統合失調症カウンセリング

統合失調症は、以前は「精神分裂病」と呼ばれていた精神疾患です。その症状は非常に多岐にわたりますが、代表的な特徴としては「幻聴」「幻覚」「被害妄想」などが挙げられます。ご本人は、これらの体験を現実の出来事として捉え、その考えをなかなか変えようとはしません。
統合失調症とは
統合失調症は、幻覚や妄想などを主な特徴とする精神疾患の一つです。
主な症状と特徴

基本的な症状として、物事をありのままに認識することが難しくなる「認知機能の障害」や、自分の世界に閉じこもりがちになる「自閉(これは自閉スペクトラム症とは異なります)」などが見られます。
また、副次的な症状として、「幻覚(実際にはないものが見えたり聞こえたりする)」や「妄想(現実とは異なる、訂正困難な強い思い込み)」などが現れることがあります。
しかし、これらはあくまで代表的な症状であり、実際に現れる症状は非常に広範囲にわたり、人によって様々です。
普段の生活の中で、「物事の感じ方、考え方、行動の仕方」が、一般的な捉え方や考え方とは大きく異なり、そのために社会生活を送ることが困難になっている場合には、統合失調症の可能性が高いと言えるかもしれません。
病識の欠如
しかし、多くの場合、ご本人は、ご自身の認識や思考の歪みが精神疾患によるものであるとは感じていません。例えば、幻覚を「自分にだけ見える特別なものだ」と思い込んだり、実際にはない声が聞こえる幻聴を「人の心が読めるようになったんだ」と思い込んだりしていることがあります。そのため、ご自身から統合失調症であることに気づくのは、なかなか難しいのです。
発症率と早期対応の重要性

この症状は、100人から120人に1人くらいの確率で発症すると言われています。発症率に明らかな男女差はみられませんが、男性は15~24歳、女性は25~34歳と報告されており、男性の方が女性よりやや早く発症する傾向が認められます。
日本での統合失調症の患者数は、およそ77万人と言われており、決して特別な、稀な病気というわけではありません。
何らかの強いストレスなどが引き金(起因)となり、急に発症するというケースも少なくありません。
ですから、もし身内の方や、身近な人が統合失調症かもしれない、と感じても、決して焦る必要はありません。
きちんとした専門機関で、適切な治療やサポート(療法)を受けることで、症状は改善されることも多いのです。そのため、できるだけ早い段階で、精神科や心療内科といった医療機関や、当セラピーのようなカウンセリング機関など、適切な専門機関を訪れることが非常に重要です。症状が比較的軽度であれば、聖心こころセラピーでの認知行動療法などでも対応できるケースも、実績として数多くあります。
統合失調症の症状について
統合失調症では様々な症状が現れると書きましたが、その症状は大きく「陽性症状」「陰性症状」「その他の症状(認知機能障害など)」の三つに分類できます。
陽性症状(急性期)
統合失調症の症状が、幻覚や妄想といった形で激しく現れている時期を「急性期」と言います。この期間、ご本人は頭の中が非常に混乱し、落ち着かず、少しの出来事でも大きな刺激として受け取ってしまい、様々な症状に悩まされます。この時期に目立つのが「陽性症状」です。
陽性症状期には、様々な認知の変化が起こり、ご本人も周りのご家族も、相当な苦痛を感じることがあります。
陰性症状(消耗期・回復期)
陽性症状が激しい急性期を過ぎ、少し落ち着きを取り戻してくると、今度は「陰性症状」と呼ばれる症状が目立つ時期(消耗期・回復期)を迎えます。これは、急性期に心身のエネルギーを使い果たしてしまった副作用(後遺症)のようなものとも言え、意欲の低下や感情の平板化といった形で現れます。倦怠感が強く、なかなか活動的になれない、つらい時期ですが、改善していくためのサインとも言えるものです。
統合失調症の症状1:陽性症状
