強迫性障害カウンセリング

強迫性障害・強迫神経症とは、まるで下り坂を駆け出してしまい、止まりたくても止まれない状態と似ています。ご自身の意志ではどうしようもないほどの、強い「強迫観念」の呪縛から逃れられないのです。代表的なものに「潔癖症」がありますが、いくら周りが「それはおかしいよ」と正論で説得しても、ご本人の苦しみは解消されません。認知行動療法などの心理療法が有効な場合があります。
強迫性障害の辛さは、本人にしか分かりません
強迫性障害・強迫神経症とは、「それをしなければ、自分がどうにかなってしまうのではないか」という強い不安に駆られ、その行動をせずには気持ちが治まらない、という症状を指します。
強迫観念と強迫行為

例えば、「家の鍵をちゃんと掛けてきただろうか?」という心配が頭から離れず、何度も家に戻って確認してしまう。あるいは、「手にバイ菌が付いている気がする」という不安から、執拗に手を洗い続けてしまう…。このように、心の中に湧き上がる強い不安(強迫観念)を打ち消すために、執拗に何度も確認行動を繰り返したり、過剰な行動をとったりしてしまいます。
この症状の大きな特徴として、ご本人も、ご自身の考え(強迫観念)や、それに基づいて起こしている行動(強迫行為)を、「やりすぎだ」「馬鹿げている」「そんなはずはないのに」と、心のどこかでは分かっている、という点が挙げられます。
ですから、いくら周りの人が「大丈夫だよ」「そんなにやり過ぎなくても平気だよ」と、正論で説得しようとしても、ご本人もそれは十分に分かった上で、やむにやまれずその行動をとってしまっているのです。そのため、周りの人の正論に基づいた助言は、残念ながらあまり意味がなく、効果も期待できません。
強迫性障害・強迫神経症は、不合理な考えやイメージである「強迫観念」と、その不安を打ち消すための特定の行動である「強迫行為」という、2つの症状から成り立っています。
強迫観念が高まると、それを振り払うのは非常に困難です
強迫性障害・強迫神経症における「強迫観念」とは、特定の事柄や考えが頭の中を支配してしまい、繰り返し浮かんできて、なかなか消すことができない思考や、あるいは「急に何かを実行したくなる」という衝動、さらには「突然、頭の中に特定のイメージが浮かんでくる」といったものです。そして、それによって、強い不安や恐怖、不快感などが引き起こされます。
その繰り返される思考やイメージを、自分の意志で振り払おうとしても、なかなか振り払うことが難しく、ご本人にしか分からない、非常につらい苦しみを伴うのが特徴です。
強迫観念の6つの定義(DSM-5に基づく要約)
強迫観念は、専門的には以下のように定義されます。
- 繰り返し、そして持続的に頭の中に浮かんでくる、望まない考え、衝動、またはイメージであり、多くの場合は強い不安や苦痛を引き起こす。
- その思考、衝動、またはイメージを、無視したり、抑え込もうとしたり、あるいは何か他の思考や行動によって打ち消そう(中和しよう)と試みる。
- その思考、衝動、またはイメージは、自分自身の心が生み出したものであると認識している(※妄想のように、外部から挿入されたものとは感じていない)。
- (内容によるが)その考えや衝動自体は、日常生活における現実的な問題についての、単なる過剰な心配ではない。
- (上記と関連し)本人はその思考に強い苦痛を感じており、捨て去りたいと考えている。
- (特に子どもの場合)その思考や衝動が、非現実的または不合理であると認識している場合がある(※必ずしも認識しているとは限らない)。
代表的な14の強迫観念の例
強迫観念の内容は、人によって様々ですが、代表的なものとしては以下のようなものが挙げられます。
- 汚染・不潔への恐怖: 汚れやバイ菌などが自分の体や持ち物に付着しているのではないか、と過剰に気になる。
- 加害恐怖: 自分の不注意や行動によって、誰かを傷つけてしまうのではないか、あるいはすでに傷つけてしまったのではないか、と心配になる。(例:人を階段から突き落とす、車で人を轢いてしまう、放火するなど、暴力的な考えや場面が頭に浮かんで離れない。)
- 確認強迫に関連する疑念: 戸締りやガスの元栓、電気などを消し忘れたのではないか、と繰り返し心配になる。
- 不完全恐怖: 物事が完璧でなかったり、対称でなかったり、特定の順序でなかったりすると、強い不快感や不安を感じる。(例:物が綺麗にきっちり並んでいないと気になる。少しのズレも許せない。)
