虐待カウンセリング

一言で「虐待」と言っても、それには広い意味が含まれます。一般的には親が子に対して行う虐待が注目されがちですが、実際には、夫が妻に対して行うDV(ドメスティック・バイオレンス)や、妻が夫に対して行う言葉による侮辱や人格否定なども、広い意味での虐待に含まれると考えられます。虐待を行う人は、しばしば独善的であり、心の中に強い劣等感(コンプレックス)を抱えている場合も少なくありません。

目次

虐待とは、保護すべき弱い立場の人への暴力行為です

「虐待」とは、本来、自分が保護すべき立場にある人や動物に対して、暴力を振るったり、ひどい言葉(暴言)を投げかけたりして、肉体的または精神的に苦痛を与える行為全般を指します。

虐待の対象と種類

その対象や種類は様々で、「幼児虐待」や「児童虐待」といった子どもへの虐待、「高齢者への虐待」、「動物虐待」、そしてパートナー間(夫婦や恋人)での暴力であるドメスティックバイオレンス(DV)などがあります。

テレビや新聞などで、こうした虐待に関する痛ましい事件を目にするたびに、多くの人が「どうしてそんなひどいことができるんだ…」と怒りや憤りを感じるでしょう。しかし、同時に、どこか「自分たちの身近な世界とは違う、遠い出来事だ」と感じてしまっているのではないでしょうか。

中でも児童虐待は、ニュースで頻繁に取り上げられるようなものは、事件や事故にまで発展してしまった、非常に深刻な事例です。しかし、そこまでには至らないとしても、実は「軽度・中度の虐待」とも言えるような関わりは、私たちのすぐ身近なところで、意外と頻繁に行われている可能性が高いのです。

しつけと虐待の境界線

「疲れやストレスを感じている時、つい子どもに厳しくあたってしまった…」
子育て中の親御さんであれば、一度くらいはそんな経験があるかもしれませんね。特に、お母さんは、お父さんよりもお子さんと接する時間が圧倒的に長い傾向にあるため、子育てに対するプレッシャーやストレスは、相当なものになることがあります。

そして、知らず知らずのうちに、「しつけ」のつもりで行っていることが、その範囲を超えてしまい、「虐待」に近い状態になってしまうことも、決して少なくないのです。統計的に見ても、父親による虐待よりも母親による虐待の件数の方が多い、という事実は、そうした背景を考えると、ある意味、当然の結果なのかもしれません。

日本では、かつて家庭や学校教育の場で、「しつけ」と称した体罰が、ある意味、日常的に行われていたという歴史的な背景があります。そのため、未だに「しつけ」と「虐待」の境界線が、非常に曖昧になっている側面があります。しかし、どんな理由があれ、お子さんやパートナーが耐え難いほどの苦痛を感じているのであれば、それはもはや「虐待」と言えるでしょう。

子どもへの「しつけ」と「虐待」は紙一重

  • 「もしかしたら、我が子にしていることは、虐待なのかもしれない…」
  • 「虐待とまではいかないにしても、子どもの心を深く傷つけている気がする…」
  • 「私がお子さんに向ける態度や言葉は、やっぱり虐待だと思う…」

お子さんを持つお母さんなら、一度や二度は、ご自身のお子さんへの接し方について、こんな風に疑問を持った経験があるかもしれませんね。子どもというものは、基本的には自分の本能や欲求に従って考え、行動する、ある意味、自分本位な生き物です。なかなか親の思い通りには動いてくれませんから、時にはカッとなって、怒りたくなる気持ちも、よく分かります。

親自身の苦しみと回復への道

しかし、感情に任せて必要以上に厳しく叱りつけてしまえば、お子さんがショックを受け、深く傷つくのはもちろんのこと、お母さん自身も、「なんてひどいことをしてしまったんだろう…」と、まるで自分が消えてしまいたいと思うほどの、強い自己嫌悪に苛まれることになってしまいます。

そのようなお子さんへの行き過ぎた対応は、お子さんだけでなく、ご自身の心にも大きなダメージを与えます。そのつらい状況を、どうかそのままにしないでください。当セラピーにお越しいただき、速やかに、あなたが本来持っているはずの温かい母性愛を取り戻し、今しかないお子さんの成長を喜びながら、幸福で楽しい家族生活を取り戻すお手伝いができれば、と願っています。

