不登校・ひきこもりカウンセリング

学校へなかなか足が向かない「不登校」の状態や、様々な理由から働くことに踏み出せない「ニート」と呼ばれる状況は、時に長期化し「ひきこもり」へと繋がってしまうことがあります。
こうした状況の背景には、ご両親とお子さんとの関わり方が影響している可能性も考えられます。もし、親御さんが無意識のうちにお子さんだけに責任があると考えてしまうと、お子さんは心を閉ざし、親子関係が難しくなってしまうこともあるかもしれませんね。
不登校・ひきこもり・ニート:ご家庭だけの問題ではありません
身近な友人、知人、同僚のご家庭の中でも、「不登校」や「ひきこもり」、「ニート」といった状況に悩むケースは、決して珍しいことではありません。近年、その数は増加傾向にあると言われ、学校に行かない・行けないお子さん、働かずに家で過ごしている若者、長年ひきこもり、外に出ることが難しくなってしまった方々が、決して少なくない数いらっしゃることが分かっています。
一つ一つのご家庭が抱える問題が集まり、今や名古屋市の人口にも匹敵すると言われるほどの多くの方々が、不登校・ひきこもり・ニートの状態にあると推計されています。これは単にご家庭内の問題にとどまらず、税収や福祉費用の観点からも、社会全体で考えていくべき課題となりつつあります。
ご存知のように、不登校・ひきこもり・ニートは、人間関係の悩みや将来への不安などから、学校や会社といった社会的な場に行くことが難しくなり、自宅に閉じこもりがちになってしまう状態を指します。

この状態が長く続くと、ご本人は「もし戻れたとしても、また通い続けられるだろうか」「再び働けるようになるのだろうか」といった不安を常に抱え、「もう失敗したくない」という思いから、ネガティブなイメージをますます強くしてしまうことがあります。
その結果、外出することへの恐怖心が強まり、さらに家から出られなくなる…という、悪循環に陥ってしまうことも少なくありません。
また、保護者の方やご家族が「早く学校や社会生活に戻ってほしい」と焦るあまり、ご本人を強く励ましたり、逆に理解しようと過度に努めたりすることが、かえって状況を悪化させてしまうケースも見受けられます。
不登校・ひきこもり・ニートは、社会との関わりが減るだけでなく、生活リズムの乱れや精神的な不安から、心身の健康にも影響を及ぼしかねない、大切な問題です。人生が前に進みにくくなる前に、ご家庭全体が疲れ果ててしまう前に、この問題とじっくり向き合い、改善への道を歩み、社会との繋がりを取り戻していくことが大切ですね。
「不登校」と「ひきこもり」。この二つは「外出が難しい」という点では似ていますが、その背景にある心理的な側面には、少し違いがあると考えられます。
理由がはっきりしている不登校と、そうでない不登校
「不登校」とは、何らかの理由で「学校に行きたくない」という気持ちが強くなり、結果として自宅で過ごす時間が長くなっている状態を指すことが多いです。もし、お子さん自身が悩みの原因を理解している場合は、その問題に具体的にアプローチしていくことで、比較的スムーズに状況が改善に向かうこともあります。しかし、ご本人が「なぜ行きたくないのか」を明確に言葉にできない、「無自覚」なケースも少なくないのが実情です。
大切なのは、まず、頭ごなしに叱ったり、学校へ行かないことを問い詰めたりするのではなく、「どうして学校に行きたくないと感じるのかな?」とお子さんの気持ちに寄り添い、じっくりと耳を傾けることだと考えられます。とはいえ、実際には親子間のコミュニケーションがうまくいかず、お子さんが理由を自覚していても、それを素直に親御さんに話せない、という場合も多くあります。
それは、もしかしたら、まだ安心してお話しできる信頼関係が築けていないからかもしれません。「お腹が痛い」「気分が悪い」といった体の不調を訴えることで、本当の理由を隠している、というのもよく見られるケースです。
ひきこもりとニート、少し違うところ

「ひきこもり」の状態にある方は、社会に出ることに対して、漠然とした不安や抵抗感をお持ちのことが多いです。具体的に何が嫌なのか尋ねると、色々な理由を話されることもありますが、ご本人もはっきりとは分かっていない、という場合が少なくありません。原因が掴みにくいことから、社会との繋がりを再び築いていくには、少し時間が必要になることが多い、と一般的に言われています。
ひきこもりの方が心療内科や精神科などの医療機関を受診された場合、「パーソナリティ症」や「社交不安症」といった診断名が付くこともあります。そして、その「病気」というラベルが、かえってご本人をさらにひきこもらせてしまう一因となるケースも見られます。
この記事では、便宜上ニートの方もひきこもりに含めて触れていますが、厳密には違いがあります。「ニート」と呼ばれる状態の方は、ご家族以外(友人や知人など)との繋がりを保っている場合があるのに対し、「ひきこもり」の状態が深い場合は、一部のご家族を除き、対人関係をほとんど持たないという傾向が見られます。
なぜ、外に出るのが難しくなってしまうのでしょうか?