- 収集・貯蔵強迫: 不要な物、価値のない物を捨てることができず、溜め込んでしまう。(※現在は別の診断名「ホーディング障害」として分類されることもあります)
- 性的・宗教的な強迫観念: 不道徳、あるいは冒涜的と感じるような性的・宗教的な考えやイメージが、繰り返し頭に浮かんでしまう。
- 規則・迷信へのこだわり: 特定のジンクス、縁起、神秘的・宗教的な規則などを過剰に気にし、それに従わないと悪いことが起こるのではないかと不安になる。
- 正確さへのこだわり: 間違った言葉遣いをしているのではないか、あるいはしてしまうのではないか、と過度に心配になる。
- 損失恐怖: 大事なものや、必要な物を誤って捨ててしまうのではないか、と心配になる。
- 健康・疾病への恐怖: 有害物質や放射能などが、自分や他人を害するのではないか、と過度に心配する。(※病気不安症(心気症)との関連も考えられます)
- 道徳・倫理観へのこだわり: 自分がしていることは、人として間違っているのではないか、と常に不安になる。
- 身体感覚へのこだわり: 自分の体から発する音(おならや、お腹が鳴る音など)を非常に気にしてしまい、学校や日常生活に支障が出る。(※過敏性腸症候群との関連も考えられます)
- 知識・記憶へのこだわり: 自分が専門としていることや、知っておくべきことは、全て完璧に知っていたり、覚えていたりしなければならない、と感じる。
- 他者への影響への懸念: 自分の汚れや、何らかの良くない影響を、周りに撒き散らしてしまい、他人に迷惑を掛けるのではないか、と感じる。
これらの例を見て、「自分も、日常生活の中で、いくつか気にしたことがあるな」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。ただ、多くの場合、たとえ一時的に気になったとしても、「まあ、大丈夫だろう」「そこまで気にすることもないか」と思い直し、他の考え事(例えば、仕事のことや、友人との約束のことなど)を優先させることができるはずです。
しかし、強迫性障害の方は、この「気になる」という感情や思考が、他のどんな考えよりも優先してしまい、その不安や不快感をまず何とかしなければならない、と感じて、「強迫行為」へと駆り立てられてしまうのです。
強迫観念を振り払おうとすることが「強迫行為」です
強迫性障害・強迫神経症における「強迫観念」によって引き起こされる、強い恐怖や不安を、少しでも和らげよう、打ち消そうとして行う行動のことを、「強迫行為」と言います。

一時的な安心感と悪循環
しかし、残念ながら、「強迫行為」を実行しても、「強迫観念」が完全に消え去るわけではありません。その効果は一時的なものであり、いわば気休めにしかならず、しばらくすれば、また同じ「強迫観念」に襲われ、つらい思いを繰り返すことになってしまうのです。
強迫行為の定義(DSM-5に基づく要約)
強迫行為は、専門的には以下のように定義されます。
- 繰り返される行動(例:手を洗う、順番に並べる、戸締りを確認するなど)、または心の中の行為(例:お祈りをする、数を数える、特定の言葉を心の中で繰り返すなど)であり、その人は強迫観念に対応して、あるいは厳格に適用しなければならないと感じている一定のルールに従って、それらの行為を行わざるを得ない、と感じている。
- それらの行動または心の中の行為は、不安や苦痛を予防したり、緩和したりすること、あるいは何か恐れている出来事や状況を回避することを目的としている。しかし、それらの行動または心の中の行為は、それによって中和したり予防したりしようとしている事柄とは、現実的な意味で繋がっていなかったり、あるいは明らかに過剰であったりする。
強迫性障害の代表的な「強迫行為」の例
強迫行為の内容も、人によって様々ですが、代表的なものとしては以下のようなものが挙げられます。
- 洗浄・清掃: 何度も手を洗う、長時間シャワーやお風呂に入る、トイレ掃除を執拗に行うなど。
- 確認行為: 家の戸締り、ガスの元栓、電気のスイッチ、持ち物などを、何度も何度も確認する。
- 儀式的な行為: 特定の順序で物事を行わないと気が済まない、特定の数字や言葉を繰り返す、対称性や正確さに異常にこだわるなど。
- 収集・貯蔵: 不要な物を捨てられずに溜め込んでしまう。(ホーディング)
