境界性パーソナリティ症カウンセリング

境界性パーソナリティ症(境界性パーソナリティー障害)とは、ご自身に対する被害者意識が非常に高く、ほんの些細なことでも、少しでも気に障ることがあれば、強い怒りを抱き、相手の配慮のなさを理由に、ご自身がいかに傷つけられたかを、時には巧みな言葉(詭弁)を駆使して執拗に訴え、長時間にわたって相手を責め立て続けてしまう、といった特徴を持つ人格(パーソナリティ)の偏りを指すことがあります。
境界性パーソナリティ症(境界性パーソナリティ障害)とは

「境界」の意味と通称
「境界性パーソナリティ症(境界性パーソナリティ障害)」という名称は、もともと、この障害が神経症(不安症など)と、精神病(統合失調症など)との「境界」に位置するパーソナリティ症である、と考えられていたことから付けられました。通称として「ボーダー」と呼ばれることもあり、精神疾患の診断分類であるDSM-5-TRでは「ボーダーラインパーソナリティ症」として記述されています。
この境界性パーソナリティ症は、女性に多く見られる傾向があり、日本だけでも推定で100万人から200万人ほどの方がいるとされており、これは全女性人口の約1%から3%に相当します。また、年々その人数が増加している、とも言われています。
発症時期と症状の特徴
境界性パーソナリティ症は、多くの場合、中高生くらいの思春期から、遅くとも成人初期(20代前半くらいまで)に発症し、症状が活発化します。常に精神的に不安定で、感情の起伏が非常に激しいため、安定した対人関係を築くことが、非常に困難です。
境界性パーソナリティ症の症状の現れ方は、人によって様々です。最初のうちは、誰に対しても人当たりが良く、自己表現も上手で、人の気持ちを掴むのが非常に巧みである、といった印象を持たれることも少なくありません。しかし、関係性が深まるにつれて、次第に本来の境界性パーソナリティ症の特性が、前面に現れてくるようになります。
例えば、狂言的とも言えるような自殺未遂(本気で死のうとしているというよりは、相手の気を引いたり、コントロールしたりする目的で行われることが多い)を繰り返したり、根拠のない被害妄想に囚われ続け、特定の他者に対して、徹底的な攻撃性を見せたりします。
その他にも、後先を考えない衝動的な行動(浪費、性的逸脱、物質乱用、無謀な運転、過食など)や、強い不安や寂しさから、特定の人や物(アルコール、薬物、ギャンブルなど)に過剰に依存してしまう、といったことも見られます。そして、皮肉なことに、こうした行動が、かえって対人関係におけるストレスを自ら生み出してしまい、結果的に周りの人々から孤立した状態へと陥ってしまう、という傾向があります。
コミュニケーションの難しさ
境界性パーソナリティ症の方のコミュニケーションの取り方は、非常に不器用であり、相手との適切な距離感が分からない、ということが特徴として挙げられます。例えば、自分に対して好意的な態度を示してくれる人に対しては、「この人は自分の味方だ、支援者だ」と感じ、急速に、そして非常に厚い信頼を寄せます。しかし、その相手が、ほんの少しでも自分の気に入らない言動をとったり、期待に応えてくれなかったりすると、手のひらを返したように、直ちに「敵」とみなし、激しく攻撃的になり、相手を罵倒したりします。かと思えば、その後、まるで何事もなかったかのように、手のひらを返したように温かい態度を示したりすることもあります。
周りの人は、この感情や態度の急激な豹変ぶりについていくことができず、戸惑い、疲弊し、最終的には本人から離れていったり、あるいは一時的に距離を置いたりします。しかし、多くの場合、それがパーソナリティ症によるものであるとは分からず、「あの人は、ただ単に短気なだけだ」「ヒステリックな人だ」「すぐに難癖をつける、面倒くさい人だ」といったように、誤解されたまま終わってしまうことが、決して珍しくありません。

また、症状が比較的軽い場合には、一見すると周りの環境に上手く適応しているように見えることもあり、ご本人も周りの人も、知らず知らずのうちに症状が深刻化している、という可能性もあります。
