パニック障害カウンセリング

パニック障害とは、突然、自分ではコントロールできないほどの強い恐怖感や不安感に襲われ、正常な精神状態を保つことが難しくなる状態です。
同時に、過呼吸、動悸、めまい、急激な血圧や体温の変化といった身体的な症状も現れます。
この強烈な恐怖体験(パニック発作)がきっかけとなり、「また、あの発作が起きたらどうしよう…」という予期不安に常に怯え、日常生活に大きな支障が出てしまう、それがパニック障害なのです。
パニック障害:「死んでしまうのではないか」という恐怖
パニック障害に陥ると、突然、胸がドキドキするなどの激しい動悸が起こり、大量の発汗や震えといった身体的な症状が現れます。
その場に立っていることさえできないほどの衝撃に襲われ、「このまま死んでしまうのではないか…」と感じるほどの、強烈な不安と恐怖を体験します。
そして、一度そのような恐ろしい体験をすると、「また、あの苦しみが繰り返されるのではないか…」と強く恐れるようになり、発作が起きた場所や、起きそうな状況を避けるようになります。
症状が悪化すると、次第に家から出ることさえできなくなってしまう場合もあり、日常生活や社会生活に大きな支障が出てしまうのです。

パニック障害は「不安症」の一つです
「パニック障害」という言葉は、最近では比較的よく耳にするようになりましたね。
日常会話でも、「ちょっとパニクっちゃって…」のように、少し驚いたり慌てたりする様子を表す言葉として使われることもあります。
しかし、実際の「パニック障害」は、そんな軽いものではありません。
日本で「パニック障害」という「障害」としての認識が広まったのは、比較的最近のことです。
世界的に見ても、約25年ほど前に「不安症」の一種として正式に認定されました。
調査によると、日本人の約100人に1人は、このパニック障害を経験していると言われています。
しかし、これはあくまで「パニック障害」と診断された人の数です。適切な治療やサポートを受けられないまま、このつらい症状で苦しんでいる人は、実際にはその数倍は存在すると考えられます。
また、パニック障害は、男性に比べて女性の方が発症しやすい傾向がある、と言われている不安症の一つです。

パニック障害には、
- パニック発作:突然襲ってくる激しい恐怖と身体症状
- 予期不安:「また発作が起きるのではないか」という強い不安
- 広場恐怖:発作が起きそうな場所や状況を避ける行動
という、3つの特徴的な症状があります。
これらの症状が互いに影響し合い、悪循環を生み出し、そのまま放置しておくと、生活に深刻な支障が出るほどに悪化してしまう可能性があるのです。
パニック発作:身体の異常? それとも心の反応?
「パニック発作」とは、特にストレスがかかる環境や状況に置かれた時に、「突然、身体に異常を感じ、理由の分からない恐怖や不安に襲われ、混乱してしまう」症状のことを言います。
程度の差はありますが、
- 震え
- 息苦しさ
- めまい
- 動悸
- 発汗
といった身体の異常が突然現れ、同時に強い不安感が広がり、やがて「このまま死んでしまうのではないか」と思うほどの、強烈な恐怖感に襲われることもあります。
そして、「自分に一体何が起きているのだろう?」と理解できず、混乱し、パニック状態に陥ってしまうのです。

このパニック発作の大きな特徴は、病院で検査をしても、身体的な異常が見つからないことが多い、という点です。
そのため、発作を起こして救急車で運ばれたり、病院で診察を受けたりしても、「特に異常はありません」「(ストレスを溜めないように)気にしないでください」といった程度の説明で終わってしまい、根本的な原因が分からないままになってしまうことも少なくありません。
また、この発作は、通常10分~長くても1時間以内には治まることがほとんどです。そのため、病院に到着する頃には症状が落ち着いてしまっている、ということもよくあります。
パニック発作の代表的な症状:あなたはいくつ当てはまりますか?