- 精神的な儀式: 不安を打ち消すために、心の中で特定のお祈りをしたり、特定の言葉を繰り返したりする。
- 繰り返し行為: 文章の同じ所を何度も読み返したり、書き直したりする。同じ場所を行ったり来たりする。
- 保証を求める行為: 「自分の発言で、相手を傷つけたのではないか?」「これから傷つけてしまうのではないか?」と不安になり、周りの人に何度も確認を求める。
- 回避行動: 強迫観念を引き起こすような場所や状況(例:汚れていると感じる場所、人混みなど)を、徹底的に避ける。
強迫観念と強迫行為の「悪循環」から抜け出そう
何らかの刺激(例えば、外出してドアノブに触れるなど)によって、「汚れてしまったのではないか?」といった強迫観念が生まれると、強い不安を感じます。その不安を少しでも和らげようとして、強迫行為(例えば、家に帰って何度も手を洗う)を行うと、一時的な安心感を得られたような気持ちになります。
悪循環のメカニズム
しかし、それはあくまで一時的なものであり、根本的な不安が解消されたわけではないため、しばらくすると、また再び不安な気持ち(強迫観念)が湧き上がり、それを打ち消すために、同じ強迫行為を繰り返すことになります。
そうして強迫行為を繰り返していくうちに、場合によっては、その行動がどんどんエスカレートしていく(例えば、手洗いの時間が長くなったり、洗う回数が増えたりする)… という「悪循環」が生まれてしまうのです。
日常生活への影響
この悪循環が生まれると、今度は日常生活そのものに大きな影響が出てきます。強迫観念がますます強くなるあまり、「あんな怖い思い、つらい思いは、もうしたくない」と感じ、強迫観念が起こりそうな場所や状況、あるいは強迫行為をしてしまいそうな場所や状況を、意識的に避けるようになり始めます(回避行動)。
そして、その対象を避ければ避けるほど、それに対する苦手意識や恐怖心はさらに高まり、ますますその対象を避けるようになる… という、もう一つの悪循環が生まれてしまいます。苦手なもの、避けるものが増えていけばいくほど、行動範囲は狭まり、日常生活を送ることが、どんどんつらくなっていきます。
「仕事に行きたいのに、電車に乗るのが怖くて行けない」「家事をしなければいけないのに、汚れが気になって何も手につかない」… そんな風に、「頭ではやるべきだと分かっているのに、それができない」という、非常につらい「負のスパイラル」に陥ってしまうのです。
強迫性障害・強迫神経症の原因について
強迫性障害・強迫神経症の方は、「どうして自分が、こんな症状に苦しまなければならないのだろう…」と、その原因がよく分からない、と感じている場合がほとんどです。しかし、強迫性障害に陥る方には、いくつかの共通する背景や要因が見られることがあります。
家庭環境の影響
その共通点として、「非常に厳格な親」「過度に心配性な親」「いつも愚痴ばかりこぼしている親」などが挙げられます。
例えば、非常に厳格な親に育てられた場合、失敗することを極端に恐れ、「完璧」でなければならない、という考え方(完璧主義)になりやすい傾向があります。また、過度に心配性な親に育てられた場合、常に物事の悪い側面ばかりを考えてしまい、過剰な不安を抱えやすくなることがあります。さらに、いつも愚痴ばかりこぼしている親に育てられた場合、「周りの人は、陰で自分の悪口を言っているのではないか…」といった、他人への不信感を抱きやすくなるかもしれません。
親子関係と心の土台
そのような親御さんに育てられたご家庭では、お子さんが「ありのままの自分」を受け入れてもらう経験が乏しくなりがちです。そのため、ほんの少しのことでも自分を許すことができず、過剰に反応してしまったり、白か黒か、といった曖昧さを許容できない考え方(精神)が、身につきやすくなったりする…。このように、この症状の根本的な原因は、親子関係に起因する部分が大きいのではないか、と私(カウンセラー)は考えています。
そして、実際に、その視点(スタンス)でカウンセリングを行うことによって、多くの方が改善への道を歩まれています。
強迫性障害・強迫神経症の改善・克服に向けて
厚生労働省の「強迫性障害(強迫症)の認知行動療法マニュアル」を見ると、強迫性障害の克服には、心理療法やカウンセリングが有効であることが記載されています。強迫性障害の代表的な治療方法の一つに、「暴露反応妨害法(ERP)」という心理療法があります。