境界性パーソナリティ症 チェック
以下の項目に、あなたはいくつ当てはまりますか? ご自身の心の状態を振り返ってみましょう。
- 人や物事に対して、熱しやすく冷めやすい傾向がある。
- 慢性的に、言いようのない空虚感(むなしさ)を感じている。
- 他人に対して、強い恨みや憎しみを抱くことが時々ある。
- 家族や大切な人から、必要とされていない、見捨てられる、と感じることがある。
- 自分自身を、無性に傷つけたくなる衝動に駆られる時がある(リストカットなど)。
- 友人や同僚など、周りの人との人間関係が、なぜか長続きしないことが多い。
- 人の好き嫌いが非常に激しく、相手を「完璧な味方」か「完全な敵」か、といったように、極端に分けてしまう傾向がある。
- 自分と異なる意見や価値観を持つ人に対して、強い違和感や嫌悪感を覚える。
- 一日の中でも、気分が急激に、そして大きく変動することがよくある。
- 他の人の気持ちや行動を、自分の思い通りにコントロールしたくなる時がある。
- 自分が本当はどんな人間で、何をしたいのか、よく分からないと感じる。
- 自分の思い通りに物事が進まないと、激しいイライラを感じ、それを抑えることが難しい。
- 周りの大切な人から、見捨てられてしまうのではないか、という強い不安に、突然襲われることがある。
- 一旦怒り出すと、その感情を自分でコントロールすることが非常に難しい。
- 最初は「素晴らしい!」と理想化していた人に対しても、些細なきっかけで、突然「最低だ!」と幻滅し、評価が180度変わってしまうことがある。
- 自分が傷つけられたと感じた時、相手にも同じか、それ以上の苦しみを与えるべきだ、と感じることがある。
- 一度、嫌なことや不快なことが頭にこびりつくと、なかなか離れず、相手を責め立てたり、ひと悶着起こしたりしないと、気が収まらない。
- 自暴自棄になり、「死んでしまいたい」と考えることがあり、実際に死をほのめかすような発言をしたことが、過去にあった。
- 本来やるべきことに集中できず、自分が好まないことに対しては、全くやる気が起きず、手につかない。
境界性パーソナリティ症の様々なタイプ(現れ方)
「境界性パーソナリティ症(境界性パーソナリティ障害)」と一口に言っても、その症状の現れ方は人によって様々です。表面に現れやすい行動パターンによって、以下のようなタイプに分類して考えることもできます。境界性パーソナリティ症の症状の現れ方には個人差がありますが、行動パターンとして以下のような傾向が見られる場合があります。ただし、これらは医学的分類ではなく、あくまで理解の一助としてください。
1.「自暴自棄型」境界性パーソナリティ症
精神的なストレスや、強い不安を感じた時に、衝動的で危険な行動(暴走行為)を起こしやすいタイプです。例えば、自殺をほのめかしたり、実際に自殺未遂を繰り返したり、リストカットなどの自傷行為、あるいは薬の大量摂取(オーバードーズ)をしたりすることがあります。時には、万引きや暴力といった、犯罪的な行為を繰り返してしまうこともあります。

2.「依存強化型」境界性パーソナリティ症

強い不安感や空虚感から、一人でいることに耐え難い苦痛を感じ、「誰かに頼って生きていかなければならない」と強く思い込んでいるタイプです。人を巧みに自分の味方に引き込んだり、取り込んだりする術に長けており、常に誰かに寄生(パラノイア)するようにして、自分の存在を支えようとします。「共依存」の関係に陥りやすいのも、このタイプの特徴と言えます。
3.「自己愛型」境界性パーソナリティ症
人から嫌われたり、見捨てられたりするかもしれない、という不安から自分を守るために、「自分は特別な存在なのだ」「自分は優れているのだ」と、過剰に思い込もうとするタイプです。自分のことばかりを話し、自慢話が多かったり、他人から批判されることを極度に嫌い、少しでも否定的なことを言われると、相手に対して過剰な怒りや恨みを抱いたりする傾向が強いです。これは、厳密には「自己愛性パーソナリティ症」との境界が曖昧な場合もあります。

