パーソナリティ症各種カウンセリング

パーソナリティ症(パーソナリティ障害)には、様々なタイプがあります。
例えば、人との関わりを避け、孤独を選んでしまう性質、自分が絶対的に正しいと思い込み、他者の意見を受け入れられない性質、感情の起伏が激しく、衝動的に相手を傷つけてしまう性質、あるいは、自分の人生の決定を他人に委ねてしまう性質…。

これらの極端に偏った性格傾向が、ご本人の幸福な人生を妨げ、様々な困難を引き起こしてしまうことがあります。

目次

パーソナリティ症(人格障害・パーソナリティ障害)とは?

物事の考え方や、それに基づく行動パターンは、人それぞれ異なり、本来は「個性」として尊重されるべきものです。
しかし、その考え方や行動パターンが、著しく偏っていたり、反社会的な傾向を持っていたりすると、ご本人が社会生活にうまく適応することが困難になるだけでなく、周りの人々との対人関係においても、深刻な問題を引き起こしてしまうことがあります。

一般の人と比べて、明らかに偏った行動をとり、社会的な常識やルールから逸脱し、結果として社会的・職業的な機能に著しい障害を引き起こしてしまっている…。そのような場合に、「パーソナリティ症(かつては「人格障害・パーソナリティ障害」と呼ばれていました)」の可能性が考えられます。

パーソナリティ症とは? 常識やルールから逸脱 社会生活にうまく適応出来ない

パーソナリティ症の特徴:気づきにくい「偏り」

「パーソナリティ症(パーソナリティ障害)」の大きな特徴の一つとして、「ご本人には、その偏りに対する自覚がない」という点が挙げられます。
そのため、知らず知らずのうちに周りの人を困らせたり、深く傷つけたりしてしまい、「トラブルメーカーだ」「付き合いにくい人だ」といった印象を持たれてしまうことがあります。

そうした状況が深刻化し、日常生活を送る上で様々な問題が頻繁に発生するようになって、はじめて、ご自身がパーソナリティ症の傾向を持っているのではないか、と認識することもありますが、多くの場合、自覚に至るのは稀です。

パーソナリティ症は、青年期(思春期後半)や成人期の早期にその兆候が現れ始めることが多く、その偏ったパターンが、長期間にわたって持続します。
その結果、二次的に不安や抑うつといった精神的な不調を併発することも少なくありません。
しかし、そのような症状が出ていても、ご本人は「自分の性格(パーソナリティ)に問題がある」とは認めようとせず、「問題の原因は、周りの人間や環境にあるのだ」と思い込んでいる場合がほとんどです。

補足:「人格障害」という言葉には、どこかネガティブで、レッテル貼りのような響きがあるため、最近では「パーソナリティ症・パーソナリティ障害」あるいは「パーソナリティ機能障害」といった、より中立的な表現が用いられることが多くなりました。

一言で「パーソナリティ症(パーソナリティ障害)」といっても、その現れ方は様々です。
一般的には、似たような特徴を持つグループごとに、大きく3つのカテゴリーに分類されています。

  1. A群(奇妙で風変わりなタイプ):妄想性、統合失調質、統合失調症型
  2. B群(感情的で移り気なタイプ):境界性、自己愛性、反社会性、演技性
  3. C群(不安で内気なタイプ):回避性、依存性、強迫性

以下では、C群、B群、A群の順に、それぞれのタイプについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
(※この分類は、専門家の間でも議論があり、変更される可能性もあります。)

C群:心配・不安が強いタイプのパーソナリティ症

自分に自信が持てず、常に不安や心配が強いのが特徴です。パーソナリティ症の中では、比較的症状が軽い(ただし、本人の苦痛は大きい)タイプとも言えます。

回避性パーソナリティ症

回避性パーソナリティ症は、「恥をかいたり、拒絶されたり、嫌われたりすること」を極度に恐れるため、人と深く関わることを強く望みながらも、傷つくことを恐れて、社会的な交流や親密な関係をできるだけ避けようとする傾向があります。