暴露反応妨害法(ERP)とは
暴露反応妨害法というのは、まず、あなたが苦手だと感じて避けているもの(つまり、強迫観念を引き起こすきっかけとなる物や状況)に、あえて少しずつ挑戦していくことで、それに対する苦手意識や不安感を減らしていく「暴露法」と、そして、強迫観念が浮かんできた時に、「これをしなければならない」と感じている特定の行動(強迫行為)を、あえてしないように我慢していく「反応妨害法」という、二つのアプローチを組み合わせた療法です。
つまり、「暴露法」によって「強迫観念」への耐性をつけ、「反応妨害法」によって「強迫行為」を減らしていくことで、これまで繰り返されてきた悪循環を断ち切ることを目指す方法です。
ただし、この暴露反応妨害法は、専門家の指導のもとで、段階的に、そして慎重に行う必要があります。ご自身の判断だけで中途半端に行ってしまうと、かえって症状を悪化させてしまう恐れもありますので、ご家族など、専門家ではない方との間で行うことは、避けた方が賢明です。
その他の心理療法
その他にも、聖心こころセラピーでは、物事の捉え方や考え方の偏りを修正していく「認知行動療法」や、自動的に頭の中に浮かんでくる強迫観念に対して、距離をとったり、受け流したりする練習をする「心理療法」などを、ご本人の状態やご希望に応じて組み合わせながら、強迫性障害・強迫神経症からの回復(脱却)を図っていきます。
そもそも強迫性障害とは?(再確認)
強迫性障害とは、頭の中に繰り返し浮かんできてしまう、不快で不合理な考えやイメージ(強迫観念)に対して、それを何とかして打ち消そう、振り払おうとして、特定の行動(強迫行為)を繰り返さずにはいられなくなる状態を言います。例えば、手を何度も何度も洗う、鍵が閉まっているか、何度も何度も確認する…。
それは、周りから見れば、明らかに異常な行動に見えるかもしれません。そして、ご本人も、「こんなことにこだわるのはおかしい」「馬鹿げている」と、心のどこかでは分かっているのに、それでもやめることができない…。そのジレンマに、深く苦しんでしまうのです。
ストレスと強迫性障害との関連
強迫性障害の症状は、その時のストレスの度合いや、疲れ、睡眠の状態などによって、強迫行為をコントロールしやすい時と、しにくい時が変わってきます。
症状の波と悪化要因
外部からのストレス(例えば、仕事のプレッシャーや、人間関係のトラブルなど)によって、症状が悪化することがよくあります。状態が悪くなると、不安や「何か不完全だ」という感覚(不全感)に対して、非常に敏感になってしまいます。そのため、いくら強迫行為を繰り返しても、なかなか安心感が得られず、いつまで経っても、その行動をやめることができません。そして、知らず知らずのうちに、その行為自体を繰り返すことに、ある種の意地のようになってしまい、結果として、その行動パターンが固定化されてしまいます。
逆に、何か良い出来事があったり、心身の状態が良い時には、普段なら気になってしまうような強迫観念が浮かんでも、案外それに囚われずに、無視できたりすることもあります。しかし、そうではなく、少しでも不安な気持ちに支配されてしまうと、安心感を得るために、また強迫行為に頼ってしまいます。それでも、心の底からの安心感や、「これで完璧だ」という感覚(不全感の解消)は得られず、際限なく行為を繰り返してしまう状態に陥るのです。
性格傾向との関連
強迫性障害の原因としては、これまで述べてきたように、本来の性格傾向(例えば、完璧主義、責任感が強い、心配性など)や、周りの環境(例えば、厳しい家庭環境など)の影響が大きいと考えられています。比較的、精神的に余裕のある時(例えば、時間に追われていない時など)に、かえって症状が現れやすかったり、あるいは、知的な能力が高い(教養レベルの高い)人にも、起こりやすい症状である、とも言われています。
親が子を巻き込む、強迫性障害の連鎖
お子さんが強迫性障害になり、例えば、洋服を必要以上に何度も洗濯したり、手を異常なほど洗い続けたり、といった行動が見られる場合、実はその背景に、ご両親(特に母親)が、すでに強迫性障害(あるいは、その傾向)にかかっており、その影響がお子さんに出ている、というケースも、よく見られます。
親から子への影響