4.「攻撃型」境界性パーソナリティ症

何か不満を感じると、その怒りや欲求不満を、激しく周囲にぶつけ、当たり散らすタイプです。家庭内暴力(DV)を引き起こしたり、別れた相手に対して執拗な嫌がらせや付きまとい(ストーカー行為)に発展したりすることもあります。一旦、怒りの感情を覚えると、相手に対して、それ以上の精神的な打撃を与えようとする、強い攻撃性を持っているのが特徴です。
5.「快楽型」境界性パーソナリティ症
心の中にある不安や空虚感を和らげるために、衝動的に快楽を求めてしまうタイプです。例えば、特定の相手に限らない無計画な性行為(セックス依存症)、借金をしてでもやめられないギャンブル依存症、あるいは処方薬や違法薬物への薬物依存症などに陥ることが多いのが、このタイプの特徴です。周りの人は、その行動をなかなか理解できず、不甲斐なさを感じるかもしれませんが、他のタイプに比べると、直接的な攻撃性は少ない、比較的おとなしい部類と言えるかもしれません。

6.「引き籠り型」境界性パーソナリティ症

人から傷つけられたり、見捨てられたりすることへの強い恐怖心から、社会との関わりを避け、家に引きこもることで、一時的な安心感を得ようとするタイプです。理想的な人間関係を築けない、と感じると、すぐに引きこもってしまいます。「社会不安症(社交不安症)」などが併存していることも多く、他の境界性パーソナリティ症のタイプに比べれば、比較的おとなしい部類と言えるかもしれません。
このように、境界性パーソナリティ症には様々なタイプ(現れ方)がありますが、一つのタイプだけが独立して存在するわけでは決してなく、多くの場合は、様々なタイプの特徴が複雑に絡み合っていたり、上記のすべてのタイプの特徴を併せ持っていたりする人も、決して珍しくありません。
境界性パーソナリティ症の根本原因を探る
境界性パーソナリティ症の多くの方が抱えている、根深い「見捨てられ不安」は、特に幼少期の母子関係に何らかの問題があったことが、その原因となっていることが多いとされています。
愛情と安心感の不足
母親から十分な愛情や、安心できる保護(守られている感覚)を得ることができず、子どもが健全に成長するために不可欠な「安心感」が欠如した環境で育つと、子どもは精神的な自立を果たすことが難しくなります。その結果、思春期以降に「ボーダーライン」、すなわち境界性パーソナリティ症を発症してしまうことがあるのです。
例えば、母親自身が強い不安や依存心を抱えている場合、子どもが成長し、自分から離れていく(自立する)ことに対して、無意識のうちに寂しさや不安を感じてしまうことがあります。そういった母親の態度や表情を、子どもは敏感に読み取ります。そして、「お母さんから離れていくことは、悪いことなんだ」と思い込み、母親との分離に対して、異常なほどの「不安」を抱くようになってしまうのです。
親子関係と自立の課題
本来、子どもは、母親との間に築かれた心の絆(安定した愛着)を「心の安全基地(土台)」として、そこから少しずつ外の世界へと踏み出し、自立へのステップを歩んでいくものです。しかし、「見捨てられ不安」を強く抱えた子どもは、自立することよりも、「母親と一体化し、依存し続けること(共依存)が良いことなのだ」と思い込んでしまうことがあります。
また、母親との心理的な分離は、「自分と親(母親)は、別の人間なのだ」ということを認識し、自分という個性を確立していく上で、非常に大切なプロセスです。この時期に、親と自分との間に、適切な心理的な境界線を引くことができないと、大人になってからも、他人との適切な距離の取り方が分からず、対人関係で様々な困難を抱えることに繋がります。
父親が家庭に不在がちであったり、あるいは親子関係に何らかの歪み(例えば、過保護や過干渉など)があったりすることも、要因となることがあるため、母親だけが原因である、とは一概には言い切れません。しかし、やはり親からの「見捨てられ不安」が、境界性パーソナリティ症の発症に、大きく影響していることは、一つの重要な要因と言えるでしょう。
生まれ持った気質の影響?