不登校やひきこもりの背景には、単一の出来事ではなく、様々な要因が複雑に絡み合っていると考えられます。
意欲が湧きにくい、という気持ち
外に出るのが難しい原因の一つとして、意欲の低下が挙げられます。ご自身が本当に何をしたいのかが見えなかったり、他に本当にやりたいことがあると感じていたりすると、学校や職場といった場所に魅力を感じられず、自宅で過ごすことを選んでしまうことがあります。
特に、幼少期に外の世界で友人と遊んだり、自然に触れたりといった、人生を楽しむ土台となる経験が少なかった場合、関心が「ゲーム」「パソコン」「アニメ」など、室内で完結するものに向かいやすい傾向があるかもしれません。
ここで心配なのは、バーチャルな世界や二次元の世界、インターネット越しの繋がりは、気楽な反面、どうしても人間関係が希薄になりがち、という点です。そうした世界に没頭し、現実の社会から距離を置くことで、外の世界への関心が薄れ、実社会で生活していくことが、ますます難しく感じられてしまう可能性があります。
社会や価値観の変化
また、ひきこもりや不登校の背景には、社会の変化も影響していると考えられます。現代は、かつてのように誰もが同じように学校に通うのが当たり前、という時代ではなくなってきています。海外留学、学校を中退して起業、男性が主夫になるなど、多様な生き方が認められるようになりました。
しかし、この価値観や選択肢の多様さが、かえって将来への見通しを立てにくくさせ、「自分はどの道を進めばいいのか」と混乱を招いてしまう側面もあります。また、もしご家庭環境の中で、父親との関わりが少ない場合、母親からの影響が相対的に強くなり、多様な視点から物事を捉える機会が少なくなる、ということもあるかもしれません。
理想と現実のギャップ
ひきこもりの期間が長引くと、その分だけ社会との接点が少なくなり、ご自身の考え方が少し偏ってしまうことがあります。その結果、理想の自分と現実の自分との間にギャップを感じ、「自分はなんて駄目なんだろう」と自己嫌悪に陥り、ますます社会との間に溝を作ってしまうこともあります。
最初は、学校や仕事に対する小さな不安だったものが、ひきこもりが長引くうちに、「本当はこうあるべきなのに、できていない自分」を、意識的、あるいは無意識的に責めてしまうようになるのです。こうした焦りの気持ちは、時にイライラや不安定さを引き起こし、ごく稀にですが、物に当たったり、自分自身を傷つけたりする行動に繋がる可能性も指摘されています。周囲の方々は、そうしたサインに気づけるよう、注意深く見守ることも大切です。
不登校・ひきこもりの方は、将来への希望を持っていないように見えるかもしれませんが、実はそうではありません。ご本人なりに、夢や理想を持っていることが多くあります。
社会とのコミュニケーションが少ないために、時に非現実的に見える夢を抱くこともありますが、周りの人がその気持ちを受け止め、少しでも目標に近づけるようにサポートすることで、お子さんは周囲に対する信頼感を少しずつ取り戻していくことができます。
心のエネルギーが低下している場合も
不登校やひきこもり、ニートといった状態の背景には、心の不調が隠れていることも少なくありません。「学校や社会に出たい」という気持ちはあっても、過去の心の傷(トラウマ)や、物事の捉え方の癖などが影響し、結果として「行かない」という選択をしてしまうのです。
親御さんとしては、「他の子と同じように、普通に過ごしてほしい」と願うのは自然なことです。しかし、ご本人にも色々な思いや事情があり、外に出られないのかもしれません。親御さんの中には、問題の原因がお子さん自身にあると思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、ご家庭の環境が一因となっていることも、実は多くあります。