例えば、お子さんが学校から帰ってくると、お母さんが「そんな汚れたまま、家に入らないで!」と言って、すぐにシャワーを浴びさせ、持ち物(カバンや文房具など)のすべてを、除菌シートで念入りに拭いてしまう、といった場合。あるいは、お子さんが友達と遊びに出かけていると、「何か事故に巻き込まれているのではないか…」と過剰に心配になり、何度もメールや電話で無事を確認してくる、といった場合。さらには、休日に家族で出かけようとする時に、ほんの少しでも予定の時間がズレてしまうと、ひどく不安になり、家族をせかしたり、イライラして叱りつけたりする、といった場合などが挙げられます。
もし、親御さんに強迫性障害の症状が出ている場合、できる限りお子さんを巻き込まないように、配慮することが大切です。可能な範囲で、お子さんにも状況を説明し、「あなたのせいではないんだよ」ということを、きちんと伝えてあげる必要があります。ご家族自身も、病気や対応について正しく学び、一人で抱え込まずに、専門家のサポートなどを求めることが必要でしょう。
強迫性障害による子どもへの行為には、注意が必要です
強迫性障害にかかると、「常に清潔にしておかなければならない」「万全の対策をとらなければならない」といった考えに、強く囚われてしまいます。
不適切な養育(マルトリートメント)のリスク
しかし、その思いが強すぎるあまり、お子さんにとっては過干渉になってしまったり、あるいは、お子さんの心を傷つけるような言動をとってしまったり… それが、結果的に「不適切な養育(マルトリートメント)」になってしまう可能性もあるのです。
親御さんご自身では気づかないうちに、強迫性障害の症状が現れてしまい、必要以上に清潔にすることを、お子さんやパートナーにまで要求してしまったり、あるいは、過剰な心配から、何度も確認をとるような行動を繰り返したり…。そうした行動によって、周りのご家族も、「何かおかしいな…」「ちょっとやりすぎではないか…」と不快感を抱いていることもあります。
もし、そうした症状が強迫性障害によるものである、とご家族が理解し、適切に対応できれば良いのですが、それが分からないまま過ごしていると、周りの大切な人に、大きな精神的な影響を与えてしまうケースもあります。
強迫性障害により、うつ病などを併発するケースも
強迫性障害の症状や、それによる苦しみが深刻になると、うつ病や、他の不安症などを併発する可能性も高まります。
うつ病との関連
うつ病の場合には、もともと物事を悲観的に考えがちで、強迫的な観念(例えば、「自分はダメな人間だ」「将来に希望はない」といった考え)が強い人も多く、「死んでしまうのではないか」といった強い不安や、「自分は絶望的な状況にある」という気持ちに、常に苛まれていることが多いです。また、強迫症状に長く悩まされることで、精神的に疲れ果て、二次的にうつ病を発症していく、というケースもあります。
そうならないためにも、強迫性障害をきちんと理解し、早期から適切な対策を立てていくことが、必要になるでしょう。
発達障害との関連
また、発達障害(特に自閉スペクトラム症など)がある場合にも、強迫行為によく似た、強いこだわりや、常同行動を示すことがあります。そのため、その症状が強迫性障害によるものなのか、発達障害の特性によるものなのか、その見極めは、専門家にとってもなかなか難しい場合があります。
強迫性障害で、家庭内暴力や引きこもりに発展することも
強迫性障害の症状が強くなると、その強迫観念を打ち消すために、周りから見ると無意味に思えるような「儀式」(例えば、特定の順序で物事を繰り返す、特定の回数だけ何かを行うなど)を、延々と繰り返してしまうことがあります。
周囲を巻き込む強迫行為
そして、その「儀式」を、ご家族にまで強要してしまうケースもあります。もし、ご家族がそれに従わないと、激しく怒り出し、家庭内暴力にまで発展してしまう場合も出てきます。
また、強迫行為(例えば、確認行為や洗浄行為など)に、あまりにも多くの時間とエネルギーを費やしてしまい、家から一歩も出られなくなってしまうことで、結果的に引きこもりの状態になってしまう、というケースもあります。
どの場合においても、ご本人が適切な強迫性障害の改善に向けた取り組みを始めることが必要です。そして、周りのご家族も、ご本人が再び通常の社会生活を営めるように、根気強く、そして適切に援助していく必要が出てきます。
強迫性障害には「認知的タイプ」と「運動性タイプ」がある?