パニック発作の際には、以下のような症状が突然現れることがあります。(※すべてが同時に起こるわけではありません)
- 胸がドキドキする、心臓が激しく鼓動する(動悸)
- 身体や手足が震える
- 手のひらや全身に、びっしょりと汗をかく(発汗)
- 胸に痛みや不快感を感じる、気分が悪くなる
- 吐き気がする、お腹の調子がが悪くなる(腹部の不快感)
- 息が苦しくなる、息が吸えない感じがする、過呼吸になる
- このまま死んでしまうのではないか、という強い恐怖を感じる
- めまい、頭がクラクラする、気が遠くなる感じ、足元がふらつく
- 寒気がする、または逆に、身体の表面がカーッと熱くなる感じがする
- 息が詰まる感じ、喉に何か詰まったような感じがする(窒息感)
- 身体(または身体の一部)がしびれる、うずくような痛みを感じる
- 自分がコントロールを失ってしまうのではないか、気がおかしくなってしまうのではないか、と心配になる
- 現実感がない感じ(離人感)、自分が自分でないように感じる、自分の周りに見えない壁があるような感覚(現実感消失)
上記の症状のうち、4つ以上が突然現れ、強い恐怖感や不快感を伴う場合、病院に行っても特に疾患を指摘されなければそれはパニック発作である可能性が高いと考えられます。(上記症状は低血糖や塞栓症など緊急性の高い疾患でも起こりますので、まずは病院に受診されることをお勧めします)
予期不安:「また、あの発作が起きたら…」という恐れ
「予期不安」とは、その名の通り、「まだ起こってもいない出来事(この場合はパニック発作)に対して、あらかじめ悪いイメージを作り上げ、不安を感じてしまう」ことを指します。
一度でも、あの強烈なパニック発作を経験してしまうと、
「また、あんなつらい思いをするのだろうか…」
「いつ、どこで発作が起きるか分からないなんて、怖すぎる…」
「次に発作が起きたら、今度こそ本当に死んでしまうのではないか?」
「もし、人前でいきなり倒れたら、周りに迷惑をかけてしまう…恥ずかしい…」
と、再び発作が起きることに対して、強い不安や恐怖を感じ始めてしまうのです。これが「予期不安」です。
自分に何が起きたのか、どうしてあんな発作が起きたのか、その原因が分からないのですから、あれこれとネガティブな想像を巡らせ、不安に感じてしまうのも、ある意味、当然のことと言えるかもしれません。
このように、パニック発作を経験したことによって生じる、「発作そのものに対する不安」が「予期不安」なのです。
そして、この予期不安は、パニック発作を繰り返すたびに、どんどん強くなっていく傾向があります。
広場恐怖:苦手な場所や状況を避けてしまう
予期不安を感じ始めると、次に多くの人がとる行動は、その不安を少しでも軽くしようとして、発作が起きやすい、あるいは起きたら困ると感じる、特定の場所や状況を避けるようになることです。
例えば、
- 発作が起きた時に、すぐに助けを求められない、あるいは逃げ出せないと感じる場所(例:電車、バス、飛行機、高速道路、トンネル、橋の上、人混み、行列、美容院、歯科医院など)
- 閉鎖された空間で、一定時間そこにいなければならない場所(例:会議室、映画館、エレベーターなど)
といった場所を避けるようになります。
また、「他人に迷惑をかけたくない」「発作を起こしているところを人に見られたくない」という思いから、人が多く集まる場所(例:スーパー、デパート、イベント会場など)に行かなくなったりすることもあります。
このように、「自分の心身を守るために、無意識のうちに行動範囲を狭めていってしまう状態」を、「広場恐怖(症)」と言います。(※必ずしも「広い場所」だけが対象となるわけではありません)
この「避ける」行動の度合いも、個人差があります。特定の1~2か所の状況や場所を避けるだけで、日常生活にはそれほど支障がない人もいれば、信頼できる付き添いの人がいればどこへでも行ける、という人もいます。そして、症状が悪化すると、完全にどんな状況でも外に出ることが怖くなり、家に引きこもってしまう、という人もいます。
また、予期不安を感じているからといって、必ずしも広場恐怖を発症する、というわけではありません。
以上のように、
- 突然のパニック発作を経験する
- 「また発作が起きるのでは」という予期不安を感じるようになる
- 発作が起きそうな場所や状況を避けるようになる(広場恐怖)
という負のサイクルが繰り返され、慢性化していくと、その絶え間ない不安感や恐怖心、そして行動の制限によるストレスから、気分がふさぎ込み、うつ状態になってしまうことも少なくありません。
もし、あなたが上記のようなパニック発作を繰り返し経験し、発作に対する予期不安が1か月以上続いている場合、パニック障害の可能性が高いと考えられます。