親御さんは、過保護になりすぎず、かといって放任しすぎず、程よい距離感でお子さんと向き合っていくことが大切になります。ニートの状態にある若者の中には、親御さんが非常に立派な方で、「自分はあんな風にはなれない」と、最初から諦めてしまっているケースも見受けられます。
「働くことって、案外面白いかもしれないな」とか、「誰かの役に立てたかな」といった、ささやかな充実感や手応えを感じられれば、変化のきっかけになることもあります。しかし、そうした経験がないまま、ただ「働け」と言われ続けることで、かえって働くことへの意欲を失ってしまっている、という場合もあるのです。
インターネットの世界と、現実の繋がり
人生のやり直しがききやすい若い時期に、これからの将来を考えると、親御さんとしては心配で色々とアドバイスをしたくなるものです。しかし、お子さん自身が納得しない限り、なかなか行動に移すのは難しい、という現実もあります。
誰かにいじめられて不登校になっている場合は、そのいじめが解決すれば学校に行けるようになることもありますが、「学校の雰囲気がどうしても合わない」「特にいじめられているわけではないけれど、馴染めない」といったケースも多く見られます。
現代はインターネットが発達し、日本全国、あるいは海外の人とも、気軽に交流できるようになりました。ニュースを原文で読んだり、メールでやり取りしたり、自宅にいながらにして、広い世界と繋がることも可能です。身近な人間関係を築くのが苦手な方にとって、インターネットが唯一の繋がりとなっている場合もあるでしょう。
一概にネットでの付き合いが良くないと断定することはできません。しかし、インターネットを利用する上で大切なのは、「相手を慎重に選ぶ」ということです。顔が見えないやり取りでは、悪意を持った人も残念ながら存在します。騙されたり、傷ついたりしないように、注意が必要です。また、技術や知識があれば、ネットを通じて働くことも可能な時代になりつつありますが、それも現実社会との繋がりがあってこそ、より豊かになるのではないでしょうか。
自分らしい生き方を見つけるために
一昔前と比べると、私たちの生き方や価値観は本当に多様になりました。大人から見ると、お子さんの言っていることが「世間知らずで甘い」と感じられるかもしれません。それでも、ご本人が「やってみたい」と思うことを、まずは試してみる、というのも大切な一歩ではないでしょうか。
確かに、親御さんが経験してきたように、学校を卒業し、大学に進学し、安定した企業に就職することが、確かな道の一つかもしれません。しかし、学校を卒業してから先の人生は長く、変化の激しい時代を自分自身の力で生き抜いていく必要があります。親御さんがいつまでも側にいられるわけではない、という現実も、いつかは考えなくてはなりません。
子育ての目標の一つには、お子さんが社会の一員として自立し、将来的には社会に貢献できる人に育ってほしい、という願いもあるでしょう。しかし、いきなり高い目標を掲げるのではなく、できることから少しずつ始め、ご自身のペースで行動範囲を広げていく、という視点も大切です。親御さんも、お子さんの人生に対して、柔軟な姿勢で寄り添ってあげられると良いですね。
外の世界へ、少しずつ歩き出すために
学校に通える期間は、人生全体で見れば限られています。その時間がどれほど貴重かは、大人になってから気づくことも多いものです。しかし、その価値を一生懸命お子さんに伝えても、なかなかピンとこないかもしれませんね。
時には、お子さんの自立を促すために、お金の管理について、ご家庭でルールを決めることも一つの方法かもしれません。例えば、「欲しいものや、やりたいことがあるなら、自分で働いて得る」という経験を通して、働くことへの意識が変わることもあります。裕福なご家庭の場合、あえてお小遣いを厳しく管理することも、自立へのきっかけ作りになる可能性があります。(ただ、これはご家庭の方針によりますので、慎重に考えたいですね。)