様々な幼児虐待・児童虐待・子ども虐待の種類

親御さんが、仕事や夫婦関係、ママ友との関係、あるいは祖父母との関係など、様々なストレスを抱え込み、そのストレスをうまく処理することができずに精神的に不安定になり、その不満のはけ口として、お子さんに当たってしまう…。そうして起きてしまう虐待のことを、「幼児虐待」「児童虐待」「子ども虐待」などと呼びます。

一般的に、「幼児虐待」「児童虐待」「子ども虐待」と聞くと、殴ったり、蹴ったり、つねったりするような、身体的な暴力をイメージされることが多いかもしれません。しかし、虐待はそれだけではありません。実際には、大きく以下の4つの種類に分類されます。

身体的虐待 体に直積的な苦痛やケガを与える 性的虐待 性的な行為わいせつな言動をしたりする ネグレクト 親としての最低限の責任を放棄 心理的虐待 直接的な暴力でなくとも脅しや自尊心を深く傷つけるような言葉を浴びせる

身体的虐待

殴る、蹴る、叩く、物を投げつける、熱湯をかける、などといった手段を用いて、子どもの体に直接的な苦痛やケガ(傷害)を与えるものです。精神的虐待や性的虐待などと比較すると、お子さんの体の怪我や、異常なほど親を怖がる様子、あるいは不自然に親をかばうような態度などから、周りの人が気づきやすい、という特徴があります。4つの種類の中で最も件数が多い虐待ですが、これは「厳しいしつけ」との境界線が曖昧であるため、親自身も「虐待ではない」と思い込んでいるケースが多くあります。

性的虐待

義理の親、実の親、あるいは学校や塾の先生などが、子どもに対して性的な行為をしたり、わいせつな言動をしたりすることで、自身の性的な欲求を満たそうとするものです。他のタイプの虐待と比べて、被害にあっていることが外見からは分かりにくく、また、お子さん自身も被害を訴えることをためらう傾向が強いため、発見することが非常に難しい虐待の一つです。本来、守るべき立場にある大人が、未成熟な子どもの身体に性的な興味を持つこと自体が異常な行為ですが、残念ながら、そうした未熟な精神構造を持った大人は、決して少なくありません。親御さんは、常にお子さんの安全に万全な注意を払う必要があります。

ネグレクト(育児放棄・放置虐待)

食事を与えない、不潔な環境に置く、病気になっても病院に連れて行かない、身の回りの世話を全くしない、あるいは子どもとの会話を全くしないなど、親としての最低限の責任を放棄し、子どもを放ったらかしにしておく(放置する)ものです。他のタイプの虐待のように、自分の欲求のはけ口として子どもを利用する、というよりも、「世話をしなければいけない」と頭では分かっているのに、精神的な疲労や無気力などから、育児そのものができなくなってしまう、という場合もあります。

身体的虐待の次に多く見られますが、ネグレクトも外部からは分かりにくいという特徴があります。また、そこまで深刻ではない「準ネグレクト」とも言えるような家庭環境としては、以下のような状況が挙げられます。

  • 家の中で、家族間の会話が極端に少なかった。
  • 家族で一緒に外に出かけることが、ほとんどなかった。
  • 父親との接点がほとんどなく、父親がいるという実感が薄かった。
  • 親に遊んでもらった記憶があまりない。
  • 親から「可愛い」と愛情表現をしてもらった実感が乏しい。

ネグレクトの環境で育ったお子さんは、ご自身が親になった時に、同じような傾向を示し、虐待を繰り返してしまうリスクがあると言われています。

心理的(精神的)虐待

言葉による脅し(「言うことを聞かないなら、捨てるよ!」など)、子どもの自尊心を深く傷つけるような言葉(「お前なんか生まれてこなければよかった」「本当にダメな子だね」など)を繰り返し浴びせたり、他の兄弟などと比較して差別的な扱いをしたりするものです。

実は、DV(ドメスティックバイオレンス)と心理的虐待は、切り離せない関係にあります。家庭内でDVが行われている場合、お子さんは以下のような場面で、深刻な心理的虐待を受けることになります。

