病気不安症カウンセリング

病気不安症(心気症)とは、「自分は何か重い病気を患っているのではないか?」と、疑心暗鬼になってしまう神経症の一種です。周りの人は「そんなに気にしなくても大丈夫だよ」と声をかけてくれますが、なかなか納得できず、病院をいくつも渡り歩いたり(ドクターショッピング)、本やインターネットで病気の情報を探し回り、かえって自分で症状を作り出してしまったりすることもあります。
病気不安症(心気症)とは「病は気から」の「気」が病む状態
「病は気から」ということわざがありますね。これは、「気持ちが弱ってしまうと病気にも負けやすくなるし、逆に気の持ちようで病状は良くも悪くもなる」という意味です。病気不安症(心気症)は、まさにこの「病は気から」の「気(気持ち)」の部分が、心の不調を引き起こしてしまっている状態と言えます。神経症の一種で、「ヒポコンドリー」とも呼ばれています。
病気不安症(心気症)の主な特徴

病気不安症(心気症)とは、「自分は何か重い病気にかかっているのではないか」という考えに必要以上に囚われ、その心配を周りの人に執拗に訴え続けてしまう状態を指します。
病院で精密検査を受けても、特に異常が見つからないことが多いため、不安が解消されず、次から次へと別の病院を受診し続けてしまう傾向があります。
これが、いわゆる「ドクターショッピング」と呼ばれる行動です。
「健康ですよ」と保証してくれる医師の診断には満足できず、むしろ「どこかに隠れているはずの病気を見つけてくれる医師」を探し求めるようになってしまうのです。
そして、少しでも病気の可能性がある部分が見つかったり、あるいは、診察中に医師やスタッフが「〇〇の可能性もあるから、念のため検査してみましょう」などと、病気を示唆するような会話をしているのが聞こえてしまったりすると… ある意味ではそれを望んでいたにも関わらず、その事実に大きなショックを受け、「やはり自分はその病気を患っているのだ」と強く思い込み始めてしまいます。
日常生活への影響
その結果、病気の末に「死んでしまうのではないか」という恐怖感がどんどん強くなり、仕事や勉強、日常生活に支障が生じ、時には欠勤や不登校、家事を放棄するようになってしまうこともあります。
病気不安症(心気症)の特徴と自己チェック
以下のような症状がある方は、病気不安症(心気症)の可能性があります。ご自身の状態を振り返ってみましょう。
- 身体のちょっとした生理的な反応(例えば、汗をかく、お腹が鳴る、動悸がするなど)を、何か重い病気の兆候ではないかと恐れたり、思い込んだりして、その考えに囚われてしまう。
- 様々な病院で適切な医学的検査を受けているにも関わらず、「自分は病気に罹っている」と考え続けてしまうが、なかなか特定の病気とは診断されずらい。
- 医師から「病気の心配はありませんよ」と保証されても、ご本人の「自分は病気に罹っているのではないか」という恐れや思い込みが消えず、持続してしまう。
- 「私は絶対に病気だ!」という確信まではないものの、「もしかしたら病気かもしれない…」という疑いが晴れず、半信半疑の状態が続き、ついついドクターショッピングをしてしまう。
もし、上記の症状が6ヶ月以上にわたり、複数該当する場合には、病気不安症(心気症)の可能性が疑われます。症状の持続期間が6ヶ月未満の場合は、「一過性病気不安症(心気症)」の可能性も考えられます。
診断の難しさ
時々、病気不安症(心気症)と勘違いされやすい状況として、高齢の方がご自身の健康状態を心配されるケースがあります。しかし、これはご自身の年齢を考えた上での合理的な心配であることが多く、通常は病気不安症(心気症)とは異なります。
病気不安症(心気症)の診断が難しい点として、症状の特徴を定義すること自体は比較的簡単ですが、実際に何らかの病気(疾患)に罹っている方との区別が難しい、という点が挙げられます。特に、過去に大きな外科手術を受けた経験のある方は、心気的な傾向に陥りやすく、実際に後遺症を患っている場合もあります。
また、病気不安症(心気症)とは異なり、「自分は間違いなく重い病気に罹っているんだ」という強固な妄想(心気妄想)に囚われてしまっていることもあり、それとの鑑別診断も難しいとされています。
「健康な病気不安症(心気症)」と呼ばれる状態
病気不安症(心気症)の中でも、病気のことを心配はするものの、特に日常生活に大きな支障をきたすほどではない場合は、「健康な病気不安症(心気症)」と呼ばれることがあります。

心気的な傾向の例
例としては、以下のようなタイプが挙げられます。
- 病気警戒型: 常に健康に気を使い、体の些細な変化にも敏感に反応する。
- 病気予防型: ダイエットや運動に熱心に取り組み、病気を予防することに努める。
- 置き換え型: 知人などが体調を崩していると、まるで自分のことのように過剰に心配してしまう。
- 否定型: たとえ軽い病気であっても、「症状がとても重い」「これからもっと悪くなるかもしれない」と非常に心配し始める。
このような「健康な病気不安症(心気症)」は、一般の人にもよく見られる傾向であり、これ自体が「神経症としての病気不安症(心気症)」と診断されることはありません。「問題がないなら、わざわざ『健康な病気不安症(心気症)』なんて呼ぶ必要はないのでは?」と思われるかもしれませんが、専門家の間では、状態を区別するためにこうした名称が使われることもあるようです。要するに、この程度であれば特に心配はいりませんよ、ということです。
「二次性病気不安症(心気症)」とは?