パニック障害の原因は、まだ完全には解明されていません。
しかし、単に本人の性格や心の問題だけでなく、何らかの理由で脳内の神経伝達物質のバランスが崩れ、不安を感じやすい状態になっている可能性も大きいと考えられています。
そのため、病院で処方される薬物療法によって症状をコントロールしながら、同時に、当名古屋聖心こころセラピーでも行っているような心理療法・精神療法(カウンセリングなど)を併用することが、回復のためには望ましいと考えられています。
パニック障害にもいくつかの改善療法があります
パニック障害の改善には、いくつかの有効なアプローチがあります。
薬物療法
病院(精神科・心療内科)では、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれるタイプの抗うつ薬や、スルピリド、あるいは抗不安薬などが処方されることがあります。これらの薬は、パニック発作や予期不安を起きにくくする効果が期待されます。
薬によって症状が徐々に軽減され始めたら、「薬を飲まなくても、もう発作は起きないかもしれない」という自信を取り戻すことを目標に、医師の指示に従いながら、慎重に薬の量を減らしていくことが一般的です。
そして、薬物療法と並行して、あるいは薬を減らしていく段階で、後述するような心理療法・精神療法に取り組むことが、根本的な回復のためには非常に重要です。
精神療法(心理療法・カウンセリング)
パニック障害に対して、精神療法では認知行動療法や催眠療法(ヒプノセラピー)など、いくつかの治療法を組み合わせて用い、症状に対する不安感や恐怖感を軽減していくことを目指します。
まず、「パニック障害とは、どのような状態なのか?」「なぜ、自分はこれほど強い不安や恐怖を感じてしまうのか?」といったことを、正しく理解することから始めます。
そして、「自分のこの状態は、決して治らないものではない。改善できるものだ」という認識を持つことが、回復への第一歩となります。
カウンセリングを通して、発作が起こるようなストレスの原因や、ご自身の思考パターンなどを一緒に考えていきます。
そうすることにより、もしパニック発作が起きそうになったとしても、「あ、これはパニック発作の症状だな。ちょっと仕事で気を張りすぎたのかもしれない」というように、ご自身の状態を客観的に受け止め、冷静に対処できるようになるための、メンタルトレーニングなども指導していきます。
暴露療法(エクスポージャー法)
どんなに怖いと感じるお化け屋敷でも、何度も入っているうちに、だんだん怖くなくなってきますよね?
それと同じ原理を利用したのが「暴露療法」と呼ばれる行動療法の一種です。
不安や恐怖を感じる場所や状況に、あえて少しずつ、段階的に身を置いてみることで、その不安や恐怖に「慣れていく」ことを目指します。
例えば、広場恐怖のために行きづらいと感じている場所に、少しずつ行けるように練習していきます。
とはいえ、嫌いな食べ物を何度も食べても、そう簡単に嫌いな気持ちがなくならないのと同じように、「怖い」と感じる場所に自ら行くことに対して、「本当にこれで症状は改善するのだろうか?」と不安に思うでしょうし、実際に行くこと自体に、相当の勇気と覚悟が必要ですよね。
その「勇気と覚悟」を持てるように、カウンセラーと相談しながら、他の精神療法や、必要であれば医師の指示に従う薬物療法なども併用し、まずは症状を安定させることを目指します。そして、その状態に合わせて、少しずつ行動範囲を広げていくお手伝いをします。
パニック障害の背景にあるもの:気づかないストレスや性格傾向
パニック障害の引き金は、気づかないストレスかも
パニック障害に苦しむ方の多くは、もともと責任感が強く、真面目で、家事や仕事などを一生懸命、目一杯頑張っている方が多い、という印象があります。
そのため、ご自身にかかっているストレスの負荷が過大になっていることにも気づかず、休むこともままならない…。そんな状況が続くと、心身のバランスが崩れ、パニック障害を引き起こしやすい状態になっていることがあります。
ご自身では、そのストレスに気づいていない、あるいは「これくらい普通だ」と思い込んでいる方も多く、「なんで自分が、こんなパニック発作を起こしてしまうんだろう…」と、不思議に感じている方がほとんどです。
もし、あなたが毎日、何かに追い立てられるように、必死に頑張りすぎていると感じるなら、少しペースを落とし、休息をとることも大切かもしれません。
日々の生活の中で、なんとなく息苦しさを感じている、というような場合も、パニック障害の前触れである可能性があります。
完璧主義な性格が、パニック障害を招く?