  • 子どもの目の前で、夫が妻に対して暴言を吐いたり、暴力をふるったりする場面。
  • 子どもの目の前で、妻が夫に対して暴言を吐いたり、暴力をふるったりする場面。
  • 母親または父親が、子ども自身に対して、直接的に暴言を吐く場合。(※子どもの身体に体罰を加える場合は、「身体的虐待」となります)

上記のケースのように、たとえ夫婦間の暴言や暴力であっても、それを子どもが目の前で見聞きすること(面前DV)は、たとえ直接的な暴力でなくても、お子さんの心に深い傷を残します。隣の部屋から言い争う声が聞こえてくるだけでも、お子さんは精神的に大きなダメージを受けるのです。

これらの虐待はすべて、大人が抱えるストレスや憎しみといった負の感情が、直接的、あるいは間接的に子どもに向けられたものであり、お子さんの健全な成長に、計り知れないほどの悪影響を与えることから、深刻な「心理的虐待」にあたります。

なぜ、虐待は起こってしまうのでしょうか?

虐待が発生する背景には、家庭が置かれている状況が大きく関係しています。

ストレスと虐待の関係

夫婦仲がうまくいっていなかったり、経済的に困窮していたり、あるいは仕事などで外部からの強いストレスを抱えていたりする家庭では、日常的に不安やイライラが募りやすくなります。そのような精神的に余裕のない状態で、「気分が優れず、少しゆっくり休みたい時に、子どもが泣き止まない…」など、お子さんが自分の思い通りにならない時に、ついカッとなって手が出てしまったり、ひどい言葉(暴言)を吐いてしまったり… ということが、起こりやすくなってしまうのです。

また、経済的な理由などから、夫婦共働きで仕事に追われ、心身ともに疲れ果ててしまっている状態では、お子さんとゆっくり向き合う時間的・精神的な余裕を持つことは難しいでしょう。「子どものことは大切にしたい」と心では思っていても、疲労や無気力から、結果的にネグレクト(育児放棄)へと繋がってしまうことも、少なくありません。

社会的な背景

さらに、日本社会には、未だに「夫は仕事、妻は家庭」といった性別による役割分担の意識が根強く残っており、子育ては主に妻(母親)任せ、という家庭も珍しくありません。夫から妻への、子育てに対する理解や協力、そして労いの気持ちが不足していることも、母親のストレスを増大させる一因となります。

また、近年増加しているシングルマザー(シングルファーザーも同様)の家庭や、地域社会との繋がりが希薄化している状況なども、親御さんが孤立し、ストレスを一人で抱え込みやすくさせます。そして、その行き場のないストレスが、弱い立場であるお子さんに向けられてしまうことで、虐待へと繋がっていくのです。

虐待する親も、子ども時代に虐待を受けていた?

「虐待は連鎖する」とよく言われるように、虐待をしてしまう親御さんの多くは、ご自身が幼少期に親から虐待を受けて育った、という経験を持っていることが少なくありません。

虐待の連鎖

負の連鎖

日常生活の中で、当たり前のように虐待行為を目にしていると、それが「普通のこと」あるいは「問題を解決するための手段」として、無意識のうちに学習されてしまいます。そして、気づかないうちに、自分が親になった時に、自分の子どもへとその連鎖を引き継いでしまうのです。

虐待をしてしまう人は、幼少期に親からの十分な愛情を感じられなかった、という経験を持つことが多いようです。親に対する満たされなかった思いや、怒りといった感情が、未解決のまま大人になってしまいます。そのため、いざ自分が子どもを育てる立場になった時に、その過去のつらい記憶や感情が刺激され、虐待という行動に走ってしまう、と考えられています。

そうした満たされない気持ちを抱えている親御さんにとって、お子さんは、無意識のうちに「自分の欲求を満たすための存在」になってしまっているのかもしれません。そのため、自分の思い通りにならないお子さんに対して、必要以上に苛立ちを感じ、暴力を振るってしまうのです。

虐待が子どもに与える長期的な影響

虐待という過酷な体験は、お子さんの心に、非常に重大なダメージを与えます。睡眠障害や無気力感、あるいは落ち着きがなく衝動的な行動(多動)が見られるようになる(アスペルガー症候群などの発達障害との関連も指摘されています)だけでなく、大人になってからも、社会不安症やうつ病、摂食症など、様々な精神的な問題を引き起こす原因となります。

