自己愛性パーソナリティ症カウンセリング

「モラハラ」、いわゆるモラルハラスメントは、正式には「自己愛性パーソナリティ症(自己愛性パーソナリティ障害)」を持つ人からの攻撃行動などとして現れることがあります。これは、ご自身の持つ劣等感(コンプレックス)から目を背けるために、他者を貶め、辱めるような言動をとってしまう、という心のあり方です。そして、これは男性に限ったことではなく、夫に対して常に厳しく当たり、雑に扱う妻にも見られることがあります。

目次

自己愛性パーソナリティ症とは

健全な自己愛と病的な自己愛の違い 健全な自己愛 自信の源になる 自分を受け入れられる 病的な自己愛 自己中心的な考え 自分を過大評価 周りからの賞賛を強く求める

自己愛性パーソナリティ症(自己愛性パーソナリティ障害)は、自分を過大に評価し周りからの称賛を強く求め、他人の気持ちを理解するのが苦手な心の状態です。

自己愛性パーソナリティ症のある人は、世界が自分中心に回っているかのように思い込み、特別扱いを期待します。自分の事ばかり考え、周りの人の感情や希望に気づきにくく、他者の気持ちを軽視しがちです。

普通の自信や自己愛と大きく違うのは、その度合いと影響の大きさです。

健康的な自己愛は自信の源になりますが、自己愛性パーソナリティ症では自己中心的な考えが極端になり、日常生活や人間関係に深刻な支障をきたします。結果として、社会生活を送る上で大きな困難を抱え、長期的に見て人生の質を下げる可能性があります。

「モラハラ」の正式名称?

自己愛性パーソナリティ症とは、一体どのようなものなのでしょうか。「自己愛」という言葉だけを聞くと、「自分をしっかり愛せているなんて、むしろ良いことじゃないの?」… そんな風に思いがちかもしれません。しかし、「パーソナリティ症」という名称が付いている以上、そんな単純な話ではありません

皆さんも最近、「モラハラ」、すなわち「モラルハラスメント」という言葉を、よく耳にするようになったのではないでしょうか。

職場から家庭へ広がる「モラハラ」の問題

以前は、そのイメージは主に職場での出来事として捉えられることが一般的でした。会社の上司が、その立場や権力を利用して、部下に対して横暴極まりない態度をとることを「パワハラ(パワーハラスメント)」と呼ぶ一方で、同じように立場の優位性を武器にして、部下や同僚に対して尊大な態度をとり、人を小馬鹿にしたり、蔑んだり、相手の尊厳やプライドを踏みにじり、精神的に追い詰めていく行為を「モラハラ」と呼んできました。

最近では、テレビのワイドショーなどで、年の差婚で話題になった、一見おしどり夫婦と思われていた二人の間に、実は「モラルハラスメント」の問題が潜んでおり、それが離婚騒動にまで発展した、といったニュースが、お茶の間を賑わせています。これまで主に職場の大きな問題の一つとして考えられてきた「モラハラ」が、いよいよ一般的な家庭の問題としても、広く取り上げられるようになってきたのです。

では、その「モラルハラスメント」について、簡単に説明しましょう。
モラルハラスメントとは、言葉や態度によって、相手を繰り返し批判・否定・非難し、相手の自信や尊厳、意欲などを奪ってしまう行為、と言えます。

そして、このページの本題である「自己愛性パーソナリティ症」とは、多くの場合、前述したような「モラルハラスメント」を行う側の人を指します。

身近に潜む「モラハラ」の可能性

  • 自己愛性パーソナリティ症を持つ「夫」
  • 自己愛性パーソナリティ症を持つ「妻」
  • 自己愛性パーソナリティ症を持つ「恋人」
  • 自己愛性パーソナリティ症を持つ「親」
  • 自己愛性パーソナリティ症を持つ「友人」
  • 自己愛性パーソナリティ症を持つ「上司・先輩・同僚」
  • 自己愛性パーソナリティ症を持つ「教師・部活のコーチ」

このように、実に様々な人間関係において、モラルハラスメントを行う「自己愛性パーソナリティ症・自己愛性パーソナリティ障害」の特性を持つ人が、決して少なくない数、私たちの身近な存在として現れてくる可能性があるのです。

自己愛性パーソナリティ症の「特徴」

では、その自己愛性パーソナリティ症には、具体的にどのような特徴や傾向があるのでしょうか?