神経症として扱われる「二次性病気不安症(心気症)」とは、うつ病や他の不安症(例えばパニック障害など)の副次的な症状として、心気的な症状が現れるものを指します。
他の精神疾患との併発
特に、不安症の中でもパニック障害と併発することが多く見られます。パニック発作によって繰り返し起こる動悸や息苦しさ、めまいといった身体症状を、「何か重大な心臓や呼吸器の病気ではないか?」と疑い始めてしまうのです。このように、他の精神疾患の症状の一部として心気的な症状が見られる場合を、「二次性病気不安症(心気症)」と呼びます。
病気不安症(心気症)の原因を探る
病気不安症(心気症)の原因として、過去にご自身が実際に患った病気の経験や、あるいは親しい人が重い病気を患った経験が、心の深い部分に影響していることが多くあります。「あの病気は、とてもつらかった」「あの人は、あんなに苦しんだ」という記憶が強く残っているために、病気に対して非常に強い警戒心を抱き、疑心暗鬼の状態に陥ってしまうのです。
家庭環境や考え方の影響
ご本人が育ってきた家庭環境などによって形成された、特定の考え方や物事の捉え方(認知のパターン)が、病気を疑いやすい傾向を生み出している場合もあります。
病気不安症(心気症)の症状が現れ始めるきっかけとしては、テレビや雑誌、インターネットなどで医学情報に触れたり、身近な人が病気を患うのを見聞きしたりすることが挙げられます。
病気不安症(心気症)になりやすい性格傾向?
一般的に、物事を気にしやすく心配性な性質を持つ方や、他人と言い争うのが苦手な内向的な方は、心気症に陥りやすいと言われています。ただし、例外的に、自己主張が非常に強い方の中にも、稀に心気症の症状が見られることがあります。
心気症を発症しやすい考え方の背景には、ご本人の内心にあるコンプレックス(劣等感など)を刺激するような、何らかの生活上のストレスが存在していることが多いです。
なぜ、ご自身が「病気だ」と強く思い込み、周りの人にそれを訴え、まるで重大な病気を探し出すことが人生の重要な課題であるかのように振る舞ってしまうのか…。その理由は、ご本人が育ってきた環境や、現在置かれている状況などを詳しくお伺いしていくことで、原因を見つけ出すことが、多くの場合可能です。しかし、この根本的な原因は、なかなかご本人だけでは気づきにくいものです。だからこそ、心気症で長く苦しんでしまう、と言えるのかもしれません。
カウンセリングを受けることで、ご自身を本当に苦しめている原因を一緒に見つけ出し、そこから解放されるための一歩を踏み出しましょう。
自分が病気なのではないかと思い悩む、つらい心気症
何かこれ、という明確な病気(疾患)が見つからないにも関わらず、「自分は何か重い病気なのではないか…」と思い悩み、その結果、「病気の末に死んでしまうのではないか」とまで恐れてしまい、仕事や学業、家事などを放棄してしまう…。それが心気症です。お医者さんに診てもらっても、特に悪い点は見つからない、というのが特徴です。
周りの人からは、「思い過ごしだよ」「気のせいだって」「考えすぎだよ」などと言われることも多いのですが、ご本人は大真面目に「死んでしまうかもしれない」と悩み続け、次第に心が疲弊していきます。
心の持ち方を変えることで、元気を取り戻せる可能性があります
「自分は何か特別な、治らない病気にかかっているのではないか…」
そんな風に思い悩んでしまうことは、ご自身の生活の質(QOL)を大きく低下させてしまいます。
医師の診断を信じられない心理
通常であれば、病院で検査を受けて「どこも悪くありませんよ」という診断が出れば、「ああ、良かった」とホッと胸をなでおろすものです。しかし、心気症の傾向がある方は、その診断を素直に信じることができず、「そんなはずはない!きっと何か見落としがあるに違いない!」と、かえって不安に陥り、必死になってインターネットで情報を検索したり、病院を何件も変えて受診したり(ドクターショッピング)を繰り返してしまいます。