男性に比較的多く見られると言われています。「統合失調質パーソナリティ症」(後述)とは異なり、孤独感や、人との交流が苦手であることに対して、強い苦痛や悩みを感じています。
一見すると「人間嫌い」のように見えるかもしれませんが、実際には人との温かい繋がりを強く求めているのです。しかし、極端な自信のなさや、低い自己評価から、自分から積極的に行動することができない、というのが、このタイプの特徴です。

依存性パーソナリティ症

依存性パーソナリティ症は、不安や恐怖心が非常に強く、「誰かに面倒を見てもらいたい」「常に誰かに支えられていたい」という、過剰なまでの依存的な欲求を常に持っています。

特に、親密な関係にある人(親、恋人、配偶者など)から見捨てられることへの強い不安(見捨てられ不安)を抱えているため、相手に対して非常に従属的で、自分の意見を主張できない消極的な態度をとるかと思えば、逆に相手にしがみつくような行動をとってしまうこともあります。
ひどい場合には、相手からの愛情や支持を失いたくない一心で、自分にとって不快なことや、理不尽な要求まで、自ら進んで受け入れてしまうことも少なくありません。

ご自身が「依存性パーソナリティ症」であるという自覚がない人も多く、依存していた対象(人)を失い、強い不安感や抑うつ感に襲われた時に、はじめて自分の抱える問題に気づく、という人もいます。

強迫性パーソナリティ症

強迫性パーソナリティ症は、完全主義・完璧主義であり、社会的なルール、道徳、秩序、手順といったものに対して、異常なほど固執し、厳格に従おうとします
物事の細部にこだわりすぎるあまり、柔軟な考え方や対応ができず、周りの人からは「頑固で、融通が利かない人」という印象を持たれがちです。

ご本人だけでなく、他人のミスや失敗をも許すことができず、そのため、優しさや思いやりといった感情を、素直に示すことが苦手です。
娯楽や友人関係といった、人生の楽しみや潤いを犠牲にしてまで、仕事や学業などに過剰にのめり込む傾向があるため、「ワーカホリック(仕事依存症)」や「うつ病」に陥ってしまう危険性も高いのが、このタイプの特徴です。

B群:感情的で移り気なタイプのパーソナリティ症

感情の波が非常に激しく、行動が衝動的で、演技的な自己主張が目立つのが特徴です。自己中心的な傾向が強く、精神的にも不安定になりやすいため、周りの人々を巻き込むことが多く、「トラブルメーカー」と見なされやすいタイプと言えます。

境界性パーソナリティ症(BPD)

すべてのパーソナリティ症の中で、最も診断される頻度が高いとされ、その大半は女性であると言われています。今後も増加傾向にあると考えられています。
感情のコントロールが非常に不安定で、気分の変動が激しいことから、「双極症(躁うつ病)」と間違えられることもあります。

境界性パーソナリティ症の方は、根底に「見捨てられること」への強烈な不安(見捨てられ不安)を抱えています。そのため、常に激しい寂しさや怒り、虚しさ、自暴自棄な感情が渦巻いており、相手が自分を見捨てないかどうかを繰り返し試すような行動(例:過剰な要求、試し行為、自傷行為のほのめかしなど)をとってしまいます。
そのため、安定した人間関係を築くことが非常に困難で、対人関係において常にトラブルを起こしてしまいがちです。

人に対する評価が「理想化(最高の人!)」と「こき下ろし(最低な奴!)」の間を極端に揺れ動くのも特徴で、昨日まで味方だと思っていた人に対しても、少しでも不満を感じると、即座に「敵」とみなし、激しい怒りをぶつけてしまう、といった衝動性が見られます。
いわゆる「クレーマー」と呼ばれる人の中には、この境界性パーソナリティ症の傾向を持つ方が多いのではないか、と考えられています。