お子さんが自分の力で生活していけるようになるために、親御さん自身も意識を持って、自立をサポートする関わり方を考えていくことが必要になるでしょう。「親の財産をあてにするのではなく、自分の力で道を切り拓いてほしい」と願うなら、例えば「私たち(親)も自分の人生を楽しむから、お金はあまり遺せないかもしれないよ」と、将来について話し合ってみるのも、一つの考え方かもしれません。

外の世界との繋がりを、再び
ご本人が自然と外に出たくなるような、安心できる環境をご家庭の中に作っていくことも大切かもしれません。もちろん、心身の危険が迫っているような場合には、ためらわずに手を差し伸べることが最も重要です。時には、お子さんに対して苛立ちを感じることもあるかもしれませんが、それでも、ご自身のお子さんですから、やはり可愛い、助けたい、と思うのが親心ですよね。
「欲しいものがあれば、自分で働いて手に入れる」という経験が、働く意欲に繋がるお子さんもいます。お子さんの気持ちを尊重しつつも、過度に甘やかさないバランスを見つけながら、温かく見守り、外の世界と繋がるきっかけを探していくことが大切です。そのためには、ご本人が安心して心を開ける相手を見つけることも、大きな助けになります。
私たち聖心こころセラピーでも、カウンセリングを通して、ご本人との信頼関係を丁寧に築きながら、安心して外に出られるようになるためのお手伝いをさせていただきます。
不登校・ひきこもり・ニートを乗り越えていくために
悩みを抱えているご本人はもちろん、そばで見守るご家族も、どうしても問題の解決を急いでしまいがちです。しかし、その焦りがかえってご本人へのプレッシャーとなり、精神的に追い詰めてしまうことも少なくありません。不登校やひきこもりの状態にあるお子さんは、表面的には見せなくても、親御さんに対して複雑な感情や不信感を抱いている場合があります。
そのため、本来であれば、親御さんから歩み寄り、心の距離を縮めることが望ましいのですが、関わり方によっては、それが必ずしも良い方向に向かうとは限りません。
例えば、親御さんがお子さんの気持ちを理解しようと努めること自体は、もちろん大切なことです。しかし、その結果、お子さんが「自分の言うことは何でも親に通るんだ」と感じてしまい、かえって堂々と不登校やひきこもりを続けてしまう、というパターンも残念ながら見られます。親御さんがお子さんに対して、腫れ物に触るように接してしまうと、根本的な解決には繋がりにくくなります。
名古屋の聖心こころセラピーでは、まず親御さんと面談させていただき、現状を詳しくお伺いした上で、今後の対応策を一緒にじっくりと考えさせていただきます。その上で、認知行動療法や論理療法といった心理療法、あるいはコーチングなどの手法を用いながら、ご本人との関わりを始めていきます。
机に向かうだけでなく、時には外に出て公園を散策したり、自然に触れたりしながら、遊びや軽い運動を通して、物事の捉え方や考え方を、より柔軟にしていくお手伝いをします。そして何より、「人生には楽しいことがたくさんあるんだ」という感覚を取り戻し、その楽しみや「やってみたい」という気持ちの中から、「やるべきこと」にも自然に取り組めるような心の状態を目指していきます。
複雑に絡まってしまった糸を無理に解こうとするよりも、一度リセットして、新しい糸を紡ぎ直す方が、良い結果に繋がることもあります。一人で抱え込まず、どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献・参考資料
- 石川良子(2006) 「ひきこもり」と「ニート」の混同とその問題 教育社会学研究 第79集
- 田村毅(2006) 不登校・ひきこもりと家族のあり方 生活福祉研究 明治安田生活福祉研究所調査報14巻 4号