陽性症状は、統合失調症の「急性期」に特に目立つ症状です。本来ないはずのものが見えたり聞こえたり、考えがまとまらなくなったりします。
思考や知覚の障害
- 妄想: 現実にはありえないことを、事実だと強く信じ込んでしまう。妄想の内容によっては、非常に興奮したり、強い恐怖を感じたりすることもある。
- 幻覚: 実際には存在しないものを、あたかも実在するかのように感じてしまう。最も多いのは、悪口や命令などが聞こえる「幻聴」。実際にはないものが見える「幻視」や、体に何かが触れているように感じる「体感幻覚」などもある。
- 思考の混乱: 考えがまとまらず、話が支離滅裂になったり、会話が成り立たなかったりする。相手の話をきちんと聞いているつもりでも、的外れな応答をしてしまうこともある。
- 自我意識の障害: 自分の考えが他人に抜き取られているように感じたり(思考奪取)、自分の考えが周りの人に伝わってしまっているように感じたり(思考伝播)、自分の考えを他人に知られていると感じたり(思考察知)することがある。
行動面の変化
- 興奮・混乱: 妄想や幻覚などによって、ひどく興奮したり、混乱したりする。
- 奇異な行動: 周囲から見て理解しがたい、奇妙な行動をとることがある。
- 緊張病症状: 外からの刺激に対してほとんど反応を示さなくなったり、周囲との接触を避けたり、ずっと黙り込んだり、逆に奇妙な姿勢をとり続けたりすることがある。
様々な妄想の内容
妄想には、実に様々な種類があり、以下のようなものが挙げられます。
- 被害妄想: 他人から嫌がらせを受けている、悪口を言われている、危害を加えられようとしている、などと思い込む。
- 関係妄想: 周囲で起こる出来事(テレビのニュース、人の会話など)が、すべて自分に関係していると思い込む。
- 注察妄想(監視妄想): 常に誰かに見張られている、監視されていると感じる。
- 追跡妄想: 誰かに後をつけられている、追われているように感じる。
- 心気妄想: 自分や周りの人が、何か重い病気に罹っているのではないかと思い込む。
- 誇大妄想: 実際の自分よりも、はるかに自分は偉大で、特別な能力を持っていると思い込む。
- 宗教妄想: 自分は神である、あるいは神から特別な使命を与えられた預言者だ、などと思い込む。
- 嫉妬妄想: パートナーや恋人が、自分を裏切って浮気をしている、と根拠なく信じ込む。
- 恋愛妄想: 特定の異性(時には有名人など)が自分に恋愛感情を抱いている、と確信する。少し会っただけの人に対しても、自分に気があると思い込むことがある。
- 被毒妄想: 飲食物に毒が盛られている、と信じ込む。家族が出したものに対しても警戒する場合がある。
- 血統妄想: 自分は貴族や王族の末裔である、自分は高貴で特別な血筋の生まれだ、と思い込む。
- 家族否認妄想: 今の家族は、本当の自分の家族ではない、と思い込む。
- 物理的被影響妄想: 電磁波や毒ガスなど、目に見えない力によって攻撃されている、操られていると感じる。
- 世界没落体験(気分妄想): 周囲の世界が、何か不吉で恐ろしいものに変化してしまったように感じ、強い不安や恐怖を感じる。
- 世界崩壊妄想: 世界没落体験の一つ。世界が今にも破滅する、崩壊するなどと思い込む。
これらの妄想は、一つだけが現れるというよりも、複数の妄想が組み合わさって現れることが多いです。周りの人たちは、こうした統合失調症特有の妄想によって、当然のことながら困惑してしまいます。しかし、その一方で、統合失調症のご本人は、いくつもの妄想が入り混じることで、恐ろしい考えに常に悩まされ、計り知れないほどの苦痛を感じているのです。
幻覚の種類
幻覚の中で最も多いのは「幻聴」で、実際にはない声(悪口、噂話、命令など)が聞こえます。その他にも、実際にはないものが見える「幻視」、体に何かが触れている、あるいは這っているように感じる「体感幻覚」、実際にはない匂いを感じる「幻嗅」、実際にはない味を感じる「幻味」などがあります。