自己愛性パーソナリティ症

自己愛性パーソナリティ症とは、ありのままの自分を愛することができないために、その代償として、「自分は人よりも優れていて、才能があり、特別な存在でなければならない」という誇大化した自己イメージに強く囚われている状態です。

自分の思い通りに物事が進むのが当然だと思っているため、他人から批判されたり、指摘されたりすると、プライドをひどく傷つけられたと感じ、すぐにカッとなったり、激しい怒りを示したりします。
また、自分の優越感を満たすためであれば、平気で人を利用したり、他人を見下したり、軽蔑したりすることに、むしろ快感を覚える傾向さえあります。
そのため、真の意味で対等で、安定した人間関係を築くことができないのが、このタイプの特徴です。

反社会性パーソナリティ症

反社会性パーソナリティ症は、10代半ばから20代前半の男性に多く見られ、自分の利益や欲求のためには、他人の権利や感情を、平気で、無神経に踏みにじる傾向があります。
自分自身しか信頼しておらず、そのため、他人も自分と同様に「自分に対して危害を加える存在だ」と認識していることが多いようです。
そのため、少しでも不満を感じると、すぐに相手を「敵」とみなし、感情を抑えられずに暴力をふるったり、攻撃的な行動をとったりすることも少なくありません。
また、自分の利益のためであれば、平気で人を騙したり、嘘をついたりすることもあり、法律違反や犯罪行為を繰り返す傾向があるのも、このタイプの特徴です。

演技性パーソナリティ症

日常生活において、常に自分が注目の的でありたいと強く願い、外見を異常なほど気にする、という特徴があります。
90%近くが女性であると言われています。芝居がかった、大げさな言動をとったり、異性の注目を引くために、過度に性的な魅力をアピールするような行動をとったりすることもあります。

自分の行為が注目されないと、自分の価値を見出すことができないため、注目を得られない状況は、本人にとって大きなストレスとなり、さらに派手で、人目を引くような行動にのめり込んでいく傾向があります。
一見すると、表現力が豊かで、活発な人に見えるかもしれませんが、精神的には非常に不安定で、感情の起伏が激しく、ドラマティックな混乱を引き起こしやすいのが、このタイプの特徴です。

A群:奇妙で風変わりなタイプのパーソナリティ症

他のタイプのパーソナリティ症に比べて、遺伝的に統合失調症との関連が考えられる気質を持っていることが多く、周りの人からは「少し変わっているな」「奇妙だな」といった印象を持たれやすいタイプです。

妄想性パーソナリティ症

妄想性パーソナリティ症とは、根拠がないにも関わらず、他人に対して極度に疑い深く、「自分は不当に扱われている」「利用されている」「危害を加えられようとしている」といった不信感を常に抱いている状態です。
他人の何気ない言動を、すべて自分への悪意や批判だと曲解してしまいます。
例えば、目が合っただけで「にらまれた!」と主張したり、人がヒソヒソ話しているのを見ると「自分の悪口を言っているに違いない!」と思い込んだりするため、周りの人も次第に恐れを感じ、距離を置くようになります。

過去に人に侮辱されたり、傷つけられたりした経験があると、そのことをずっと根に持ち、恨みを抱き続け、時には復讐を企てることもあり、危険な行動につながる可能性も内在しています。
プライドが非常に高く、自分に対する評価に過敏であり、不当な扱いを受けたと感じると、激怒したり、暴力をふるったりすることもあるのが、このタイプの特徴です。

統合失調質人格障害(シゾイド型人格障害)

「統合失調症」が持つ症状の一部(感情の平板化、社会的引きこもり、興味や喜びの喪失など)と関連が深いと考えられるパーソナリティ症です。(2002年までは「分裂病質人格障害」と呼ばれていました)

社会的な場面でも、対人関係においても、自ら孤立しているように見えます。しかし、もともと人付き合いに関心が薄いため、その孤立していること自体について、本人は特に悩んだり、苦痛を感じたりすることはありません。
他人に批判されても、褒められても、あまり感情が動かず、関心が低いように見えます。感情表現が乏しいため、周りからは「物静かで、大人しい人だ」というイメージを持たれることがあります。

