服に向けて、私たちにできること

DVの被害者の方の中には、どんなにつらい状況であっても、相手と別れることができない、と感じている方が多くいらっしゃいます。特にご夫婦の場合、離婚に対する社会的な偏見などを気にして、簡単に関係を断ち切ることが難しい、と感じるかもしれません。

しかし、加害者も被害者も、その関係の中に「幸せ」を感じられないのであれば、当然、離婚なども含めて「離れる」という方向で考えるか、あるいは、DVの根本的な「原因」を取り除く方向で真剣に取り組むのか、いずれにしても、その不幸な関係性を見直すことが必要になってくるでしょう。

お互いの気持ちを整理し、冷静になれるような環境を整えることも重要ですが、それだけでは根本的な解決にはなりません。DV加害者、被害者双方の心の奥底に潜んでいる「劣等感」や「不安感」といった根本的な問題を改善していかなければ、DVの問題が本当に解決することはないでしょう。

名古屋聖心こころセラピーでは、幼少期の家庭環境などから身につけてしまったかもしれない、不幸を引き寄せてしまうような考え方の歪みを修正していくお手伝いをします。認知行動療法などを通して、自己肯定感を高め、心に余裕を持つことができるようになれば、DVは収まっていく傾向があります。そして、依存的な関係から脱却し、お互いを一人の人間として尊重し合える、新しい関係性を築いていくことを目指します。

一人で抱え込まず、どうぞお気軽にご相談ください。

参考文献・参考資料

  • 草柳和之(2004) 『ドメスティック・バイオレンス』 岩波書店
  • 石井朝子(2004) 家庭内暴力被害者の自立とその支援に関する研究 厚生労働科学研究成果データベース

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榊原カウンセラーは臨床心理士・キャリアコンサルタント・管理栄養士。日本福祉大学大学院修了(心理学修士)、名古屋学芸大学卒。公立小学校での栄養教諭を経て、現在は心理・教育・栄養の複合的な視点から支援活動を行う。日本心理学会・日本心理臨床学会会員として、心の健康や対人関係に関する情報発信・執筆にも力を注いでいる。

この記事の監修者

公認心理師・臨床心理士。教育支援センターやスクールカウンセラーとして不登校支援や保護者相談、教職員へのコンサルティングに従事。心療内科や児童発達外来にて心理検査・カウンセリングも担当。現在はオンラインカウンセリングや、心理学と仏教を融合させたセミナー活動などを行っている。

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