幻覚を体験しているご本人は、それを外部から受け取っている情報だと感じているため、その情報の発信源が存在すると考えやすいです。「霊が見える、感じる」「狐がとり憑いた」「神のお告げが聞こえる」「人の心が分かるようになった」など、妄想へと繋がるような受け取り方をしやすいのが特徴です。
自我意識の障害の詳細
自分の中から生まれる考え(自生的な情報)と、他人から伝えられる情報(外来的な情報)との区別が、うまくできなくなります。例えば、通常であれば、自分で考えていることは「自分の考え」として認識しますが、自我意識の障害が生じている場合、自分が考えている言葉が、まるで外部から聞こえてきた声のように感じられてしまうのです。自我意識の障害には、以下のようなものがあります。
- 思考奪取: 自分の考えが、誰かに盗まれているように感じる。「自分の考えを盗める特殊能力を持った人間がいて、その盗んだ考えによって、何か良からぬことを企んでいる」などと思い込む。
- 思考伝播: 自分の考えていることが、周りの人にテレパシーのように伝わってしまっている、と感じる。
- 思考察知: 自分の考えは、周りの人々にすべて知られてしまっている、と感じる。「自分は考えを読まれてしまう、特殊な存在なのだ」と感じることもある。
統合失調症の症状2:陰性症状
統合失調症の「消耗期」や「回復期」に現れやすい症状です。急性期を経て、陽性症状を引き起こすほどのエネルギーが出せなくなった時期に見られます。陰性症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- 意欲の低下: 何かをする気力が湧かず、自発的な行動が少なくなる。無気力に見える。
- 感情の平板化: 喜怒哀楽といった感情の起伏が乏しくなり、表情が硬くなったり、感情表現が乏しくなったりする。
- 思考の貧困: 考えがまとまりにくく、会話の内容が乏しくなったり、返答が短くなったりする。
- 社会的引きこもり: 人との関わりを避け、自分の部屋に閉じこもりがちになる。
その他にも、食欲不振、集中力の低下、疲れやすさ、過眠(夜ぐっすり寝ても、日中も眠い)といった症状が見られることもあります。
統合失調症の症状3:その他の症状(認知機能障害など)
統合失調症においては、「陽性症状」や「陰性症状」のように、特定の時期(急性期、消耗期)に関わらず、持続的に現れる症状もあります。これには、「認知機能障害」などが含まれます。
- 認知機能障害: 注意力や集中力、記憶力、計画を立てて実行する能力(遂行機能)、問題を解決する能力などが低下する。これにより、学業や仕事、日常生活に支障が出ることがある。
- その他の精神症状: 強い不安感、焦燥感(落ち着かない感じ)、緊張感、パニック発作のような症状、あるいは、意味のない言葉をひたすら繰り返す(言葉のサラダ)といった症状が見られることもある。
統合失調症の原因について
統合失調症は、脳の中の神経細胞同士の情報伝達を担っている神経伝達物質(特にドーパミンやグルタミン酸など)のバランスが、うまくコントロールされていないために起こるのではないか、と考えられています。
様々な仮説
しかし、多くの仮説が存在するものの、未だにはっきりとした原因は解明されていないのが現状です。以下に、代表的な仮説をいくつかご紹介します。
1.神経発達障害仮説
「脳が発達していく段階で、何らかの障害が生じ、脳が十分に成長できなかったことが、統合失調症の発症に関係している」という仮説です。統合失調症を発症された方の脳を調べると、構造的な変化が見られる場合があることから提唱されました。統合失調症の一部には、脳の発達段階での障害が関与していることを示唆する研究結果も存在します。