一人でいる時に何かに熱中するというよりも、空想にふけることを好み、社会的な常識や慣習に対して、鈍感とも言えるほど興味や関心がないのが、このタイプの特徴です。

統合失調症型人格障害(分裂病型人格障害)

統合失調症型人格障害も、統合失調症との関連が考えられているパーソナリティ症です。(以前は「分裂病型人格障害」とも呼ばれていました)
成人期の早期にその特徴が現れ始め、人と親密な関係を築いたり、それを維持したりすることが非常に苦手で、協調性に欠ける面が見られます。

また、奇妙で風変わりな考え方や信念(例:自分には特別な力がある、テレパシーが使えるなど)、魔術的な思考、現実離れした知覚体験(例:誰かに見られているような気がする、など)といった、統合失調症に似た思考や知覚の歪みが見られることがあります。
ただし、明らかな幻覚や妄想といった、統合失調症の陽性症状はありません。

あらゆる出来事が自分に関係しているように考える「関係念慮」も特徴的で、例えば、人がコソコソ話しているのを見ると、「自分の悪口を言っているに違いない」と感じてしまいます。
周りからは、「非常に風変わりで、奇妙な人だ」という印象を持たれやすいのが、このタイプの特徴です。

【補足】解離性同一性障害

解離性同一性障害は、かつては「多重人格障害」と呼ばれていました。
厳密にはパーソナリティ症とは異なる「解離性障害」というカテゴリーに分類されますが、パーソナリティ症、特に「境界性パーソナリティ症」と併存したり、混同されたりすることが多いため、ここで触れておきます。

「境界性パーソナリティ症」は、気分の変動が激しいものの、自己(パーソナリティ)の同一性は保たれています(つまり、自分は自分であるという感覚は失われていない)。
それに対して、「解離性同一性障害」は、耐え難いトラウマ体験などから自分を守るために、本来の自分(主人格)とは別の、複数の人格(交代人格)が、その人の意識や行動を支配するようになってしまう状態です。

パーソナリティ症:自覚なき「偏り」とその影響

パーソナリティ症の場合、その偏った考え方や行動パターンが、本人の「性格」の一部として、長年にわたって形成されているため、ご自身ではそれが「問題」であるとは認識できない場合がほとんどです。
しかし、実際の生活においては、人間関係や社会生活を営んでいく上で、様々な困難や弊害が現れており、決して無視できない問題となっています。

一般的な人と比べると、明らかに偏った考え方や価値観を持っているため、周りの人との間に摩擦や衝突が生まれやすくなります。
しかし、パーソナリティ症の場合、薬で考え方そのものを変えることはできませんし、ましてや薬だけで治るものでもありません。そのため、適切な治療やサポートに繋がらず、結果的に問題が放置されたままになっているケースも多くあります。

パーソナリティ症の人との付き合い方:適切な距離感

もし、あなたの身近な人にパーソナリティ症の傾向が見られる場合、その人と付き合っていくには、一定の配慮や工夫が必要になるかもしれません。
基本的には、あまり波風を立てないように、相手の言動に過剰に反応せず、ある程度は合わせていく、という姿勢が必要になる場面もあるでしょう。

しかし、「パーソナリティ症(パーソナリティ障害)」とまで言えるような、極端な偏りや問題行動が見られる場合、それは単に「付き合いにくい」というレベルを超え、あなた自身が精神的に傷つけられたり、何らかの被害を受けたりする可能性も否定できません。そのような場合には、ご自身の安全と心の健康を守ることを最優先し、適切な距離を置くことも、時には必要になります。

無理に対立せず、配慮しながら接する

パーソナリティ症の傾向は、青年期頃から顕著になり、社会生活の中で生きづらさを感じ始めることが多くあります。しかし、本人はその原因を周りのせいにしたり、「自分は悪くない」と考えたりする傾向が強いため、なかなか自分自身の問題として認識することが難しいのです。