  • 強い自己顕示欲: 常に自分が中心でありたい、注目されたい、賞賛されたいという欲求が非常に強い。
  • 共感性の欠如: 他人の気持ちを理解したり、共感したりすることが極端に苦手。
  • 些細なことで激昂する: 自分の思い通りにならないと、些細なことでもカッとなり、激しい怒りを表すことがある。
  • 傲慢であり攻撃性が強い: 自分が常に正しいと思い込み、他者を見下したり、攻撃的な言動をとったりする。
  • 相手を強く批判・否定する: 相手の欠点や間違いを執拗に指摘し、人格を否定するような言葉を浴びせる。
  • 激しい嫉妬心を秘めている: 他人が成功したり、注目されたりすることに強い嫉妬心を抱き、足を引っ張ろうとすることもある。
  • 聴く耳持たず自己の主張ばかり: 他人の意見には耳を貸さず、一方的に自分の主張ばかりを繰り返す。
  • 非常に搾取的であり相手を利用する: 自分の目的を達成するためなら、他人を平気で利用したり、搾取したりする。
  • 支配的であり人を上下関係で測る: 人間関係を常に「上か下か」という力関係で捉え、相手を支配しようとする。

以上が、自己愛性パーソナリティ症の主な特徴です。

関係初期の「仮面」

しかし、特に友人、恋人、夫婦といった親密な関係の場合、付き合い始めの頃には、このような特徴は微塵も感じさせなかったはずです。(※職場の上司など、最初から力関係が明確な場合を除きます。)

むしろ、最初は、とてもよく気が利き、思いやりがあり、頼もしい、魅力的な存在として、あなたの前に現れたのではないでしょうか?

友人から親友へ、恋人から夫婦へ… というように、関係性が深まり、密接な繋がりが確定したと感じられた後になって、徐々に、あるいは何か特定の出来事をきっかけにして、一気に「自己愛性パーソナリティ症」の本来の面(本性)を、強く打ち出してくることが多いのです。

「確定的(親密)」自信に満ちている 気が利く 頼りがいがある 社交的でリーダーシップがある 「本来の面(本性)」 他者への共感の欠如 承認欲求の強さ 批判への過敏な反応 自分の非を認めない・責任転嫁する傾向

(詳しくは、後述の「自己愛性パーソナリティ症の「標的(ターゲット)」になりやすい人」や「自己愛性パーソナリティ症のターゲットへの「巧みなアプローチ」」の項目もご参照ください。)

自己愛性パーソナリティ症の「原因」

自己愛性パーソナリティ症の人の、心の奥深く(潜在意識)には、ご本人も気づいていないほどの「強烈な劣等感」が隠されています。そして、その劣等感を自分自身でも認めたくない、表に出したくない、という思いから、無意識のうちに過剰な防衛本能が働き、相手に対して過剰な攻撃性として現れてしまうのです。

劣等感と自己防衛

常に自分の価値観を正当化し、相手を徹底的に批判し、否定し、蔑むことによって、無意識のうちに、脆く崩れやすい自分自身のプライド(自尊心)を守り抜こうとする…。この心のメカニズムが、「自己愛性パーソナリティ症」が引き起こされる根本的な原因(起因)となります。

では、この自己愛性パーソナリティ症の性質は、そもそも何が原因で身についてしまったのでしょうか? 遺伝的な要因、脳機能の偏り(疾患)、あるいは生まれ育った環境などが、主な原因として挙げられていますが、実際には、まだ明確な原因は特定されておらず、統一された見解には至っていないのが実情です。