何をする時でも、「完璧にこなさなくてはならない」と考える傾向が強すぎると、常に自分にプレッシャーをかけ続けることになり、徐々に心が追い詰められ、パニック障害になる可能性も高まります。
仕事や家事などにおいても、「完璧」を目指しすぎ、「ここまでキチンとできない自分はダメだ」と、すぐに自分を責めてしまう、というような場合にも、パニック障害が起こりやすくなります。
また、常に人の顔色をうかがい、周りの評価を気にしすぎて、オドオドと過ごしている場合にも、慢性的な緊張感が高まっているため、発作が起こりやすい環境と言えるでしょう。
もし、あなたがそのような思考パターンを持っていると感じるなら、その考え方や、ご自身の性格・気質に対して、変化を起こしていく必要があるかもしれません。
そして、何か行動を起こす時には、「完璧じゃなくても大丈夫」「少し肩の力を抜いてみよう」と、自分を追い詰めすぎないように心がけることが大切です。
他人思いの優しい人ほど、陥りやすい?
パニック発作を起こしやすい方は、もともと感受性が豊かで繊細な面を持ち、神経質であったり、不安や恐怖心を感じやすい方が多い、という傾向もあります。
また、「こんなことをしたら、他人に迷惑をかけてしまうのではないか…」と、自分のことよりも、つい他人の気持ちや都合を優先してしまう、優しい性格の方にも多く見られます。
そのため、パニック障害を発症すると、「発作を起こして周りに迷惑をかけたくない」という思いから、ますます人との接触を避けるようになり、対人恐怖症やうつ病へと発展してしまうことも少なくありません。
うつ病を患っている場合、もともと自責の念が強く、不安感を常に抱えている状態になりやすいため、うつ病がパニック発作の引き金となることもあります。
「逃げられない状況」や「助けてもらえないかもしれない状況」に対する恐怖は、時に、極端に人を頼りたくなる気持ち(依存心)を強めてしまうことがあります。そして、家族や友人、恋人などを困らせてしまったり、逆に、自分の思い通りにならないと、突然関係を絶ってしまったりと、人間関係に様々な影響を及ぼすこともあります
パニック発作との向き合い方:知っておきたいこと
予期せず、ある日突然襲ってくるパニック発作
パニック発作は、ほとんどの場合、何の前触れもなく、突然起こります。
一度でもパニック発作を起こし、倒れたり、救急搬送されたりといった経験があると、「あの発作が、またいつ、どこで、前触れもなく起こるかもしれない…」という予期不安に常に怯えるようになり、同じような状況を過剰に避けてしまうようになります。
また、パニック発作は、特定の場所だけでなく、自宅やその周辺など、普段慣れているはずの環境であっても起こることがあります。
もし、外出先などでパニック発作を起こした場合に備えて、
- 信頼できる身近な人に、すぐに連絡が取れるようにしておく
- 発作が起きた時に、「大丈夫だよ、そばにいるよ」「これはパニック発作だから、少し休めば必ず治まるよ」など、安心できる言葉を掛けてもらう
といった準備をしておくだけでも、心の負担が軽くなり、実際に発作が起こりにくくなる効果も期待できます。
ご自身の不安感や恐怖感を少しでも和らげるためには、リラックスすることが大切です。もし発作が起きてしまったら、まずは安全な場所に移動し、ゆっくりと深呼吸をして、発作が自然に収まるのを待つようにしましょう。
たばこ、お酒、コーヒーは要注意?
パニック障害を起こしやすい方の中には、たばこやお酒、コーヒー(カフェイン)などの嗜好品を、比較的よく摂取するという方も多くいらっしゃいます。
これらの物質に含まれる成分(ニコチン、アルコール、カフェインなど)は、一時的に気分を高揚させたり、リラックスさせたりする効果がある一方で、不足すると、かえって不安感を増幅させる原因となる可能性も指摘されています。
たばこやコーヒーなどによって、一時的に不安感が解消されるように感じられても、その効果が切れると、またすぐに不安感がぶり返してきます。
飲みすぎや吸いすぎには十分に気を付けて、パニック発作の引き金とならないように、摂取量をコントロールしていくことが大切です。
特にカフェインは、交感神経を刺激し、心臓をドキドキさせる作用があるため、パニック障害の症状を悪化させる可能性があります。摂取量には注意が必要ですね。
睡眠不足や肉体疲労は大敵!