しかし、その脳の構造変化が具体的にどのような影響を与えるのか、また、そもそも脳に異常が生じた結果として統合失調症になったのか、それとも統合失調症になった結果として脳に変化が生じたのか、といった因果関係については、まだ研究課題として残されています。また、この仮説が、症状の発見や改善といった実用的な段階に、まだ十分に結びついていないのが現状です。
2.遺伝的な要因
これまでの研究で、統合失調症を発症している方は、神経伝達物質(例えばドーパミンのような、神経細胞の受け皿(受容体)に結合して情報を伝えるスイッチとなる化学物質)を作り出す能力自体には問題がないものの、脳細胞間の信号のやり取り(情報伝達)に何らかの問題が生じていることが確認されています。
この信号のやり取りを適切に行うために必要とされる機能を担っている、遺伝子に何らかの問題が生じていて、それが遺伝することによって発症しやすくなるのではないか、と考えられています。ただし、遺伝子だけが原因で発症するというよりも、遺伝的な要因と、環境的な要因(ストレスなど)の両方が影響し合って発症する人が多いとされています。
3.ドーパミン仮説
簡単に言うと、「脳の一部の領域で、神経伝達物質であるドーパミンが過剰に分泌されていることが、幻覚や妄想といった陽性症状に関係している」とする仮説です。ドーパミンは、神経細胞の受け皿(受容体)にくっつくことで、脳内に特定の命令を送る信号を発信させる化学物質です。
この仮説が有力だとされている理由の一つは、ドーパミンが受容体と結合するのを妨げる(阻害する)薬(抗精神病薬)が、陽性症状に対して有効であったためです。しかし、この仮説に対する批判も多く、ドーパミンの量だけでなく、受容体の感受性(ドーパミンとのくっつきやすさ)が関係しているのではないか、という考えも存在します。また、ドーパミンの働きをコントロールする薬の副作用についても、問題点が指摘されています。
4.グルタミン酸仮説
「神経伝達物質であるグルタミン酸を受け取る受容体の異常が、統合失調症の発症に関係している」という仮説です。これは、もともと麻酔薬として開発されていたフェンサイクリジンという有機化合物を使った際に、副作用として統合失調症によく似た症状が見られたことから発見されました。
調べてみると、フェンサイクリジンは、グルタミン酸受容体の働きを妨げる(阻害する)作用があることが判明しました。グルタミン酸受容体は、私たちの体の中でも、特に脳(中枢神経系)の信号伝達に重要な役割を果たしている部分に多く存在し、グルタミン酸と結合することで、記憶や学習などに関わると考えられています。
グルタミン酸受容体の働きを促進する薬を、従来の抗精神病薬と一緒に投与することで、薬の効き目が高まった、という報告もあります。
ストレスや環境要因
このように、統合失調症の原因はまだ完全には解明されていませんが、生物学的な要因(脳機能や遺伝)と、心理・社会的な要因(ストレス、生活環境など)が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
いじめられた経験などが、幻聴の引き金になることも
学校生活や、社会人になってからの新しい環境などで、誰かに何かを厳しく言われたり、叱られたり、あるいは仲間外れにされたり、といったつらい経験が増えると、それが引き金となって、統合失調症を発症してしまう場合があります。
過去の経験と現在の症状
最初は、実際に周りの人から悪口を言われたり、批判されたりしていることが多いのかもしれません。しかし、そうしたつらい環境から抜け出した後でも、実際には誰もいないのに、悪口や批判の声が聞こえてきたり(幻聴)、誰かに見られているような気がしたり(幻覚・注察妄想)して、現実と妄想の区別がつかなくなってしまうことがあります。その結果、周りの人から見ると理解しがたい行動をとってしまったり、不安や恐怖から家から出られなくなってしまったりするケースもあります。
普通であれば、つらい環境から離れれば、症状は次第に収まり、自分を非難する声なども聞こえなくなるのが一般的です。しかし、その経験によるショックがあまりにも大きかったり、ご本人が元々ストレスに弱い性質を持っていたりすると、その場を離れてもなお、幻聴などがいつまでも続いてしまうことがあるのです。