私(カウンセラー)個人の見解としては、様々なケースを見てきた経験から、「生まれ育った環境」の影響が、特に大きいのではないかと考えています。

例えば、「アダルトチルドレン」(機能不全家族で育ったことにより、大人になっても生きづらさを抱えている状態)や、「機能不全家族」(家族としての健全な機能が果たされていない家庭)といった環境で育ったことによる様々な弊害が、複合的に絡み合った結果として、モラハラ(モラルハラスメント)を実行するようになり、「自己愛性パーソナリティ症」という状態が、後天的に形成されてしまう、と考えることもできるでしょう。

自己愛性パーソナリティ症の「標的(ターゲット)」になりやすい人

自己愛性パーソナリティ症を持つ人は、その歪んだ自尊心を満たすために、必ず攻撃の対象となる相手(被害者)を必要とします。では、その標的(ターゲット)として狙われやすいのは、どのような性質を持った人なのでしょうか?

  • 自己評価が、どちらかというと低めの人
  • 争いを好まず、穏やかで平和主義な人
  • 自分よりも、他人を優先して思いやることができる人
  • 人を疑うことを知らず、基本的に善意で捉えようとする、お人好しな人
  • 損得勘定をあまりせず、物欲などが比較的少ない人
  • 人を疑うことなく、誰に対しても誠実に接しようとする人
  • 友人との交友関係が、比較的少ない、あるいは限定的な人
  • 初対面の人や、集団の中で、少し内気(シャイ)で、人見知りしがちな人
  • あまり自分に自信がなく、どちらかというと気弱なところがある人
  • 自分の意見を強く主張するよりも、相手の意見を尊重しようとする、控えめな人
  • 自分の気持ちや考えを、うまく言葉にして表現するのが苦手な人

もし、あなたがこれらの性質に多く当てはまる場合、残念ながら、自己愛性パーソナリティ症を持つ人にとって、格好のターゲットとして狙われやすく、巧みに接近されてしまう可能性があるかもしれません。

自己愛性パーソナリティ症のターゲットへの「巧みなアプローチ」

自己愛性パーソナリティ症の人は、相手を否定し、批判を繰り返し、自信や尊厳を奪うような行動をとります。しかし、もちろん、最初からそんな態度で近づいてくるわけではありません。もしそうであれば、誰だって警戒し、相手にせず逃げ出すでしょう。

理想的な人物としての登場

自己愛性パーソナリティ症を持つその人は、多くの場合、最初は、それはそれはとても魅力的で、素晴らしい「善い人」として、ターゲット(あなた)の前に登場します。では、具体的に、どのような人物として現れてくるのでしょうか?

  • とても愛想が良く、人懐っこくて、愛嬌がある。
  • 話が上手で、引き込まれるような魅力があり、一緒にいてとても楽しい。
  • あなたのために、たくさんの時間や労力を費やしてくれる。
  • あなたのことを、とても細やかに気遣ってくれる。
  • あなたの気持ちを、「誰よりも分かってくれる」と感じさせてくれる。
  • あなたのことを、非常に理想的な人物として捉え、褒め称え、自信を持たせてくれる。
  • 思いがけない素敵なプレゼントをくれたり、感動的なサプライズを用意してくれたりする。
  • あなたのことを、まるで家族以上に、親身になって心配し、考えてくれる。
  • あなたの悩みや愚痴を、とても熱心に聞いてくれ、的確だと思えるアドバイスをしてくれる。
  • あなたが体調を崩した時には、まるで家族以上に、献身的に看病してくれる。
  • あなたにとって、「理想の母親」あるいは「理想の父親」のような、包容力のある態度をとる。
  • どんな状況でも、「常にあなたの味方だ」「絶対にあなたの側に立つ」と言ってくれる。
  • あなたの誕生日などの記念日を、これまでの誰よりも、思い出深い、特別なものにしてくれる。
  • 「こんなに自分のために一生懸命になってくれる人は、今までいなかった…」と、あなたが心から思うような、特別な行動や発言がある。

…いかがでしょうか。まるで、夢に描いたような、理想的なパートナーのように思えるかもしれませんね。あなたに足りないと感じている部分を、すべて補ってくれるような、非常に頼もしい存在に感じられ、天にも昇るような、幸福な気持ちになるかもしれません。