考え方に多少の偏りがあったとしても、それが社会生活を送る上で大きな問題とならず、本人も周りもそれほど困っていないのであれば、それは「個性」の範囲内と言えるかもしれません。
しかし、その考え方の偏りやパーソナリティの問題によって、周りの人との間でトラブルを頻繁に起こしたり、社会生活に著しい支障をきたしたりするようであれば、やはり何らかの対応が必要になってきます。

周りの人が疲れ果て、離れていってしまう…

パーソナリティ症の場合、ご本人に自覚がないまま、「周りが悪い」「自分は正しい」と考え続けてしまうことで、結果的に、周りの人々は疲れ果て、次第に距離を置き、離れていってしまう…という、孤立のパターンに陥りがちです。

もし、ご本人に「自分には、こういう偏った傾向があるのかもしれない」という自覚があり、「それを直したい」「改善したい」と努力している場合には、周りの人もサポートしやすく、状況が改善していく可能性もあります。
しかし、その認識が全くない場合、知らないうちに他人や家族を振り回し続け、周りの人々も、その対応に疲れ果ててしまうことになります。

まずは、ご自身の性格や行動パターン(人格の特質)を客観的に理解し、もしそれが一般的な社会生活を送る上で、明らかに不適合を起こしているのであれば、それに合わせていくための、考え方の修正や、行動の変化が必要になってきます。
「自分にも問題があるのかもしれない」という認識を持つこと。それができなければ、このパーソナリティ症の問題は、いつまで経っても解決せず、改善も難しいと言えるでしょう。

パーソナリティ症にも様々なタイプ:根底にあるもの

パーソナリティ症には、これまで見てきたように、いくつかのタイプに分類されています。
しかし、その根底には、共通して「自己中心的な傾向」や「未熟な自己愛」といった、気質的な問題が見られることが多い、とも言えます。

  • 誰かに過剰に頼りたい、依存したい、という気質
  • 批判や失敗を極端に恐れ、人との関わりを避けてしまう、という気質

…など、基本的な性格の構成要素は、幼い頃からの様々な経験を通して培われてきたものです。
そして、それが社会生活を営む上で、大きな困難や弊害を生み出すようになった時に、「パーソナリティ症」という形で、問題として表面化してくるのです。

これまでは特に問題なく過ごせていたのに、社会的な状況の変化(例:就職、結婚、昇進、人間関係の変化など)をきっかけに、潜在的に抱えていたパーソナリティの問題が、顕在化してくることもあります。
自分に自信がなくなり、周りを責めるような行動をとるようになったり、社会生活にうまく馴染めなくなったり…。

しかし、たとえパーソナリティ症の傾向があったとしても、私たちはこの社会で生きていかなければなりません。
適切な治療(精神療法や、場合によっては薬物療法)や、専門家による指導(カウンセリングなど)を受けることにより、その偏りを和らげ、社会にうまく適応し、溶け込んでいくことは、十分に可能です。

周囲との関係に支障 自信がなくなる

パーソナリティ症からの回復:考え方と行動を変える

完璧主義や失敗への恐れを手放す

完璧主義の傾向が強かったり、失敗して恥をかくことを極端に恐れたりする…。
そんな場合でも、勇気を出して一歩踏み出し、様々な経験を積むことで、「失敗しても大丈夫なんだ」「完璧でなくても良いんだ」ということを、体験を通して学んでいくことができます。
しかし、パーソナリティ症を抱えている方は、その「一歩」を踏み出すこと自体が、非常に怖いと感じていることが多いのです。

対人関係のパターンを変える

対人関係においても、相手に過剰な期待をかけ、それが満たされないと、激しい怒りや失望を感じ、相手を攻撃する、といった不安定なパターンを繰り返してしまう人もいます。
そのような関わり方を続けていれば、一緒にいる人は疲れ果て、次第に距離を置くようになるのは、当然のことかもしれません。

もし、あなたや、あなたの身近な人に、パーソナリティ症の気配があると感じたなら、まずはその可能性を認識し、改善していくための行動を起こすことが大切です。
日常生活を送る上で、強い抑うつ感を覚えたり、周りの人に対して、常に怒りや憤りを感じたりするような場合には、パーソナリティ症の可能性も視野に入れて、一度専門家に相談してみる必要があるかもしれません。

パーソナリティ症の根底には、自信のなさが隠れている?