不安を解消するためのヒント
ただ、もし何か悩み事があって、それが原因で体調が優れない、と感じている場合には、信頼できる誰かに話を聞いてもらい、その不安を解消することで、体調も改善することがあります。
どこも悪くないのに、「病気ではないか」と思い悩むことは、楽しいはずの生活を送ることを妨げてしまいます。まずは、いつも通りに、毎日リズム感をもって生活することを心がけることが大切です。
健康診断などで「要検査」という結果が出た場合でも、過剰に心配する必要はありません。医師の説明をよく聞き、それほど心配するものでなければ、できるだけいつもと同じように生活しましょう。もちろん、体に良いものを食べるように心がけたり、適度な運動を取り入れたり、少し健康に気を配ることは、決して悪いことではありません。
ただし、無理は禁物です。もし、ストレスの多い生活を送っているのであれば、そのストレスを少しでも和らげる方向に行動を起こしてみたり、しっかりと休息をとることも、心と体の健康のためには非常に重要です。
病気と上手に付き合う、という考え方
「一病息災」ということわざがある通り、定期的に医師の診察を受けている人は、かえって大きな病気になりにくい、とも言われています。「転ばぬ先の杖」として、健康管理のために病院を上手に利用している方や、病気になることに対して人一倍不安感が強いからこそ、健康に過ごすための努力を怠らない、という方もいらっしゃるでしょう。健康でいるために、前向きに行動を起こすのは、とても良いことです。
過剰な心配を手放す
ただ、その「健康でいなければならない」という気持ちが大きくなりすぎて、仕事や学業、家事といった、ごく普通の日常生活を脅かすほどのものになってしまうと、それは問題です。医師の「大丈夫ですよ」という言葉を信じ、「自分は健康なのだ」と信頼して、安心して生活することも、時には必要でしょう。
心配のあまり、ドクターショッピングを繰り返し、最終的に何か病名がつくことで、かえって安心する、という場合もあるかもしれません。もし、それによってご本人が穏やかな生活を送れるのであれば、それも一つの形なのかな、と思えないこともありません。
しかし、常に暗い考えにとらわれていると、かえって体調が悪くなってしまうこともあります。できれば、もっと穏やかに、健やかに毎日を過ごせるように、不安を感じやすいご自身の性質(考え方の癖)を、セラピーを通して、より柔軟に受け止め、安心感を持てるように変えていくお手伝いができます。そのためには、病気に対する過剰な心配や恐怖心を、上手にコントロールしていくことが必要となります。
心気症の方は、まず生活習慣を見直してみましょう
「なんだか体調が優れないな…」と感じる場合には、まずご自身の生活習慣を見直してみるのも良い方法です。
生活習慣の改善
食事の時間が不規則になっていませんか? 睡眠時間は十分に取れていますか? 気になる点はないでしょうか。また、健康診断で何らかの指摘を受けた場合には、その点を改善するように、食生活を見直したり、適度な運動を取り入れたりするなど、健康管理を実際に実践してみるのも良いでしょう。
薬や病院に頼るのも一つの方法ですが、例えば、ウォーキングなどの楽しみを兼ねた運動を始めたり、栄養バランスの取れた食事を心がけたりするなど、ご自身でできることを日々意識して行うだけでも、気持ちが落ち着き、安心できることもあります。
過去に大きな外科手術などを受けた経験があると、体力が回復するまでに少し時間がかかることもあります。焦らず、体の声に耳を傾けながら、徐々に回復を目指しましょう。問題となっていた部分が改善されていけば、また普段通りの生活を送ることは可能です。
あとは、気持ちの問題も大きいので、もし気分が優れないと感じる場合には、カウンセリングなどを利用して、ご自身の気持ちを言葉にして表現してみることも、有効な場合があります。
心気症に陥る前に、つらい気持ちは誰かに話してみませんか?