アプローチに隠された「目的」

しかし、問題なのは、このような一見すると素晴らしいアプローチには、実は裏の目的が隠されている、ということです。

その目的とは、「相手を自分の思い通りに支配するため」であり、「最終的に、自分の利益のために相手を利用すること」に他なりません。

自己愛性パーソナリティ症を持つ者は、ターゲットに対して、対等で誠実な関係を築くことを、最初から望んではいません。言葉巧みに相手の気持ちを掴み、結婚などの安定した関係が確定した、あるいは「もう、この人は自分から離れないだろう」と確信した状況になった途端、徐々に、あるいは何かをきっかけにして一気に、態度を豹変させ、その本性を現してくるのです。

モラハラ夫(妻)の正体は… 自己愛性パーソナリティ症?

自己愛性パーソナリティ症の人と、もし深く関わってしまった場合、最初は「自分をしっかり持っていて、とても頼もしい存在だ」と感じていたとしても、付き合いが深まるにつれて、次第にその自己中心的で攻撃的な本性が現れてきます。そして、最終的には、自分の利益のためだけに相手を利用するようになり、被害者は心身ともに深く傷つくことになります。

ですから、もしあなたが「もしかして、この人は…?」と感じる相手がいるのであれば、その人が自己愛性パーソナリティ症である可能性も視野に入れ、ご自身の心と安全を守るために、警戒する必要があるかもしれません。

モラハラをする人は、自分への劣等感の裏返し

自分に本当に自信を持っている人は、相手のことをむやみにけなしたり、馬鹿にしたりはしません。真に自信のある人は、しっかりとした自分軸を持っており、今、自分が考えるべきこと、やるべきことに集中し、目標に向かって邁進していることが多いものです。他人のことに対して、もちろん関心は持ちますが、良い意味で、過剰に気にしたり、干渉したりすることは少ないです。

劣等感と支配欲

しかし、自己愛性パーソナリティ症の場合は、身近な人や、自分よりも弱い立場にある人(と見なした相手)を、いじめるように馬鹿にした態度をとったり、自分の利益のために相手を平気で利用しようとしたりします。

そのような、相手を見下すような態度の根底にある理由は、裏を返せば、ご自身の心の中にある「劣等コンプレックス」に尽きます。

虐待の連鎖?

多くの場合、その人自身も、幼い頃から、他者(主に両親のどちらか)によって、モラハラ的な扱いを受けてきた経験があるはずです。例えば、子どもの頃に父親を非常に恐れ、常に父親の顔色をうかがい、屈服させられてきた、という屈辱的な感情を抱えたまま親になった場合、かつて自分が受けたのと同じような行為を、今度は自分の妻子に対して行うことで、父親としての威厳を示そうとする、といったことがあります。

「自分も、あんなに屈辱的な思いをしながらも、親に従ってきたのだから、お前たち(妻子)も、自分に対して従うのは当然だ」… こんな発想です。モラハラをする場合には、自分が妻や子を養っている、といった経済的な優位性や、あるいは身体的な力の差などを利用して、相手の尊厳やプライドをズタズタにするような、ひどい言葉や態度を平気でとります。そして、相手に対しては、ただ黙って耐え、従うことだけを要求します。

当然、一緒にいる相手は心身ともに疲弊し、距離を置きたくなったり、あるいは、その状況から逃げ出したくなったりします。

モラハラの実行者には、その「自覚」が全く無いことが多い

モラハラをする人の多くは、ご自身が「モラハラをしている」という自覚が、全く無い場合がほとんどです。周りからは「口が悪い人だ」と言われることもありますが、ご本人としては、「自分は、非の打ち所がないほど、真っ当で正しいことを言っているだけだ」と、本気で思っています。

相手への尊重の欠如

夫婦関係については、結婚式のスピーチなどで、人生の先輩から「夫婦というものは、お互いの悪いところには目をつぶり、良いところだけを見て過ごしていくと、うまくいくものだよ」といった、ありがたい教訓を聞かされることがありますよね。相手を尊重することで、自分も相手から大切にされ、結果的に自分自身も恩恵を受ける、という考え方です。