会社勤めや家事・育児など、毎日忙しく過ごし、肉体的に疲れている状態が続くと、自律神経のバランスが乱れやすくなり、パニック発作が起きやすい状態になります。
特に、パニック障害を起こした経験のある方は、日頃から十分な睡眠(少なくても7時間程度)を心がけ、体をしっかりと休めるように努めましょう。
体に疲労物質である乳酸が溜まると、身体の倦怠感や肩こりなどを引き起こし、それがさらなる不調や不安感の原因となります。
「疲れているな」と感じたら、あまり無理をせず、意識的に休息時間を確保することも、パニック発作を予防し、症状を和らげる効果が期待できます。
家事や育児なども、完璧を目指さず、「少し手を抜いてもいいかな」くらいの気持ちで、心と体に余裕をもって取り組めると良いですね。
気になることは、一人で抱え込まずに相談を
会社や家庭内の人間関係などで悩みを抱えている場合にも、そのストレスが大きな負担となり、パニック発作を起こしやすい環境になっていると言えます。
何か不安なことや、気になることがある場合には、一人で抱え込まず、信頼できる誰かに相談して、少しでも心を落ち着けられるようにしましょう。
自分の中では「これくらい大丈夫」と思っていても、小さなストレスが知らず知らずのうちに積み重なっていき、ある日突然、パニック発作として現れる、というケースもあります。
女性においては、出産直後など、身体が大きく変化し、回復が必要な時期にも、心身への負担が大きくなりすぎると、パニック障害が起きやすいと言われています。
男性の場合も、毎日の満員電車での通勤や、職場の人間関係などが、知らず知らずのうちに大きなプレッシャーとなり、ストレスが溜まっているケースも多くあります。
何かストレスを感じているな、と感じたら、無理をしないように心がけ、しっかりと休養を取り、心身をリフレッシュさせることを意識しましょう。
パニック障害の克服に向けて:一歩ずつ前へ
広場恐怖:外出できなくなる前に
パニック障害を経験すると、「あの場所に行くと、またパニック発作を起こすのではないか…」という予期不安から、その場所に行くことが非常に困難になるケースがあります。
そして、次第に避ける場所が増えていき、行動範囲が狭まってしまい、とうとう家からほとんど出られなくなってしまう…という方もいらっしゃいます。
そういった場合には、カウンセリングなどを通して、少しずつ、安全な方法で、外に出る機会を増やしていく練習(暴露療法)をすることが有効です。
ある特定の環境に、短い時間から身を置いてみて、「ここでは発作が起きなかった」という安心体験を積み重ねることができれば、少しずつ自信を取り戻し、外出できるようになってきます。
もし、一人で外出するのが怖い場合には、信頼できる誰かと一緒に出かけてみるのも良い方法です。「発作が出なかった」という成功体験を、少しずつ積み重ねていきましょう。
前触れなく襲ってくる恐怖:どうすればいい?
特にこれといった原因が見当たらないのに、突然、強い不安感や恐怖感が襲ってくる、という場合もあります。
そんな時には、
- 慌てないこと:「また来たな」くらいの気持ちで、まずは落ち着きましょう。
- 深呼吸をする:ゆっくりと息を吸い、長く吐くことを意識します。呼吸を整えることで、自律神経のバランスが整いやすくなります。
- 安全な場所で待つ:可能であれば、ベンチに座ったり、静かな場所に移動したりして、不安が過ぎ去るのをじっと待ちましょう。
- 「大丈夫だ」と自分に言い聞かせる:「これはパニック発作だ。一時的なもので、命に別状はない。必ず治まる」と、心の中で繰り返します。
不安感による発作は、通常、数十分程度でピークを過ぎ、次第に楽になってきます。そして、「死ぬんじゃないか」と感じるほどの恐怖を感じてしまいますが、実際にパニック発作で命を落とすことはありません。
もし、何か特定の原因で不安になっている場合には、一時的にその対象から距離を置くことも有効です。
そして、少しずつ不安感に慣れていき、パニック発作をコントロールできる感覚を身につけていきましょう。
パニック障害は、適切な治療やサポートを続けていけば、必ず良くなっていく病気です。「怖いから」と、自分の殻に閉じこもってしまうのではなく、少しずつ、あなたのペースで、慣れていく方法を一緒に探していきましょう
幼少期の経験が、パニック障害に関連することも
パニック障害の発症には、幼い頃の経験が関連している場合もあります。
例えば、
- 幼少期に、両親との死別や離別を経験している
- 親が過保護や過干渉であった
- 親から無視されたり、拒絶されたりする経験があった
といった、安心感を得られない環境で育った場合、パニック発作を起こしやすい傾向がある、という研究結果も出ています。
幼い頃から、母親と離れることを極端に怖がったり(分離不安)、何らかの理由で母親や両親と離れて暮らすことになったり、あるいは母親から虐待を受けていたり…といったケースでは、子どもは無意識のうちに「良い子でいなければ」と、自分の本当の感情(特に怒りなど)を抑え込むようになります。
そして、その抑圧されたストレスが限界に達した時に、パニック発作という形で現れる、という場合もあるのです。
また、親が過度に子どもを心配し、常に不安な言葉をかけていると、子ども自身も不安を感じやすい性格になり、それがパニック発作を起こしやすい素地を作ってしまう、という事例もあります。
生育環境は、その人の人格形成に大きな影響を与えます。ですから、親としての子どもに対する関わり方は、非常に重要であると言えるでしょう。
パニック障害にも陥りやすい性格がある?