親から無条件に愛されなかった、という根本的な経験から、「自分には価値がないんだ」という低い自己評価しか持てず、周りの人に対する不信感を抱きながら、生きづらさを抱えたまま生きていくことになってしまうのです。

虐待の心理:お母さんの「疲れ」と「孤独」

ここからは、特にお母さんが抱えやすい、虐待に繋がる可能性のある心理について、もう少し詳しく見ていきましょう。

「お母さんは実に疲れる」という現実

日々、仕事や家事に一生懸命に取り組まれているお母さん方は、心身ともに疲れを感じてしまうことが、本当に多いと思います。毎日ヘトヘトになるまで仕事をして、家に帰ってきたら休む間もなく家事をこなす…。そんな中で、ほんの少し目を離した隙に、子どもたちが危険な遊びを始めたり、部屋を散らかしたり…。何度注意しても繰り返されると、疲れ切ってしまうのも無理はありません。

また、子どもたちは、優しく言っただけでは、なかなか言うことを聞いてくれない時もありますよね。「本気で怒らないと、お母さんの言うことを聞いてくれない」と感じることもあるでしょう。もしかしたら、お子さんなりに親の気を引こうとしているのかもしれませんが、やるべきことがたくさんあるお母さんにとっては、それもまた大きな負担となり、疲れを増幅させてしまいます。

「自分の時間が欲しい」という切実な願い

子どもという存在は、時に大人の想像を超えるような行動をします。「どうして、そんなことをするの?!」と、理解に苦しむようなことを、平気ですることもあります。ご自身の心に余裕がある時には、笑って受け流せることでも、疲れている時や、他にしなければならないことが山積みになっている時、時間に追われている時などは、ついつい感情的に叱ってしまうこともあるでしょう。

しかし、その叱り方には注意が必要です。お子さんの心を深く傷つけてしまうような叱り方は、避けなければなりません。ヒステリックに、我を忘れるほど叱りつけてしまうのは、明らかに問題です。できれば、言い聞かせるように、諭すように話すのが理想ですが、それが難しい時もありますよね。何度言っても分かってもらえないと、我が子であっても憎らしく感じてしまうことさえあるかもしれません。

また、「言えば分かってくれるはずだ」という期待があるからこそ、かえって強く当たってしまう、という場合もあります。

「一人で抱え込んでしまう」孤立感

最近は、核家族化が進み、地域との繋がりも希薄になる中で、一人で子育ての大部分を担っているお母さんも増えています。仕事も家事も、すべて一人でこなさなければならないとなると、その負担は計り知れません。そして、「自分が頑張らなければ」と思うあまり、精神的に追い詰められ、お子さんに強く当たってしまう、という場合もあります。

また、夫婦関係や家族関係がうまくいっていない、といったストレスのはけ口として、お子さんにカウンセラーのような役割を負わせ、愚痴をこぼしたりするお母さんもいらっしゃいます。しかし、家族の悪口をお子さんに聞かせるのは、決して感心できることではありません。お子さんにとっては、お父さんもお母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも、皆、血の繋がった大切な家族です。その家族を否定されることは、お子さん自身の存在(アイデンティティ)を揺るがすことにもなりかねません。

もし、苦手な家族がいるのであれば、無理に関わるのではなく、少し距離を置く、という選択肢もあります。お子さんたちの心の負担にならないように、大人の問題に巻き込まないように、気をつけるようにしましょう。

「自分自身の心身のバランス」が崩れている時

虐待が起こってしまう背景には、お母さん自身の心身のバランスが崩れていることが、大きく影響している場合も多いです。例えば、家族関係やママ友との関係などで強いストレスを感じていて、それをうまく消化しきれないでいる時に、お子さんが生意気な態度をとったり、何か失敗をしたり、イタズラをしたりすると、心の余裕がなく、感情的に怒ってしまうことがあります。

そんな時には、「ああ、今、私はすごく疲れているんだな」「心が不安定になっているな」と、ご自身のコンディションの悪さを自覚することが大切です。そして、無理をせず、お子さんから少し距離を置くのも良い方法かもしれません。「お母さん、ちょっと体調が悪いから、ごめんね」と伝えて、少し横になる時間を作るのも良いでしょう。