しかし、親御さんにそのような一面が多分にあったとしても、「そこまで激しくなるものだろうか…」と感じてしまうほどの、強烈な攻撃性を見せる場合もあります。そうしたケースでは、ご本人が生まれ持った気質としか思えないような、ある種の激しさや衝動性も、発症に関与しているのかもしれない、というのが正直なところです。
「自分らしさ」の未確立
境界性パーソナリティ症を抱える方の多くが、「自分の存在意義が分からない」「自分が何をしたいのか、何に生きがいを感じるのか見つけられない」といった、慢性的な空虚感を抱えています。親から精神的に自立することができなかった、ということは、言い換えれば、「自分自身として、この世に新たに誕生すること」に失敗してしまった、と言い換える事ができるのかもしれません。
「自分らしさ」や「ありのままの自分」という感覚を、十分に確立することができないまま大人になると、ご自身の存在価値を見出すことができず、常に心が不安定な状態を持ち続けることになってしまうのです。
境界性パーソナリティ症と、周りの人々との関わり
境界性パーソナリティ症の人は、ご自身の症状が「パーソナリティ(性格)の問題」である、という自覚(病識)が乏しいことが多く、何か問題が起きた時には、「周りの人が悪いのだ」「環境が悪いのだ」と思い込む傾向が強くあります。
人間関係の破壊
「自分が常に正しい」という強い意識があるために、周りの人からの適切なアドバイスや、思いやりのある言葉を、素直に受け入れることができません。それどころか、自分と違う意見に対して、不必要に相手を批判したり、突然喧嘩をふっかけたりして、「良好な人間関係」を自ら破壊してしまうことも、決して珍しいことではありません。
このような衝動的な言動や、不安定な精神状態によって、周りの人々を困らせ、疲れさせてしまうことも、多いはずです。
家族の苦悩と疲弊
些細なことで激しく怒り出したり、自殺をほのめかして周りを騒がせたり…。そうした激しい感情の揺れ動きや、問題行動が度重なると、ご本人だけでなく、ご家族の方も、将来を悲観的に考えてしまうことでしょう。親御さんであれば、「もしかしたら、自分の育て方が悪かったのかもしれない…」と、ご自身を責めたり、あるいは、どう対処して良いか分からず、ご本人の言動にただ振り回されてしまい、結果的に状況をさらに悪化させてしまう、ということも少なくありません。
相手を思いやっての行動も、「攻撃」とみなされてしまう?