強迫性障害の現れ方として、大きく二つのタイプに分けて考えることもできるかもしれません。
認知的タイプ(思考・観念が中心)
一つは、「認知的タイプ」です。これは、頭から離れない特定の考えや不安(強迫観念)に対応するために、「本当は止めたい」と思いながらも、特定の行動(強迫行為)を繰り返さずにはいられないタイプです。代表的な例としては、汚染されることへの恐怖(汚染恐怖)から、何度も手を洗ってしまう行為や、火事になるのではないかと心配で、ガスコンロの火を消したかどうかを、何度も何度も確認してしまう行為などが挙げられます。
運動性タイプ(感覚・行為が中心)
もう一つは、「運動性タイプ」とでも呼べるかもしれません。このタイプでは、不安の増大や心配事といった認知的なプロセスは、必ずしもはっきりとはしていませんが、何か特定の行動を行う際に、「これで完璧だ」「しっくりくる」という、ある種の「ピッタリ感」を求めて、その行為を繰り返してしまう、という特徴があります。
例えば、ドアの鍵を閉める際に、カチャッと閉まるその感覚が、ご自身の中で「ピッタリくる」まで、何度も何度も鍵を閉め直したりします。これは、単に「鍵が閉まっているかどうか不安だから」という理由から来る行為というよりは、むしろ、その行為自体がもたらす、主観的な「ピッタリ感」を求めて繰り返してしまうため、いつまで経っても納得できずに、その場から動けなくなってしまう、ということがあります。
ある意味、職人気質のような、完璧さへのこだわり、とも言えるかもしれません。しかし、この「ピタッと感」へのこだわりには、残念ながら、周りからの賛美も、称賛も、そして実質的な利益も、伴いません。
人を傷つける恐怖から、引きこもってしまう強迫性障害
ご自身の中に、「誰かを傷つけてしまうのではないか」という加害意識が強く出てくるのも、強迫性障害(特に強迫観念)の一つの特徴です。
加害恐怖と回避行動
例えば、「自分の言葉で、誰かを深く傷つけてしまうのではないか…」「もし外に出たら、誰かに危害を加えてしまうのではないか…」といった強迫観念に襲われ、その結果、部屋から出ずに一人で閉じこもり、「誰も傷つけないように」と過ごしている、という場合もあります。
周りから見れば、「どう見ても考えすぎだよ」と思われるようなことでも、ご本人にとっては、その恐ろしい考えが頭から離れず、外出などを極力避けるようになってしまいます。「車を運転すると、人を轢いてしまうのではないか…」「誰かと話すと、自分の言葉で相手を傷つけてしまうのではないか…」と考え、口数が極端に少なくなってしまう、という場合もあります。
また、その恐ろしい考えから気を逸らすために、何か特定のおまじないを唱えたり、一見すると全く関係のない、無意味な行為を繰り返したりして、気を散らそうと考えることも多いです。
強迫行為は、他の人の目がある時には、一時的に抑えることができる場合もあります。しかし、ご自身の心の中では、常に不安や「何か不完全だ」という感覚(不全感)などが渦巻いており、「心配で、この行為をやめることができない…」という状況になっています。
ご本人にとっては、本当につらく、苦しいことなのです。
物の配置が気になり、人を部屋に呼べない場合も
特に若い男性などに多い症状として、例えば、リモコンや洋服、本などの物の配置が、ご自身の中で厳密に決まっていて、それが少しでもズレていると、ひどく気になってイライラしてしまう、という場合もあります。
こだわりと対人関係への影響
これも、一種の強迫性障害(秩序・対称性へのこだわり)と言えます。そして、それが原因で、家に人を呼ぶことができなかったり、あるいは、「こんなに細かい自分を好きになってくれる女性(男性)など、いるはずがない…」と思い込み、恋人ができない、と悩んでしまうケースもあります。ご自身の強いこだわりから少しでも外れるようなことがあると、途端に不機嫌になったり、強い不安を感じたりします。
また、「こだわり」に関連する言葉によって、人を傷つけてしまうのではないか、と考えている場合には、その「こだわり」について話すこと自体が、何か悪いことを引き起こすのではないか、と考え、話すことそのものを避けてしまう傾向があります。
強迫性障害の原因となるものは?