病識がないことも多い、統合失調症の難しさ
統合失調症の大きな特徴の一つに、ご自身が病気であるという認識(病識)がない、あるいは乏しいことが多い、という点が挙げられます。
本人の認識と周囲の困惑
例えば、聞こえてくる幻聴などに関しても、「自分は他の人にはない、特別な能力(人の心を読む能力など)を持っているのだ」と思い込んでいたり、様々な強迫的な行動(例えば、何度も確認するなど)に関しても、「そうしなければならない現実的な理由があるから、必要な行動なのだ」と固く信じ込んでいるため、その行動が社会的な常識から逸脱しているものであったとしても、ご自身ではその異常さに気づくことができない場合が多いのです。
そのため、ご本人よりも、むしろ周りのご家族などが、その言動や行動への対応に困り果ててしまい、医療機関などを訪れる、というケースも少なくありません。
症状の多様性
統合失調症と言っても、その症状の程度は様々で、比較的軽症の場合と、重度の場合があります。軽症の場合には、時々幻聴が聞こえる、周りの人の視線が少し気になる、といった程度の影響で済んでいる場合もあります。
しかし、重度になってくると、一日中布団から出られずに寝たきりのような状態になってしまう場合などもあり、まさに十人十色の症状を見せるのが、この病気の特徴でもあります。
基本的には薬物治療を行っていきます
統合失調症の治療においては、基本的には、抗精神病薬などの薬物療法が中心となります。薬を飲み続けることで、幻覚や妄想といった陽性症状や、意欲の低下などの陰性症状をコントロールし、症状を安定させることが、まず重要になります。
脳内物質のバランス調整
統合失調症は、脳内の神経伝達物質(ドーパミンなど)のバランスが崩れている状態である、とも考えられています。そのため、ほんの少しの刺激に対しても、過剰に反応してしまいやすい、といったケースも見られます。
例えば、人から何かを言われた際に、普通であれば「まあ、そんなこともあるか」と受け流せるようなことでも、「自分は嫌われているに違いない」「あの声は、自分の悪口を言っている声だ」といった妄想的な症状が現れ、その場で適切な対応をとることが難しくなってしまう場合もあります。そういった場合には、まず、幻覚や妄想といった症状を抑えるために、薬などを用いて精神状態をコントロールすることが必要になります。
いじめなどの影響
もちろん、ご本人が訴えることが、すべて幻覚や妄想である、というわけではありません。例えば、過去にいじめなどを受けていた場合には、そのいじめがなくなった後でも、「自分はまだいじめられているのだ」という感覚が、なかなか抜けきれないままでいる、ということも多くあります。薬物療法と並行して、そうした心理的な要因にもアプローチしていくことが大切です。
幻聴や幻覚に振り回され、外に出られなくなることも
幻聴が続くと、人の話し声や、向けられる視線などに対して、非常に敏感になり、大きな精神的負担を感じるようになります。その結果、自宅に一人で閉じこもってしまい、社会との接点を失ってしまう、という場合もあります。
関係妄想と孤立
また、誰かの話し声や、テレビで流れている映像なども、「あれは、自分のことを言っているに違いない」と、自分に関係づけて受け取ってしまったり(関係妄想)、あるいは、「自分の個人情報が、どこかから他人に漏れているのではないか」と感じるようになったりする場合もあります。
「自分の考えていることが、周りの人に筒抜けになっているのではないか…」と怯え、「みんなが自分の悪口を言っているに違いない」「自分の噂話をしているはずだ」と決めつけて、人前に出ることが怖くなってしまいます。家に一人でいる時でさえ、絶えず幻聴が聞こえてくることもあり、そうなると、本来やるべきこと(家事や勉強、仕事など)に集中することも困難になります。