しかし、もしあなたのパートナーが自己愛性パーソナリティ症である場合、そんな常識的な話は、全く通じません。モラハラ夫やモラハラ妻は、自分がイライラしたり、不機嫌になったりする原因は、すべて「至らない相手にある」のだ、と言わんばかりに、自分だけの「正義」を振りかざし、相手を一方的に責め立て、攻撃します。

「そんな簡単なことも出来ないのか!」「お前は本当にダメな人間だな!」
そんな言葉で、平気で相手を罵倒し、深く傷つけます。しかし、その際には、ご自身の欠点や、自分にはできないことに対する劣等感を巧みに隠し、相手を貶めることによって、自分の優位性を誇示しようとします。そして、ご自身に都合の悪いことや、自分の失敗に関しては、決して非を認めず、「周りが悪い」「環境が悪い」と、常に他人のせいにするのです。

自己愛性パーソナリティ症の本質

普通であれば、周りからの肯定的な評価を得られるように、努力したり、改善したりしようとするものです。しかし、この障害を持つ人は、「こんなに優秀な自分を評価しない相手の方がおかしいのだ」という感覚で、他者からの批判を受け入れることができません

手柄は、すべて自分のお陰。災いは、すべて相手(他人)のせい
これが、自己愛性パーソナリティ症の本質と言えるかもしれません。

周囲の人や、ご家族は、「もう、モラハラはやめてほしい」と当然思うわけですが、自己愛性パーソナリティ症の人は、全くお構いなしに、自分の主張を一方的に繰り返すだけで、建設的な議論や協議は成り立ちません。それどころか、指摘されればされるほど、さらにひどいモラハラを繰り返すことに終始してしまうのです。

自己愛性パーソナリティ症のターゲットは、「友好的な人」

もし、あなたの親友や配偶者、あるいは家族の中に、自己愛性パーソナリティ症の傾向がある人がいる場合、それは、もしかしたら、あなたが普段から誠実で、優しく、友好的な人柄を持っているからなのかもしれません。なぜなら、自己愛性パーソナリティ症の人は、そのような「優しくて、利用しやすそうな人」を嗅ぎ分け、ターゲットとして狙って近づいてくる傾向があるからです。

毅然とした対応の必要性

もし、あなたの身近な相手が、次第にそのモラハラぶりを発揮し始めた時には、毅然とした対応をする必要が出てきます。相手が自己愛性パーソナリティ症だからといって、決して我慢し続ける必要はありません。相手からの攻撃に対しては、しっかりとご自身を守り、時には反論したり、距離を置いたりするなど、それなりの対応をとることが必要になるでしょう。

恋人同士で、付き合いが長くなるにつれて、だんだんと相手が尊大な態度を取り始めた、という場合や、友人関係でも、慣れてくるにつれて、徐々にあなたを小馬鹿にするような態度をとったり、傷つけるようなことを平気で言ってくるようになった、という場合には、その相手が自己愛性パーソナリティ症である可能性も考えられます。そのような場合には、無理に関係を続けようとせず、距離を置いて付き合うことが、ご自身のためには必要になります。

特に、自分からあまり主張をすることが少なく、相手に合わせてしまうことが多い、という自覚のある方は、十分に注意しましょう。

モラハラは、自己の持つ劣等感を見ないための行動

何かに対して劣等感やコンプレックスを持つこと自体は、誰にでもあることです。しかし、その劣等感を隠すために、相手を小馬鹿にしたり、攻撃したりするのは、明らかに間違った、不健全な対処方法であることを、学ぶ必要があります。

健全な人間関係とは

付き合いが長くなれば、お互いに遠慮がなくなり、扱いが少し雑になってくる、といったことはあるかもしれません。しかし、お互いの良好な関係を維持するためには、やはりある一定の距離感を保ち、親しき仲にも礼儀あり、といった他人行儀な部分も、持っておく必要があるでしょう。