境界性パーソナリティ症の場合、ご本人に病気の自覚がない場合が多く、その結果、ご家族や友人、恋人といった、周りの親しい人たちに、様々な災難(禍)が及んでしまうことがあります。
被害者意識と責任転嫁
境界性パーソナリティ症の方は、「自分に何か問題がある」とは考えている人は非常に少なく、すべての問題の原因は「周りにいる人が悪いからだ」という感覚を、強く持っている場合が多いのです。そのため、周りの人は、常に「お前が悪い」と言われ続けることになり、だんだんと「もしかしたら、本当に自分が悪いのかもしれない…」「この人がこうなってしまったのは、自分のせいなのだ…」と、責任を感じて思い込んでしまう、というケースが見られます。
もし、あなたが相手からの激しい攻撃性を感じつつも、それに逆らうことができず、ご自身ばかりを責めてしまっている、という状況にあるならば、一度カウンセリングにお越しいただいて、その歪んでしまった感覚を、客観的に見つめ直し、修正する必要があるでしょう。
この障害を持つ方は、表面的には他人に合わせて、とても魅力的で社交的に振る舞うことも多いのですが、その一方で、相手を自分の意のままにコントロールしようとする欲求が非常に強く、一緒にいる人は、その見えない支配に巻き込まれていくことを、どこかで「怖い」と感じていることも多いのです。
委縮して、自分の意見が言えなくなってしまう
もし、何か自分の意見を言ったとしても、それが相手の意にそぐわなければ、激しく攻撃される…。そんなことが日々繰り返されると、一緒にいる人は、次第に自分の意見を言うことを諦め、ただ相手に合わせるしかなくなってしまう、という場合も出てきます。
DVとの関連や誤解
例えば、奥様に境界性パーソナリティ症があって、夫婦喧嘩が起こった場合などに、実際には暴力はなかったとしても、「夫からDVを受けた!」と主張され、夫がDV加害者として扱われてしまう、というケースも出てくるでしょう。DVの事実がなかったとしても、相手を貶めるために、DVに該当するような事例を巧みに作り出して訴える、といった場合もあり、心が疲弊してしまうパートナーの方も、実は少なくありません。
執拗に相手を攻撃し続ける、という特性もありますので、一緒にいる人は怖くなってしまい、近づくことさえ、ためらわれるようになる場合もあります。不安定な相手のことを心配しつつも、同時に「怖い」と感じてしまう… そんな矛盾した感情を抱えることもあるでしょう。
周囲の理解と適切な距離
何か話し合いをしようと思っても、相手の意にそぐわなければ、すぐに攻撃的な態度を見せる、というのも、この障害の特性の一つです。ですから、周りの人は、まずその点についての正しい理解をしておくことが必要です。
もし、あなたの身近にいる人が境界性パーソナリティ症かもしれず、その付き合い方に悩んでいる、という場合には、当セラピーのような専門機関で相談することも可能です。もし、あなたがその相手と、これからも関係を続けていきたい、と望むのであれば、どのように対応していくのが良いのか、具体的なアドバイスをすることも可能です。
相手と適切な距離を置くことも、時には必要です
境界性パーソナリティ症は、若い女性に多いとされています。もし、ご家族やパートナーがその性質を持っている場合、相手の気持ちに合わせてあげることも大切ですが、同時に、ご自身のペースや境界線を、しっかりと守ることも、非常に重要になってきます。
依存されないための境界線
「ここまでは、あなたの気持ちに付き合えるけれど、これ以上は、私にはできないよ」ということを、はっきりと、そして一貫して伝えておくこと。そして、必要以上に相手に依存されないように、適切な心理的な距離を保つことが、お互いのためにも大切になってきます。
人は誰しも、「この人は可哀想だな…」という気持ちを持つと、「何かしてあげたいな」という優しい感情が湧いてくるものです。しかし、境界性パーソナリティ症の人は、そうした相手の善意や同情心をも、ご自身の思い(欲求)を遂げるために、最大限に利用しようとする特質を持っている、ということも、残念ながら理解しておく必要があるでしょう。
相手の感情の波や、要求に、ただ巻き込まれてしまうのではなく、毅然とした態度で接することも大切です。「これ以上は付き合えない」ということを、相手に明確に示していくことで、相手に巻き込まれない、という強い意志を持つようにしましょう。
恵まれた環境でも、境界性パーソナリティ症になる?