子どもは、どんなに叱られても、親がいないと生きていけない存在です。「おかあさーん!」と、無邪気に慕ってきてくれる我が子は、やはり可愛いものですよね。どんなにワガママを言われても、お子さんの喜ぶ顔が見たい、と思うことも多いのではないでしょうか。どうか、無理はしないで、お子さんと一緒に過ごす毎日を大切にしてください。

「夫婦喧嘩は子どものいないところで」という配慮

夫婦であっても、お互いの考え方が合わず、意見がぶつかり合う時もあるでしょう。しかし、そうした言い争いは、お子さんがいないところで行う方が賢明です。お子さんに、親が激しく言い争っているところを見せてしまうのは、「マルトリートメント(不適切な養育)」と呼ばれる行為にあたり、お子さんの心に悪影響を与えてしまいます。

言い争っている家族の姿を見て、お子さんは混乱し、恐怖を覚えます。注意が必要です。夫婦で話し合いをする必要がある場合には、お子さんが寝静まった後や、お子さんが席を外している時に行うようにしましょう。どんな理由があったとしても、お父さんとお母さんが激しく言い争っている姿を見るのは、お子さんにとって決して良いものではありません。それは、お子さんの将来の結婚観やパートナーシップにも、悪い影響を及ぼしてしまう可能性があります。

「夫や家族の無関心」が原因の場合も

毎日、一人で子育てに奮闘し、孤軍奮闘されているお母さんも多いと思います。朝、お子さんを起こし、学校や保育園に送り出し、帰ってきたら食事の支度をし、お風呂に入れ、寝る前には絵本を読む…。そんな毎日を繰り返しているかと思います。そこに仕事も加われば、本当に目が回るような忙しさでしょう。

そんな中でもし、夫や他の家族が子育てに無関心であったり、協力的でなかったりすると、お母さんの負担とストレスは、ますます大きくなってしまいます。時には、夫や他の家族に、お子さんのこと(世話や遊び相手など)を少しお願いしてみる、という方法はいかがでしょうか。

中には、「夫は全く子育てに関与しない」というご家庭もあるかもしれません。しかし、諦めずに、旦那さんにも少しずつでも育児に参加してもらい、父親とお子さんが一緒に過ごす時間などを増やしていくことも、大切なのではないでしょうか。

その際には、あまり旦那さんのやり方に口を出しすぎない方が良いかもしれませんね。確かに、「お菓子を食べさせすぎ!」「そんなオモチャ、買い与えないで!」など、口を挟みたくなることもあるかと思います。しかし、そこはぐっと堪えて、まずは旦那さんにも「育児に参加する」という経験をしてもらうことを優先しましょう。

一緒に育児をする時間が増えれば、お互いに子育てについて思うことなどを話し合う機会も増え、夫婦間のコミュニケーションが改善される可能性もあります。

「とにかくお母さんは忙しい」という現実

「男性は仕事、女性は家事・育児」という固定的な観念は、今の時代では少しずつ変わりつつあります。女性も外で働く機会が増え、男性も育児に参加する機会が増えています。どちらか余裕のある方が、その時にできることを分担する、というご家庭もあるでしょう。しかし、やはり子育ては、基本的には夫婦二人で協力して行っていくものです。お互いによく話し合い、協力し合いながら、夫婦で子育てをしていく、という意識が大切ですね。

とはいえ、現実には、お父さんが仕事で非常に忙しく、ほとんど家にいない、というご家庭もあります。そんな中で、お母さんは一人でお子さんと向き合い、ストレスが溜まってしまうことも多いでしょう。そういった時には、一人で無理をしないで、誰かに頼るということも、考えてみてください。ご自身の姉妹でも良いですし、地域の育児サークルや支援センターなどでも良いでしょう。

悩みを話せる相手が見つかるだけでも、少し気持ちが楽になる場合があります。お子さんと二人きりで、閉鎖された環境の中にいると、どうしても気が滅入ってしまい、精神的に不安定になりやすくなります。そして、「いけない」と頭では分かっていても、そのストレスの矛先が、弱い立場であるお子さんに向いてしまうことにもなりかねません。