学校生活や社会人としての生活において、本来の能力を発揮できず、日常生活に大きな支障をきたしてしまうところが、統合失調症のつらい特徴の一つなのです。
最初は些細なことが原因であったケースも
統合失調症の発症のきっかけは、最初は、誰かの陰口や噂話を耳にした、といった、比較的些細な出来事である場合もあります。しかし、その出来事が引き金となり、ご自身の頭の中で、「自分は嫌われているのではないか…」と思い悩んだり、それがエスカレートして、様々な声が聞こえてくる(幻聴)ようになったりするのです。
現実と妄想の混同
「声が聞こえる」というのは、少し特殊な現象に思えるかもしれません。普通であれば、その場にいない人の声が聞こえてくるはずはありません。しかし、統合失調症の方にとっては、幻聴や幻覚といったものが、まるで現実の出来事のように感じられています。そのため、現実と妄想の区別がつかなくなり、周りの人から見ると理解しがたい行動(例えば、突然怒鳴り込んでくるなど)をとってしまったり、あるいは、逆に自分の殻に閉じこもってしまったりすることもあります。
症状が比較的軽度の場合には、カウンセリングによって改善が見られるケースもあります。しかし、幻聴や幻覚などの症状が激しい場合には、まず精神科などの医療機関を受診し、適切な薬物療法を受け、陽性症状をきちんと抑え込むことが、治療の第一歩として必要になります。
青年期に多い「破瓜型(はかがた)」の統合失調症
10代後半から20代前半といった、若い青年期に発症することが多い統合失調症のタイプとして、「破瓜(はか)型」と呼ばれるものがあります。(※現在は、この分類名はあまり用いられなくなっていますが、症状の傾向を表す言葉として説明します)
急激な変化と生活能力の低下
それまでは元気に学校生活などを送っていた場合でも、発症をきっかけに、洗面や食事といった、基本的な日常生活を送る能力までもが、著しく低下してしまう場合があります。そして、幻聴や幻覚などの症状を訴えるようになり、人としての文化的な生活を営むことが困難になってしまうケースも出てきます。
たとえ、以前は優秀で、一流大学に通っていたような場合でも、発症する可能性はあります。ご家族は、そのあまりの変わりように、大きなショックを受け、打ちひしがれてしまう場合も多いでしょう。しかし、適切な治療を早期から継続して行っていくことで、再び人間らしい穏やかな生活を取り戻せることも、決して少なくありません。統合失調症は、寛解(症状が落ち着いた状態)し、一般の人と変わらないような生活を送れるようになる場合も多いのです。長生きされる方もたくさんいらっしゃいます。
家族の対応も、非常に大切になってきます
統合失調症と他の精神疾患との大きな違いの一つに、幻聴や幻覚といった特有の症状に悩まされることが挙げられます。現実には起きていないことが、ご本人にとっては「現実に起きていること」として感じられるため、最初は周りの人もその状況を理解できず、どのように対応して良いか分からず、苦しむことになります。
家族の関わり方の影響
例えば、母親をはじめとするご家族が、日頃から口うるさく、お子さんを厳しく叱りつけてきた、といった場合、お子さんにとっては、まるでいつも悪口が聞こえているような状態になり、それがトラウマとなって、たとえ実際に叱られていない時でも、「声が聞こえる」という症状に繋がってしまう、ということも考えられます。
「死んでしまえ」とか、「お前なんか…」といった、否定的な幻聴が、寝ている時以外、一日中ずっと聞こえている…。そんな状態が続けば、次第に気力も失われ、非常につらい状態が続きます。その苦しんでいる姿は、ご家族から見ても、なかなか理解しがたい状況かもしれません。もし、ご家族の誰かに異変を感じたら、早めに専門機関を受診し、適切な治療を開始することが、何よりも重要です。
強迫観念や強迫行動が、統合失調症に繋がる場合も?