パニック障害になりやすい方の性格傾向として、
- もともと人見知りであったり、恥ずかしがり屋であったりする
- 人前で何かをすることを、極端に恥ずかしいと思うことが多い
- 完璧主義で、何かできないことがあると、すぐに「自分はダメだ」と感じてしまう
といった点が挙げられることがあります。
恥ずかしがり屋な性格の場合、「もしパニック発作を起こしたら、周りの人から注目されてしまい、とても恥ずかしい」と感じてしまい、人の多い環境に出ることが怖くなってしまう、というケースもあります。
また、完璧主義な傾向があると、ちょっとした失敗や、思い通りにいかないことに対しても、「自分はダメだ」とネガティブな感情を抱きやすく、それが不安感や恐怖感につながり、動悸やめまいといった身体症状を引き起こすこともあります。
もし、あなたがこのようなネガティブな感情に支配されやすいと感じるなら、その考え方の癖を少しずつ変えていくことを、積極的に求めていく必要があるでしょう。
身近な人の死や別離などが、引き金になる場合も
パニック障害は若い女性に多いとされていますが、その発症の引き金となる出来事として、身近な近親者の死や、恋人との突然の別離などが挙げられることもあります。
ずっと一緒にいて、心から信頼していた人と、突然離ればなれになってしまう…。そんな喪失体験は、心に大きな穴を開け、強い不安感や恐怖心を生み出し、毎日が恐怖でいっぱいになってしまう、ということもあり得ます。
そうなると、日々感じる不安やストレスも大きくなり、それが心の中で限界に達した時に、パニック発作という形で爆発してしまう、ということもあるのです。
もし、あなたの中に何か大きな異変を感じたら、決して無理をせず、まずはしっかりと休息をとるようにしましょう。
そして、自分の中にある悲しみや怒り、つらさといった感情に蓋をしないでください。信頼できる誰かに話を聞いてもらったり、思い切り泣いたりして、ストレスを溜め込まないようにすることも大切です。
「こんなことでパニックになるなんて、自分は弱い人間だ…」などと、自分を責める必要はありません。「今、自分はこんなことがつらいんだな」と、ありのままの自分の気持ちを受け入れること。それだけでも、状況は少しずつ変わっていくはずです。
パニック発作が起きた時の対処法
もし、パニック発作が起きてしまったら、
- 慌てない:「発作が来たな」と冷静に受け止め、まずは落ち着くことを目指しましょう。
- 安全な場所へ移動する:可能であれば、ベンチに座ったり、壁際などにもたれかかったり、人通りの少ない場所に移動したりして、身体を休められる場所を探しましょう。立っているのがつらい場合は、しゃがみ込んだり、横になったりしても構いません。
- ゆっくりと呼吸する:特に、息をゆっくりと長く吐くことを意識しましょう。吸う息よりも吐く息を長くすることで、副交感神経が優位になり、リラックスしやすくなります。(例:4秒かけて吸い、6~8秒かけて吐く)
- 頓服薬を使用する:もし医師から、発作時に服用する薬(頓服薬)を処方されている場合は、指示通りに服用しましょう。
- 安心できる人に連絡する:可能であれば、信頼できる家族や友人に連絡を取り、「今、発作が起きているから、少し話を聞いてほしい」などと伝え、声を聞くだけでも安心できることがあります。
- 「必ず治まる」と信じる:パニック発作は、非常につらいものですが、必ず数分~数十分でピークを越え、次第に治まっていきます。そのことを思い出し、「大丈夫、もうすぐ楽になる」と自分に言い聞かせましょう。
とにかく、あまり大慌てせず、じっくりと構えて、落ち着くまで待つことが大切です。
パニック障害回避にはストレス処理が必須