パーソナリティ症を持つ方の心の根底には、多くの場合、「自分自身に対する、深い自信のなさ」が隠れていると言われています。
その自信のなさを補うために、

  • 他人を見下したり、攻撃したりすることで、一時的な優越感を得ようとする
  • 他人を利用することで、自分の目的を達成しようとする
  • 常に誰かに依存することで、安心感を得ようとする

といった、不健全な方法で、心のバランスを取ろうとしているのかもしれません。
そして、そうした行動が、結果的に人の権利や心を傷つけていることに、気づくことができない、あるいは気づこうとしない、という傾向が見られます。

これは、幼い頃からの生育環境などが、大きく影響していると考えられています。
例えば、親から十分な愛情を受けることができなかったり、家庭の中で、自分自身の価値を認められるような経験が乏しかったりした場合です。
もちろん、愛情を受けて育った場合であっても、その後の人生経験の中で、「自分はダメだなぁ」と感じる経験が多くなると、次第に自信を失い、パーソナリティ症のような様子を見せるようになることもあります。

社会に出てから、問題が表面化することも

学生時代には、勉強もそこそこできて、特に大きな問題はなかった、という方でも、社会に出て、就職してから、会社という組織の中で、様々な価値観を持つ人々と関わっていく中で、潜在的に抱えていたパーソナリティの問題が、顕在化してくることもあります。
周りの人々から、多様な価値観や要求を突き付けられる中で、うまく対応できなくなり、感情的に爆発してしまったり、人間関係で孤立してしまったりするのです。

周りにいる人は、「いったい、どうしてしまったんだろう?」と戸惑うかもしれませんが、ご本人は、社会や周りの人々に対する、強い不満や恨みにも似た感情を抱えている場合も多くあります。

本来であれば、「他人のせいにしている自分」に気づき、周りの状況にも気を配り、協調性を持って関わっていく努力も必要になるのですが、パーソナリティ症を抱えている場合、「自分が悪い」という気持ちがなかなか湧いてこないため、「常に、周りが悪いのだ」という意識を持ち続けてしまう傾向があります。

自己評価の歪み:「高すぎる」あるいは「低すぎる」自己評価

自己評価、つまり自分自身をどのように評価するかは、私たちの心の安定にとって非常に重要です。周りの人々からどのように評価されているか、ということも、ある程度は気になるものです。

しかし、パーソナリティ症の場合、

  • 特に目立った功績がないにも関わらず、根拠なく自分を過大評価し、「自分は特別だ」と思い込んでいる(自己愛性など)
  • その結果、他人を馬鹿にしたり、見下したりするような態度をとる

といった、歪んだ自己評価が見られることがあります。
そのため、周りの人々からは疎まれ、敬遠されてしまいます。

人からの客観的な評価は、必ずしも自分の主観的な評価(自己評価)とは一致しない、ということを理解できれば、努力の方向性なども変わってくるはずなのですが、パーソナリティ症の場合、「自分を認めない周りが悪いのだ」と考えてしまうため、周りの人々への憎しみや恨みなどが、ますます募っていく、という悪循環に陥るケースもあります。

パーソナリティ症の根底には、幼少期の厳しいしつけや、遺伝的な要因なども、否定はできないと考えられています。

破壊的・破滅的な行動パターン:繰り返される問題

パーソナリティ症の人は、人間関係においても、あるいは日々の生活においても、衝動的で、破壊的、あるいは自滅的な行動をとってしまうことが多い、という特徴があります。
「他人は、自分の利益のために利用する道具にすぎない」といった歪んだ価値観を持っている場合もあり、他者と心からの信頼関係を築き、それを維持していくことが、非常に難しい場合が多いです。