強迫性障害の原因として、脳内の神経伝達物質である「セロトニン」の調節が、上手くいっていないことが関係しているのではないか、という生物学的な仮説がありますが、まだ完全には解明されていません。脳画像の研究では、強迫性障害の方の場合、脳の特定の領域(前頭葉、大脳基底核、帯状束など)の代謝や血流が、通常よりも活発になっている、という指摘もあります。
遺伝的要因と環境要因
遺伝的な要因としては、強迫性障害を持つ患者さんの近親者には、強迫性障害、あるいはその傾向にある人が、一般よりも3~5倍多い、とも言われています。
また、対人関係の問題が、症状の発症や悪化に関係している場合もあります。強迫性障害で苦しむ人の多くは、例えば、近親者の死や、ご自身の妊娠・出産、あるいは性的な問題といった、人生における大きな出来事やストレスの後に、発症しているケースが、比較的多く見られます。その他にも、出産や育児といった、生活環境の大きな変化によるストレスが引き金となったり、症状を悪化させたりする場合もあります。
完璧を目指す思い込みから、強迫性障害に
強迫性障害になる方の背景には、「自分のことを、きちんと、できれば完璧にしなければならない」と、強く思い込んでいるケースが多い、という特徴も挙げられます。
完璧主義と成長過程
その成長過程において、常に完璧に物事をこなすように、親御さんなどから厳しく育てられてきた場合に、何か心配なことがあると、それを完全に払拭するために、過剰な行動を起こそうとしてしまいます。
親御さんが非常に心配性で、いつも不安を口にしていた、というような場合には、お子さんも不安を持ちやすくなりますし、いつも親御さんからけなされて育ってきた、という場合には、けなされないようにと、常に無理な努力を続けてきた、ということもあるかもしれません。
そういった親子関係や、そこで身につけてしまった考え方のパターンを変えていくことでも、強迫性障害の症状が改善していくこともあります。
自分を認めること
「自分の中に、悪い感情が起こってしまうこともある」「完璧にこなせない自分もいる」… そんな不完全な自分自身をも、あるがままに認めることができるようになると、少しずつ症状が和らいでくることもあります。
元々、勉強や仕事がよくできる、優秀な人にも、強迫性障害は多く見られます。
強迫性障害に巻き込まれぬよう、ご家族は適切な距離を置くことも大切です
もし、ご家族の中に強迫性障害の方がいらっしゃる場合、ご家族は、その方の強迫行為に協力したり、付き合ったりしてはいけません。強迫行為に加担してしまうと、かえって症状を悪化させてしまう可能性があるからです。「強迫行為には付き合わない」という一貫したスタンスで接していくことが、ご本人の回復のためにも必要になります。
家族の対応と境界線
ご本人が、ご自身の持つ強迫観念によって、ご家族にも同じような行為を強要したり、従わないと怒鳴ったり、不安を煽ったりすることもあるかもしれません。しかし、そのような場合でも、そこは感情的に巻き込まれず、しっかりと距離を置く(心理的な境界線を引く)必要が出てきます。
ご本人が、規則正しい生活リズムを取り戻せるように、側面から援助していくことも必要です。強迫性障害という病気に対する正しい理解に努め、症状が一進一退したとしても、焦ってせかしたり、一緒に落ち込んだりしないで、根気強く対応していくことが肝要です。また、強迫性障害に関してや、そのご本人に対して、過度の罪悪感や責任感(「自分のせいではないか…」など)を持つことも、やめましょう。
強迫観念が浮かんでも、不安は一定期間で収まることを知る
強迫観念が頭に浮かんできたとしても、多くの場合、その不安や不快感は、永遠に続くわけではありません。何もしなくても、一定の時間が過ぎると、自然と消えていくものです。そのことが、頭だけでなく、体験として理解できるようになると、強迫行為に頼らなくても、しばらく行動をとらずにいることで、気持ちが落ち着いてくる、ということを学んでいけます。
不安と向き合う練習
強迫性障害の治療(特に暴露反応妨害法)においては、その強迫観念が浮かんできた状態を、あえてそのまま、何もせずに過ごし、強迫行為に頼らなくても、不安感が時間とともに自然に消えていくことを、繰り返し実感していくことが重要です。そうすることで、強迫行為を行う頻度を、少しずつ減らしていくことを目指します。