「自分は何か重篤な病気にかかっているのではないか…」
そんな不安で気持ちが沈んでしまう場合には、カウンセラーなどの専門家に、そのつらい気持ちを伝えてみることも、とても良いことです。ご家族に話すこともあるかと思いますが、心配をかけたくない、あるいは理解してもらえないかもしれない、といった思いから、なかなか話せない、ということもあるかもしれませんね。
一人で悩まず、相談すること
どうか、一人で悩まずに、ご自身の心に感じていることなどを、信頼できる誰かに聞いてもらいましょう。そして、また普段通りの穏やかな生活に戻れるように、気を付けていきましょう。
また、心理的な影響から起こるパニック発作などを、「何か心臓の重い病気ではないか?」と疑ってしまう場合もあります。しかし、パニック発作自体は、命に関わるものではありません。一時的には、動悸や息苦しさなどで非常に苦しい思いをするかもしれませんが、多くの場合、発作は10分程度で自然に収まります。あまり思い詰めて、「また発作が起きたらどうしよう…」と過剰に心配することで、かえって発作を誘発してしまわないようにすることが大切です。発作が起こっても、「これは一時的なもので、すぐに良くなるんだ」と、冷静に受け止められるように、少しずつ練習していきましょう。
心気症に負けず、セルフコントロールを意識しましょう
もし、パニック発作のような症状が起こった場合でも、「ああ、また来たな」くらいの感覚で受け止め、「これはすぐに収まるものだ」と考える練習をすることも、有効な場合があります。初めのうちは、パニックになってしまうかもしれませんが、何度も経験し、症状との付き合いが長くなってくると、だんだんと「また来たな」くらいの感覚で、上手なやり過ごし方を見つけられるようになる方もいらっしゃいます。
カウンセリングによるサポート

名古屋聖心こころセラピーでは、心理療法などを通して、心の持ち方を改善していき、ご自身の中にある不安感が和らいでいくように、カウンセリングを行っています。
「何か重い病気で、死んでしまうのではないか…」と、常に悩んでいる場合には、ぜひ一度カウンセリングにお越しいただき、その不安が一体どこから来るのかを一緒に把握し、ご自身でその不安をコントロールしていけるように、お手伝いをさせていただきます。以前のような、穏やかで平穏な毎日を取り戻せるように、ご自身の考え方を、少しずつ変えていきましょう。
心気症の克服に向けて、カウンセリングを受けましょう
医師がいくら「病気の心配はありませんよ」と説明しても、ご本人はなかなか納得できません。心気症を発症している方は、恐怖、不安、抑うつといった症状にも悩まされていることが多く、その症状を軽減するために、心療内科や精神科を受診し、薬物療法が用いられることもあります。
心理療法の重要性
しかし、症状が慢性化している場合には、不安や抑うつの症状がほとんど見られないこともありますし、また、心気症そのものに対する特効薬というものは存在しません。そのため、最終的には、当セラピーのような、認知行動療法をはじめとする多様な心理的なアプローチを用い、症状の改善を図っていくことが、非常に重要になります。
心理的なアプローチでは、「自分は病気かもしれない」という考え(強迫観念)や、そこから生まれる不安感を軽減しつつ、心気症になる以前の普段通りの穏やかな生活を取り戻していくことを目指します。
根本原因への取り組み
それと同時に、心気症のような不安を感じやすい考え方に至ってしまった「根本原因」の改善にも取り組みます。そうすることによって、将来、同じような悩みを二度と抱えることのない、安定した心の状態を築いていくことを目指します。
心気症の根源は、多くの場合、極度な心配性にあります。その克服への対策は、私たちが心得ています。
参考文献・参考資料
- 高橋 徹(1993)『心気症—近年の精神医学疾病誌にみられる病像』 精神医学 第35巻 第6号
- アメリカ精神医学会(著),日本精神神経学会(監訳)(2023)『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル テキスト改訂版』 医学書院