境界性パーソナリティ症を発症している場合、一見すると、比較的恵まれた環境で育ってきたように見える方であっても、その症状が現れているケースもあります。
思い通りにならないことへの不耐性
言い換えれば、これまでの人生で、ほとんどのことが自分の思い通りになってきた、という経験を持つ方が、ほんの些細なことでも、自分の思い通りにならないことがあると、それに耐えられず、即座に不安定になってしまう、というケースなどもあります。
また、その「恵まれた環境」というものが、ご自身の力で手に入れたものではなく、たまたま周りの環境が良かっただけである、という場合、そのことに感謝することができずに、かえってご自身の無力感を感じてしまい、「自分の存在意義は何なのだろうか…」と疑問を感じる、というネガティブな方向に気持ちが向いてしまうことも多いようです。
不安感と攻撃性の裏返し
自分に自信が持てない状況の裏返しとして、相手を攻撃するという行動に出ている場合もあるのですが、その根本にあるのは、「自分は見捨てられてしまうのではないか…」という、根深い不信感や不安感なのです。
ご自身の心の中にある不安感や不信感を本当に解消できるのは、パートナーや家族ではなく、あなた自身なのだ、ということを知ること。それが、相手との良好な関係性を築いていく上での、大切さへの気づきとなることもあります。
「構ってもらいたい」から攻撃してしまう、という特徴も
普通に生活していれば、仕事や学業など、誰にでもやるべきことがたくさんあり、それに費やす時間も大切になってきます。
注目されたい欲求と試し行動
しかし、境界性パーソナリティ症の場合には、「24時間、常に自分のことだけを考えて、構ってほしい」というような、非常に強い欲求を抱えている場合が多く、相手を執拗に攻撃することで、「自分への愛情や忠誠心が、どの程度あるのか」を、試そうとする気持ちが働いていることもあります。
パートナーやご家族は、そうした感情の渦に巻き込まれないようにすることが大切です。そして、相手からの理不尽な攻撃に対しては、断固とした態度で接することも、時には必要になってきます。
周囲の疲弊と適切な対応
狂言的な自殺未遂などを繰り返す場合もあり、ご家族はそのたびに、精神的にひどく疲弊してしまいます。もちろん、その際には、まず相手の気持ちをなだめ、落ち着かせるための言動が必要になってくる場合もあるでしょう。しかし、同時に、「これ以上は、もう無理だ」という限界点を、ご自身の中で明確に持ち、それを相手にも(可能であれば)伝えた上で、行動を取ることが必要になります。
手に負えないほど攻撃性が高まった時は、専門機関へ
もし、ご本人の攻撃性があまりにも高まり、ご家族だけでは手に負えない、と感じるような状況になった場合には、パートナーやご家族が、まず精神科などの専門機関を受診し、相談することも有効な方法です。
境界性パーソナリティ症の精神療法として有効性が示されているものに、弁証法的行動療法(DBT)やメンタライゼーションベースドセラピー(MBT)などがあります。
家族自身のサポートも重要
ご本人に直接、色々なことを言い聞かせようとしても、あまり効果がない場合も多いため、まずご家族が、どのように対応するのが良いのかを学び、専門家からのアドバイスを受けることは、非常に重要です。
また、ご家族自身の睡眠時間を確保することや、ご自身の心身の健康に影響が出ないように、適切な距離を取ることも、必要になってきます。境界性パーソナリティ症の方の激しい攻撃性は、ご家族の心をも蝕んでいくほどの、大きな影響力を持っています。ですから、まずはご自身の心と体を守ることも、決して忘れないでください。
相手からの攻撃的な言葉を、すべて鵜呑みにして、「自分が悪いのだ…」と思い込み、ご自身を見失ってしまわないように、くれぐれも心掛けてください。悪くもないのに謝ってしまうと、相手はさらに増長し、もっと激しい攻撃を仕掛けてくる可能性が高いです。ですから、そこはきちんと一線を引いて、「これ以上は対応できない」と、明確に伝える勇気も必要です。もし、そこで相手が自殺未遂などを起こすようなことがあったとしても、その脅しのような行動に、安易に流されない冷静さも、時には必要になってくるでしょう。(※ただし、本当に命の危険がある場合は、迷わず救急などの対応が必要です。)