お子さんを叱ってしまった後、「今日もまた、怒鳴ってしまった…」と、お子さんの寝顔を見ながら、自己嫌悪に陥り、反省することもあるのではないでしょうか。お子さんのことは大好きで、心から愛していると思っていても、ついつい感情的に叱ってしまう…。それが、子育ての難しさであり、現実なのかもしれません。他にもやるべきことが山ほどあるお母さんですから、毎日が忙しく、気持ちに余裕が持てない時もあるのは、当然のことなのです。

子どもは、自分の思い通りにはいかないもの

子育てをしていると、「子どもは、親の思い通りにはならないものだ」ということを、痛感させられる場面がたくさんありますよね。

子どもらしさと親の期待

子どもは、時に大人が予想もしないようなことをします。親が「やめてほしい」と思っていることも、お構いなしにします。むしろ、それが子どもの自然な姿であり、「普通」なのかもしれません。周りの状況を気遣いすぎる子どもは、かえって子どもらしくない、とも言えるでしょう。だんだんと成長するにつれて、お子さんも親のことを労ったり、気遣ったりすることができるようになりますが、小さいうちは、基本的に自分本位に動いていますから、相手の気持ちに気を遣う、ということは難しい存在なのです。

そんな時には、「毎日ご飯を食べて、元気に過ごしてくれたら、それだけで100点満点!」くらいの、大らかな気持ちで考えてみるのも良いのではないでしょうか。

しつけとイライラ

細かいしつけのことが、気になる時もありますよね。しかし、あまりにも些細なことを気にしすぎると、お母さん自身がイライラするばかりで、本来楽しいはずの時間が楽しく感じられなくなってしまったり、せっかくのお子さんとの大切な交流の時間が、つまらないものになってしまったりすることもあります。

時間がない時や、心に余裕がない時などには、お子さんを厳しく叱りつけてしまうこともあるかもしれません。しかし、そんな時こそ、一度立ち止まって、一呼吸おいて、冷静になることを心がけましょう。

母親は、時に口うるさい存在かもしれません。そして、その口うるささが、後になって愛情だったと感じられる時もあるでしょう。しかし、あまりにも過干渉になりすぎると、それはお子さんにとって「毒」になってしまうこともあります。

お子さんを、自分の意のままにコントロールしようとしていないか、今一度、ご自身の心に問いかけてみて、日々の関わり方を見直してみると良いでしょう。

親にされたことを、知らず知らずのうちに子にしてしまう「負の連鎖」

ご自身が、子どもの頃に親からされてきた接し方を、無意識のうちに、ご自身の子どもにもしてしまっている、というケースもあります。自分がそういう扱いを受けて育ってきたので、それが「普通のこと」だと感じてしまい、他のやり方を知らない、という場合があるのです。

愛情の表現方法を知らない

その考え方は、決して正しいわけではありません。あなたも、そしてあなたのお子さんも、もっと愛され、慈しまれるべき存在なのです。しかし、ご自身が十分に愛情を受けて育ってこなかった場合、どのように愛情を表現すれば良いのか分からない、という方もいらっしゃいます。

よく、「3歳までは、子どもは猫可愛がりするように、『可愛いね、可愛いね』と、毎日たくさん言って育てると良い」と言われます。確かに、3歳くらいまでは、まだ言葉でのコミュニケーションも十分に取れませんし、親御さんのお世話なしでは生きていけません。毎日、お子さんの命を守るだけで精一杯、という状態で過ごしていることもあるかもしれませんね。

お子さんの成長を日々感じられれば、子育てもまた違った喜びがあるのでしょうが、ご家庭の環境や経済的な状況によっては、そこまでの精神的な余裕が持てない、という場合もあるでしょう。

助けを求めることの大切さ

そういった場合には、地域の育児相談を利用したり、信頼できる人に話を聞いてもらったりするなど、誰かに助けを求めるということも、非常に大切になります。育児は、決して一人だけで行うものではありません。パートナーや他の家族、地域のサポートなどを上手に活用しながら、みんなで協力して行っていくもの、と考えてみてはいかがでしょうか。

完璧主義を求めず、「テキトーなお母さん」を目指す?

「お母さんになったら、何が何でも頑張らなければいけないんだ」「子どものことを、全身全霊で愛さなくてはいけないんだ」
そんな風に、「母親たるもの、こうあるべき」という理想像に、縛られてしまってはいませんか?