「ストレスを感じているな」と思う場合には、まず、そのストレスの原因となっている対象から、少し距離を置いてみることも有効です。
もし、それが仕事や家庭の事情などで難しい場合には、関わる時間を短くしたり、関わり方を変えたりするなど、できる範囲でストレスを軽減する工夫をしてみましょう。
「何がストレスになっているのか分からない」という場合などもありますよね。
そのような場合には、無理をしないで、まずはしっかりと規則正しい生活を送り、バランスの取れた食事や質の高い睡眠などをきちんととるようにしましょう。
目まぐるしく変化している現代社会においては、人は誰しもストレスを抱えているものです。できれば周りの人たちとも平穏に付き合い、常にストレスの軽減に努めることが大切です。
あまりにストレスの原因になるようなことがあれば、その原因となる人や状況や環境から離れることなども考えましょう。ストレスの原因を少なくすることで、パニック発作が収まっていくケースもあります。
つらい気持ちや怒りの感情などは、心に蓋をしてしまわないで、誰かに話すことで、解放して落ち着かせていくのも良いでしょう。
環境に慣れていくことで、パニック障害に対応する
身体や心が極限状態に達している時にパニック障害は起こりやすくなっています。ですから、パニック発作が起こったなら、「あぁ、今の自分には無理や負担が掛かっているのだな」という体からのサインだと受け止め、あまり無理はしないようにしましょう。
そして、体調が少し良くなってきたら、少しずつ、その苦手だと感じていた環境に慣れていきましょう。パニックを起こした環境にも、短い時間から身を置いてみて、少しずつ慣らしていくなど、段階的に対応できるといいでしょう。
予期不安に陥って、外に出ることも怖くなってしまうこともありますが、
- パニック障害は命に関わるものではないということ
- 発作は必ず僅かな時間で収まっていくものであること
この2点をしっかりと認識し、理解すること。そして、少しずつ苦手な状況に対応していくこと。これが大切です。
「どうしよう…」とただ不安に苛まれるよりも、「大丈夫だ」と思えれば最高なのですが、なかなかそう簡単にはいかないものです。もしパニック発作のような症状を感じたら、できるだけ早い段階で、パニック障害の改善への取り組みを始めることが大切です。
症状がひどい場合には、薬物療法も有効な場合があります。しかし、それと同時に、あるいは薬に頼らずに、カウンセリングなどを通して、ご自身の心の中を落ち着かせ、整理し、漠然とした不安や恐怖の正体を掴めるようになること。それこそが、パニック障害の根本的な改善に大きく貢献します。
一人で怖いと悩み続ける必要はありません。
カウンセリングなどでその恐怖心を少しでも改善していけるように、聖心こころセラピーでは精神療法(認知行動療法など)や、必要に応じて暴露療法などを通して、あなたの回復をサポートしていきます。
パニック障害について、正しい知識を持ち、ご自身に合った適切な対応をしていけるように、一緒に努めていきましょう。
自分の心にかかるストレスを正しく認識し、それを緩和・克服していけるように、心の持ち方を変えていくことも、とても有効なアプローチです。
一人で悩まないで、その心の重荷を私たちに預けてみませんか?
一緒に、カウンセリングと心理療法を用いて、改善・克服を目指しましょう。
参考文献・参考資料
- 熊野宏昭(2014) パニック障害の認知行動療法 不安症研究 第6巻 第1号
- 関陽一(執筆・編集),清水栄司(監修)(2016)『パニック障害(パニック症) の認知行動療法マニュアル(治療者用)』 厚生労働省
- アメリカ精神医学会(著),日本精神神経学会(監訳)(2023)『DSM-5-TR 精神 疾患の診断・統計マニュアル テキスト改訂版』 医学書院