一見、理想の人に見えたその相手は、実は、あなたを自分の思い通りに支配しようとする、悪魔のような存在かもしれません。

相手にすべてを委ねてしまうのは、非常に危険なことです。自分自身をしっかりと持ち、相手の言動に安易に流されないことも必要です。もし、相手との関係に疲れ果てているのであれば、積極的に距離を置くことも、真剣に考えるべきでしょう。

上下関係ではない、対等な関係を

婚姻関係であっても、友人関係であっても、「上か下か」という支配・被支配の関係で結ばれているものは、決して健全な関係とは言えません。

本当に相手のことを愛しているのなら、その人のことを小馬鹿にするような態度をとったりするでしょうか? 相手の尊厳を傷つけるような言葉ばかりで、相手を敬うような発言が全く出てこない、という場合には、さらに注意が必要です。そんな人格障害的な特性を持つパートナー、同僚、上司、あるいは親とは、しっかりと距離を取り、あなた自身を守るようにしましょう。

本来の人間関係であれば、お互いの長所や良いところを認め合い、尊重し合えるような、対等で温かい関係性を持ちたいものですよね。

自己愛性パーソナリティ症の人と、普通の人の違い

例えば、奥さんが、「少し外で働きたいのだけど…」と旦那さんに相談したとしましょう。

否定的な反応 vs 肯定的な反応

普通の、優しい旦那さんであれば、「そうなんだ。いいんじゃないかな。頑張ってね。家のこととか、僕もできる限り協力するからね。」といったように、奥さんの気持ちを尊重し、協力的な姿勢を示してくれるでしょう。

しかし、もし旦那さんがモラハラ傾向のある自己愛性パーソナリティ症の場合、「お前に、そんなことができるわけないだろう!外で金を稼ぐことが、どれだけ大変なことか分かっているのか?!」などと、奥さんの気持ちを認めないどころか、頭ごなしに否定するような発言をします。

お金を稼ぐことの大変さは、どこの旦那さんでも分かっていることです。しかし、自己愛性パーソナリティ症の人の場合には、まず相手をけなし、貶めることから始めるので、一緒にいる人は、心が打ち砕かれてしまいます。

親子関係における違い

これは、親子関係においても同じことが言えます。お子さんが何かに挑戦しようとするたびに、「そんなことが、お前に本当にできるのか?」「お前には、絶対に無理に決まっている。」「もし失敗したら、どうするつもりなんだ?」と、否定的な言葉ばかりを投げかける親御さんもいます。

本来の親であれば、お子さんの挑戦を応援し、バックアップし、成功体験を積めるようにサポートするものです。そして、もし思うような結果が出なかったとしても、それでもお子さんを励まし、次に向けて支えようとするのが、健全な親の姿でしょう。しかし、自己愛性パーソナリティ症の親は、どうも、お子さんやパートナーのことを、能力の低い、愚かな存在(低脳でボンクラ)として扱い、見下すような態度しかとれないのです。

モラハラを遠ざけ、態度が変わらない誠実な人を選びましょう

これから誰かとお付き合いを続けていくのであれば、最初に見せる親切で誠実な態度が、深く付き合っても変わらないような、裏表のない相手を見つけることが、とても大切です。

「フレネミー(友を装う敵)」に注意

フレネミー(Frenemy)」という言葉もあります。これは、「フレンド(Friend=友達)」と「エネミー(Enemy=敵)」を組み合わせた造語で、「友を装う敵」のことを指します。

フレネミーは、最初は非常にフレンドリーで、とても良い人として相手に近づいてきます。しかし、徐々に交際が進み、打ち解けてくると、手のひらを返したように、敵意のこもった言葉を浴びせかけたり、巧妙に相手を陥れたりしてきます。このような相手とは、友人関係や婚姻関係を健全に続けていくことは、非常に困難です。あなたに対する強い嫉妬心などがあり、相手が自分よりも幸せであることは決して許せず、様々な形で相手を攻撃しようとします。

嫉妬という感情は、誰にでもある程度は持つものです。しかし、それが相手を支配しよう、不幸に陥れよう、というレベルにまで達している状態は、健全な関係とは言えません。もし、あなたの周りにいる相手が、そのような性質を持っていると感じるのであれば、早めに距離を取らなければなりません