人が嫌がることや、相手を深く傷つけるような行動も、罪悪感を感じることなく、平気でとってしまうために、次第に自分の周りから人がいなくなり、孤立してしまうことも多いでしょう。

パーソナリティ症においては、ご本人にはその自覚がない場合が多いのですが、周りで巻き込まれる立場の人々にとっては、見過ごすことのできない、深刻な問題です。そのため、付き合い方を慎重に考えていく必要が出てきます。

もし、あなたの身近にパーソナリティ症が疑われる人がいる場合、そのことに気づいてもらい、より円滑な人間関係を築けるようにサポートしてあげたい、と思うかもしれません。しかし、それは非常に難しく、デリケートな問題であるのが現状です。

しかし、パーソナリティ症といわれる気質の問題も、ご自身の考え方を変えていく努力によって、修正していくことは可能です。
例えば、

  • 人に対して、すぐに過剰な依存心を抱いてしまう
  • 少しでも思い通りにならないと、「裏切られた!」と激しく怒ってしまう

といった傾向がある場合、その考え方のパターンを、カウンセリングなどを通して少しずつ変えていき、より穏やかな毎日が送れるようにしていくことは可能です。

大切なのは、治すのは、他の誰でもない、あなた自身である、ということです。
ご自身の破壊的な考え方や行動パターンを変えていくことで、あなた自身の心が穏やかになっていくことを、きっと実感できるはずです。
常に誰かを恨んだり、疑ったりしているような生き方では、心からの幸福を感じることはできません。

パーソナリティ症の克服に向けて:私たちができること

このように、一言で「パーソナリティ症(パーソナリティ障害)」といっても、その種類や症状は様々であり、すべてが同じ原因で発症しているとは言い切れません。
遺伝的な要因と、幼少期の生育環境などの社会的な要因が、複雑に絡み合って、その障害が形成されている、とも考えられています。

しかし、そこに共通して存在するのは、多くの場合、潜在意識(無意識)の中に深く根付いてしまった、「偏った考え方」や「歪んだ価値観」です。

名古屋聖心こころセラピーでは、このような思考パターンを修正し、世の中や他者に対して、より現実的で、バランスの取れた見方を持つことができるように、コーチング認知行動療法、そしてヒプノセラピー(催眠療法)といった手法を効果的に駆使し、パーソナリティ症の改善・克服を促していきます。

「あなたを不幸に結びつけてしまう衝動や思考パターンを抑え、あなたが心からの幸福を感じられるような、新しい考え方・捉え方への移行を、私たちが全力でサポートします。」

参考文献・参考資料

  • 岡田尊司(2011) 『パーソナリティ障害がよくわかる本-「障害」を「個性」に変えるために』 ちくま文庫
  • 市川玲子・望月聡(2014) パーソナリティ障害特性と自尊感情の諸側面との関連-変動の大きさおよび随伴性に着目して パーソナリティ研究 第23巻 第2号
  • アメリカ精神医学会(著),日本精神神経学会(監訳)(2023) 『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル テキスト改訂版』 医学書院

この記事の著者

榊原カウンセラーは臨床心理士・キャリアコンサルタント・管理栄養士。日本福祉大学大学院修了(心理学修士)、名古屋学芸大学卒。公立小学校での栄養教諭を経て、現在は心理・教育・栄養の複合的な視点から支援活動を行う。日本心理学会・日本心理臨床学会会員として、心の健康や対人関係に関する情報発信・執筆にも力を注いでいる。

この記事の監修者

公認心理師・臨床心理士。教育支援センターやスクールカウンセラーとして不登校支援や保護者相談、教職員へのコンサルティングに従事。心療内科や児童発達外来にて心理検査・カウンセリングも担当。現在はオンラインカウンセリングや、心理学と仏教を融合させたセミナー活動などを行っている。

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