強迫観念(特定の考えが頭から離れない)や、強迫行為(特定の行動を繰り返さずにはいられない)といった、強迫性障害の症状を持っている方が、その症状をこじらせてしまうと、統合失調症へと移行していくケースも、稀に見られます。
病識の有無による違い
強迫性障害の場合、ご自身でも「この行動はおかしいな」「やりすぎだな」と自覚(病識)しているうちは、カウンセリングなどによって改善することが可能です。しかし、その強迫観念や強迫行為に対して、「おかしい」という感覚がなくなり、「これは絶対に正しいことだ」「こうしなければならないのだ」と確信を持って行うようになると、それは統合失調症の症状(妄想など)に近い状態になっていくことがあります。
症状の悪化と治療の必要性
意味のない行動(例えば、儀式的な行為など)を、一日中ずっと繰り返していることで、日常生活にも大きな支障が出ますし、考えがまとまらずに、支離滅裂なことを言ってしまう場合もあります。特に、統合失調症の急性期においては、脳内で様々な情報が混乱している状態になっているので、まずは薬物療法などで、その混乱を落ち着けることが必要になってきます。
話があちこちに飛んでしまったり、現実ではあり得ないようなことを、現実として受け止めていたりすることもあるので、その点に対するカウンセリングと、適切な薬物治療が必要になってきます。ご自身の心の内を、相手に分かりやすく説明することが、非常に困難になっていることがほとんどです。頭の中が混乱してしまい、時には他人を傷つけたり、あるいは自分自身を傷つけたりしてしまう(自傷行為)といったケースも出てきます。
しかし、適切な投薬治療を含め、治療を継続していくことで、症状は改善し、良くなっていくケースも多いので、決して諦めないことが大切です。幻覚や幻聴といった症状は、薬によってかなり抑えることができる場合も多いので、再び穏やかな社会生活が営めるように、周りの人々も温かくサポートしていくことが重要になってきます。カウンセリングなどを通しても、社会生活を送る上での具体的なアドバイスなどを、積極的に行っていきます。
統合失調症の治療法について
統合失調症の治療においては、医師が処方する薬物療法が、非常に大きな効果を持ちます。薬を服用することにより、幻覚や妄想といった陽性症状を軽減し、ご本人の精神的な負担を減らしていくことが、まず重要になります。
心理社会的療法との連携
その後、ご本人の心に少し余裕が出てきたところで、ご自身が統合失調症であるという認識(病識)をしっかりと持ち、症状の改善に対して前向きな姿勢を築いていくお手伝いをします。
そして、社会生活を送っていく上での、人間関係の持ち方や、ご自身の気持ちの表現方法などに、もし改善すべき点があれば、それらについても一緒に取り組んでいきます。聖心こころセラピーでは、こうした心理教育に加えて、認知行動療法、論理療法(論理的思考法)、作業療法、ヒプノセラピー(催眠療法)など、いくつかの心理療法を、ご本人の状況やご希望に合わせて、柔軟に行って行きます。
ご家族のサポートと連携の重要性
症状を改善していくにあたり、ご家族のサポートは不可欠ですが、いくつか注意していただきたい点があります。統合失調症だからといって、ご本人を腫れ物のように扱ったりせず、かといって、過保護や過干渉になりすぎないように注意することも大切です。まずは、「心の病気にかかり、苦しんでいるんだ」ということを、ありのままに理解してあげてください。
統合失調症がどのような精神疾患なのかを、ご家族もきちんと把握し、理解した上で、ご本人と向き合っていくことが大切です。その上で、もし疑問が生じたなら、医師やカウンセラーといった専門家に遠慮なく質問し、ご本人の症状の改善に向けて、医療機関とカウンセリング機関が連携をとっていくことが、非常に重要になります。
統合失調症の症状は広範囲にわたります。早期の対処が、回復への鍵となります。
参考文献・参考資料
- 横田正夫・丹野義彦・石垣琢麿(編)(2003)『統合失調症の臨床心理学』 東京大学出版会
- 松井三枝(2017) 統合失調症の理解と心理学:神経心理学からの紹介 心理学評論 60巻 4号
- アメリカ精神医学会(著),日本精神神経学会(監訳)(2023)『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル テキスト改訂版』 医学書院