一人で抱え込まず、カウンセリングで相談してください
境界性パーソナリティ症の家族やパートナーのことで、もしあなたが深く悩んでいるのであれば、どうか一人で抱え込まないで、私たちにご相談ください。
客観的な視点と対処法
一緒にいることで、「自分が悪いのではないか…」と、思い込まされてしまっている可能性も十分にあります。ですから、まず第三者であるカウンセラーに話を聞いてもらうことで、「あなたは決して悪くないんですよ」ということを、客観的に確認し、認識することが大切です。
また、相手への具体的な対処の仕方などを学ぶことで、相手の問題と、ご自身の問題を、はっきりと区別できるようになります。そして、「ここまでは許容できるけれど、これ以上は無理だ」という境界線を、しっかりと相手に伝えることも必要です。
ご自身の中で、「自分が悪いのだ」と思い込んでいる、そのつらい感情を、まず外に吐き出してみましょう。そして、実際にはそうではない、ということを確認していきましょう。
ご本人が、ご自身の問題に自分で気づくことが、一番の理想ではあります。しかし、それが難しい場合も多いのが、この障害の特徴でもあります。ですから、まずご家族が、どのように対応すべきかということを、カウンセリングを通してアドバイスさせていただくことも可能です。
境界性パーソナリティ症というものが、一体どんなものであるのか、そして、それに対してどのように対応していくのが良いのか、といったことを学んでいくことで、現在の苦しみを和らげ、より穏やかな毎日を取り戻すことも、可能になります。相手からの要求にすべて応えようとするのではなく、節度を持って付き合っていくことが、お互いのためにも必要になってくるでしょう。
何よりも、あなた自身が変わることが大切になってくる、ということを知っておいてください。境界性パーソナリティ症の方と、しっかりと対峙できるだけの精神力と、賢明な対応(知恵)を、聖心こころセラピーで一緒に身につけていきましょう。
境界性パーソナリティ症の克服に向けて
境界性パーソナリティ症は、症状が悪化すると、「統合失調症」のように被害妄想が強まったり、攻撃性が増したりして、人間関係に深刻な亀裂が生じやすくなります。また、「うつ病」や「不安症」、「摂食症」などを併発することも少なくありません。
※境界性パーソナリティ症では、強いストレス時に一時的な妄想様の体験や解離症状が出ることがありますが、統合失調症とは異なる診断です。
うつ病との併発
この中でも、一番合併しやすい症状は「うつ状態」であり、境界性パーソナリティ症の方の約80%が、うつ病(または、うつ的な症状)を併発していると考えられています。
早期改善の重要性
こういった合併症に悩まされる前に、できるだけ早期に症状を改善し、ご本人だけでなく、周りの大切な人たちも、安定した穏やかな生活を取り戻す必要があります。
名古屋聖心こころセラピーでは、まず、ご本人の症状や、置かれている状況を、ご自身で客観的に認識し、自覚していただくところから、サポートを始めていきます。そして、人に対する根深い「見捨てられ不安」などの慢性的な不安感を解消し、もっと素直に相手の理解を求め、円滑な対人関係を築くことができるように、コーチングやカウンセリングを通して、丁寧にサポートいたします。
あなた自身の不安感を本当に収めることができるのは、もはや家族や友人といった他者ではなく、あなた自身の心の中に見出すしかないのかもしれません。そのお手伝いを、私たちがさせていただきます。
境界性パーソナリティ症の心理テスト
参考文献・参考資料
- 大野裕(2002) 『パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか』 PHP新書
- 小羽俊士(2009) 『境界性パーソナリティ障害:疾患の全体像と精神療法の基礎知識』 みすず書房
- アメリカ精神医学会(著),日本精神神経学会(監訳)(2023) 『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル テキスト改訂版』 医学書院