理想と現実のギャップ

先ほども触れたように、ご自身が親から十分な愛情を受けて育ってきていない場合、「どのように愛情を注いだら良いのか、分からない」と感じることもあるでしょう。そして、育児書などを一生懸命読んで、理想の子育てを目指そうとするのですが、現実はなかなか本の通りにはいかず、お子さんは思い通りには動いてくれません。そこで、「どうしてうまくいかないんだろう…」と悩んでしまうこともあります。

そんな場合には、育児書はあくまで参考程度、と思っておいて、「ここまでやってくれたらOK!」という、ご自身なりの「合格ライン」を、少し低めに設定してみるのも良いかもしれません。

子どもの個性を受け入れる

親がどんなに言い聞かせても、お子さん自身の持って生まれた気質や性格によって、なかなか上手くいかないこともあります。そこを無理に矯正しようとするのではなく、「うちの子は、こういう個性を持っているんだな」と、ありのままを受け入れる視点も大切です。育児書の内容とお子さんを比べるのではなく、目の前にいるお子さんのことをじっくりと観察し、その子の個性を理解した上で、接していくようにしましょう。

子育てをしていると、「この部分は私にそっくりで可愛いなぁ」と感じるところもあれば、「この頑固な性格は、一体誰に似たんだろう…」と、少し嫌な気持ちになる部分もあるかもしれません。それもまた、その子の大切な個性の一部だと考えて、あまりイライラしすぎないようにするのが、賢明な関わり方かもしれませんね。

子どもは、だんだんと成長していくものです

嬉しい変化を見つけて、大切にしながら、日々お子さんと向き合っていけると素敵です

小さい頃の子育ては、お子さんが何もできない状態からスタートするので、本当に大変ですよね。しかし、段々と話ができるようになってきたり、自分の意見を言うようになったりと、コミュニケーションが取れるようになり、「ああ、少し楽になってきたな」「子育てが楽しくなってきたな」と感じられる瞬間も、次第に出てくるはずです。そういった嬉しい瞬間を大切にしながら、お子さんと向き合っていくのも良いのではないでしょうか。

最初は、何度注意しても同じことを繰り返したり、次から次へと新しいオモチャを欲しがったり、「これは一体、いつまで続くんだろう…?」と、途方に暮れるような時もあるかもしれません。しかし、お子さんは日々成長しており、だんだんと落ち着いてくる場合が多いものです。

大切なのは、たとえ幼く小さくても、お子さんにはお子さんなりの意志がある、ということを忘れないことです。それを完全に無視するのではなく、かといって、すべて言いなりになるのでもなく、その中で、ある一定のルールや節度を持って、毎日を過ごせるように導いていきたいものですね。

「子どものために」は、本当は誰のため?

「野菜もちゃんと食べなさい!」「お菓子はあまり食べちゃダメよ!」
育児に熱心なお母さん方であれば、お子さんの健康を考えて、こうした注意をすることも多いでしょう。

完璧主義と家庭内の摩擦

しかし、そのような場面で、あまりにも完璧にルールを守らせようとすると、かえって家庭内に摩擦が生じてしまう時もあります。例えば、旦那さんに向かって、「お菓子を与えすぎないで!」とヒステリックに怒鳴ってしまったり、お子さんに対しても「お菓子ばっかり食べて!」と感情的に叱りつけてしまったり…。それでは、せっかくの大切な家族との時間が、気まずいものになってしまいます。

少し柔軟に考えてみることも大切です。例えば、「自分からは積極的にお菓子は買い与えないけれど、旦那さんや両親など、他の家族が買ってきた時には、まあ仕方ないかな…」と感じるようにするなど、ご自身の中でのルールを、周りの人にまで厳しく押し付けない、という配慮も、時には必要になってくるかもしれません。

子育ては、自分の思い通りにならないことを知る

子育てをしていく上で、まず理解しておく必要があるのは、「基本的には、子どもは自分の思い通りにはならないものだ」ということかもしれません。

子どもの感性と親の思い

お子さんには、お子さんなりの感性や考え方、感じ方があります。それを、母親(父親)の思い通りにコントロールしようとするのは、そもそも無理があるのです。そんな中でも、日々、お子さんと真剣に向き合い、一生懸命に子育てをされているお母さん方は、本当に頑張っていらっしゃるな、と感じます。