真の愛情と支配欲の違い

普通は、好きな相手であれば、その人の幸せを心から願うものです。しかし、自己愛性パーソナリティ症の場合には、それは最初だけの見せかけの姿であり、その真の目的は、相手を自分の意のままにコントロールし、自分の支配下に置くことにあるのです。

また、その行動を、本人が意図的に、計算ずくで行っている場合もありますが、中には、全く自覚がないままに、そうした行動をとってしまっている場合もあります。

一見、子どものように自己中心的に見えることもありますが、そういう場合には、相手の顔色を見て行動するのではなく、確固たる態度で、きちんとご自身の意見を伝え、必要であれば距離を置くことも必要になるでしょう。それが、最終的にあなたの身を守るための、賢明な行動となります。

カウンセリングにより、ご本人が問題を意識する場合も

自己愛性パーソナリティ症を持っている人の場合、その問題のある言動が、無意識のうちに行われていることも多いため、その行動をご本人の力だけで是正するのは、非常に困難です。そのため、もしあなたが被害を受けている側であるならば、あなた自身も行動を起こす必要があります。

被害者が取るべき行動

本来であれば、そのようなモラハラを行う人格障害者からは、逃げるなどして離れることが一番です。しかし、様々な事情から、まだ離婚を決意できなかったり、どうしても関係を断ち切ることができなかったりする状況もあるでしょう。その場合には、モラハラを行う自己愛性パーソナリティ症を持つ相手と、対峙しなければなりません。

例えば、一時的に実家に帰り、離婚調停を起こす準備をする。職場であれば、さらに上の上司や人事部などに窮状を訴える。親が問題であれば、実家を離れて経済的に自立するなど、具体的な行動を起こしましょう。

モラハラを行う自己愛性パーソナリティ症を持つ相手と対峙

自己愛性パーソナリティ症の方は、自らの行動に問題があるという自覚を持ちにくいため、改善には周囲からの適切なフィードバックや、本人が「困り感」を感じる体験が必要になることが多く、自ら進んで自分の考え方や態度を直そうとはしません。

※なお、自己愛性パーソナリティ症を持つ方すべてがモラルハラスメント的な言動を取るわけではありません。ここで紹介している例は、あくまで一定の傾向であり、個々のケースによって程度や様子は異なります。

第三者のサポートを活用する

まずは、被害を受けているあなた(恋人やパートナー、ご家族の方など)が、当セラピーのような専門機関にお越しになり、カウンセラーと具体的な対処方法などを相談することも、有効な手段です。聖心こころセラピーでは、カウンセリングなどを通して、あなたが抱える夫婦関係や友人関係の悩みをお聞きした上で、今後の対処法などについて、一緒に考えていきたいと思っています。

自己愛性パーソナリティ症の心理テスト

参考文献・参考資料

  • 市橋秀夫(監修)(2018) 『自己愛性パーソナリティ障害:正しい理解と治療法』 大和出版
  • 井上幸紀(2022) 自己愛性パーソナリティ障害 精神医学 第64巻 第5号
  • アメリカ精神医学会(著),日本精神神経学会(監訳)(2023) 『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル テキスト改訂版』 医学書院

この記事の著者

榊原カウンセラーは臨床心理士・キャリアコンサルタント・管理栄養士。日本福祉大学大学院修了(心理学修士)、名古屋学芸大学卒。公立小学校での栄養教諭を経て、現在は心理・教育・栄養の複合的な視点から支援活動を行う。日本心理学会・日本心理臨床学会会員として、心の健康や対人関係に関する情報発信・執筆にも力を注いでいる。

この記事の監修者

公認心理師・臨床心理士。教育支援センターやスクールカウンセラーとして不登校支援や保護者相談、教職員へのコンサルティングに従事。心療内科や児童発達外来にて心理検査・カウンセリングも担当。現在はオンラインカウンセリングや、心理学と仏教を融合させたセミナー活動などを行っている。

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