例えば、手を洗う行為なども、「一度、きちんと手を洗えば、それで病気になることはないんだ」ということを、頭で理解するだけでなく、体感的に理解することで、過度な手洗いを止めていくことも可能になります。潔癖症などにおいても同様で、少しずつ苦手な刺激に慣れていくことで、「不安感は一時的に襲ってきても、必ず消えていくんだ」ということを、次第に実感できるようになります。
強迫性障害の脱却は、自分の性格(考え方の癖)を顧みることから
強迫性障害に陥ってしまう場合、「一体、何が自分をそこまで不安にさせるのだろうか?」と、その根本原因をよく考えてみることも、改善への第一歩となります。
自己理解と客観視
自分がどんなことに不安を感じやすく、その結果、どのような行動(強迫行為)をとってしまうのか、そのパターンを把握することで、ご自身のことがよく見え、理解できるようになります。「自分は、こんなことに不安を感じていたんだなぁ…」と、漠然としていたものがはっきりと見えるようになるだけでも、心持ちは変わってくるでしょう。
カウンセリングなどを通して、「不完全であっても、それほど心配することはないんだ」という考え方を、少しずつ身につけていくことができると、これまであなたを縛ってきた「完璧主義」という枠組みが崩れていき、やがて少しずつ楽になってくるでしょう。
几帳面で完璧主義、真面目な人ほど、気を付けて!
強迫性障害は、几帳面できちんとしている人や、完璧主義で何事も完璧にこなそうとする人、あるいは、非常に真面目に何でも一生懸命に取り組む人など、一見すると、周りからは「素晴らしい」と評価されるような気質の持ち主に多い、というのも、大きな特徴の一つです。
「ほどほど」の感覚を
その素晴らしい気質であるはずの、几帳面さや完璧主義が、少し度を超してしまっているために、気持ちに余裕を持てなくなっている、というケースも少なくありません。「ちょっとくらい、悪い考えが頭に浮かんでも大丈夫!」「完璧じゃなくても、まあいいか!」くらいの、少し肩の力が抜けた気持ちで物事に臨めるように、考え方を少しずつ変えていきましょう。
また、周りのご家族などから、過剰に心配されたり、完璧であることを求められたりしてきた、という経験がある場合にも、それはそれとして、「自分は自分だ」と考えて、ご自身のペースで行動を起こしていけるようになると、なお良いでしょう。
少し足りない点があったとしても、真面目に思い詰めすぎないで、「まあ、そんなこともあるさ」と、気を楽に持っていくことも必要です。できる範囲のことで、まずは行動を起こしていくように、あまり思い詰めないように。「ケ・セラ・セラ(なるようになるさ)」と、鼻歌でも歌うくらいの気持ちで、少し楽観的に物事を捉えられるように、意識を変えていきましょう。
強迫性障害は、まずストレスを減らすことから始めましょう
私たちは、日々、家庭生活や社会生活を過ごす中で、知らず知らずのうちに、それ相応のストレスが溜まっていくものです。
ストレスマネジメントと環境調整
そんなストレスを上手に緩和させるために、ご自身の好きなことに時間を費やしてみたり、信頼できる人と話をしてみたり、心がリラックスできる何か(趣味、休息、気分転換など)を持つことが、誰にとっても必要です。
ご家族がストレスの原因になっている、という場合も、実は意外に多くあります。もし、そうであるならば、時にはそのストレス源から少し離れてみることも、真剣に考えなければならないかもしれません。あなたにとって、気持ちが楽になるような環境に、できるだけ身を置くことが大切になってきます。無理をしないで、少しずつ症状を緩和させていきましょう。
聖心こころセラピーでは、そんなあなたの考え方や、物事の捉え方(認知)などを、カウンセリングを通してしっかりと把握させていただき、より楽しく、楽に生活ができるように、お手伝いをしていきます。親子関係などからくる、ご自身の根深い不安や、性格(考え方の癖)などを認識して、つらい強迫観念から、早く脱出しましょう。
つらく苦しい強迫性障害(強迫神経症)から抜け出して、楽しい人生への転換を、一緒に迎えましょう。
参考文献・参考資料
- 松永寿人(2013) 強迫性障害の臨床像・治療・予後 精神神経学雑誌 115巻 9号
- 厚生労働省(2015)『強迫性障害(強迫症)の認知行動療法マニュアル(治療者用)』