子どもに合わせる子育て

ご自身の思い通りに育児を進めようとするのではなく、お子さんの様子をよく見ながら、お子さんのペースに合わせていく、という感覚で子育てをしてみるのも、良いのではないでしょうか。時には、足りない部分や、まだ発達が追いついていない部分もあるかもしれません。しかし、他の子の理想的な姿と比べるのではなく、ご自身のお子さん自身の成長に目を向け、「こんなに大きくなったんだなぁ」「こんなことができるようになったんだなぁ」と、その成長を喜び、感動することも、たくさんあるはずです。

つい、親としての本音で、厳しい言葉が出てしまうこともあるかもしれません。しかし、そんな時には、その後で、「でも、いつも頑張っているよね」「ここは、すごく良くできているね」といったように、具体的に褒めてあげることも、忘れないようにしたいですね。

虐待で一人苦しむよりも、まずはセラピーへご相談ください

虐待は、される側はもちろんのこと、虐待をしてしまう側も、自分の行動を自制できずに繰り返してしまうことで、深い罪悪感や自己嫌悪に苛まれ、非常につらい思いをしています。それが、お子さんを愛しているはずの親の立場であれば、その苦しみは、いかばかりでしょうか。

改善の可能性と「虐待のスイッチ」

我が子への「虐待」を「何とかしなくては」と思い悩み、聖心こころセラピーに来られたお母さん(お父さん)の中でも、虐待が完全に収まる方には、ある種の傾向が見られます。それは、虐待をしてしまった直後に、お子さんに対して強い罪悪感を感じ、ご自身を責めてしまう方です。このような方は、間違いなく改善に向かうことができます。なぜなら、その虐待行為は、「本来のあなたらしくない行為」だからです。

世の中には、残念ながら、「虐待」をしても、「しつけだ」「当然のことだ」といった歪んだ信念のもとに行っている人も、存在するのも事実です。そのような方は、改善することが非常に難しい場合があります。なぜならば、それが「そういう人格」だからです。

しかし、先ほど述べたように、虐待の後に、「自分自身を切り刻んでしまいたくなるほどの、激しい自己嫌悪」に陥ってしまう方は、どうか諦めないで、私たちのセラピーにお越しください。

あなたは、ご自身が育った環境の中で、いわば「虐待のスイッチ」を持たされてしまったのかもしれません。しかし、あなたは本来、そのスイッチを持つべき人格ではないのです。カウンセリングを通して、その不要なスイッチを捨て去ることで、改善はもちろんのこと、虐待のない、和やかで温かい家庭と、お子さんの明るい将来を取り戻しましょう。

虐待のスイッチを取り除き、あなたが本来持っている母性(父性)を取り戻すための手段・対策は、私たちが十分に心得ています。

参考文献・参考資料

  • 栗林恵美子(2022) 子ども虐待の予防に向けたしつけと虐待の境界に関する考察-養育者の養育行動と心理的要因に着目して-日本子ども虐待防止学会紀要 第41巻 第1号
  • 菅野恵(2020) 児童虐待防止とメンタルヘルス-被虐待児と養育者のストレスに着目して- ストレス科学研究35 巻
  • 藤野京子(2008) 児童虐待が後年の生活に及ぼす影響について 犯罪心理学研究 第46巻 第1号

この記事の著者

榊原カウンセラーは臨床心理士・キャリアコンサルタント・管理栄養士。日本福祉大学大学院修了(心理学修士)、名古屋学芸大学卒。公立小学校での栄養教諭を経て、現在は心理・教育・栄養の複合的な視点から支援活動を行う。日本心理学会・日本心理臨床学会会員として、心の健康や対人関係に関する情報発信・執筆にも力を注いでいる。

この記事の監修者

臨床心理士(2011年取得)および公認心理師(2019年登録)。大学院で臨床心理学を専攻し修了後、医療機関にて長年にわたり相談業務に従事。現在は日本心理臨床学会に所属し、SNSなどを通じたメール相談も行っている。コラージュ療法などの表現療法や、呼吸法・筋弛緩法といったリラクセーション技法を用いた支援を得意とする。

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