不安症カウンセリング

「不安」という感情は、本来誰にでも備わっている自然なものです。しかし、その不安の対象がはっきりしなかったり、明らかに過剰であったりして、自分ではコントロールが難しくなってしまうと、それはもはや単なる心配ではなく、「不安症(不安障害)」と呼ばれる状態になっている可能性があります。
その不安による苦しみは非常に大きく、常にそのことが頭から離れず、日常生活や社会生活に大きな支障が出てしまうことも少なくありません。

目次

不安が「障害」となり、前に進めなくなっていませんか?

何か新しいことを始めようとする時、不安を感じるのは誰にでもあることですよね。そして、その不安を解消するために、情報を集めたり、対策を立てたり、練習をしたり…と、私たちは懸命に努力します。ですから、ある意味で不安は、私たちを行動へと駆り立てるエネルギーにもなり得る、必要な感情とも言えます。

しかし、その不安がいつまでも消えずに続き、自分ではどうにもコントロールできなくなり、日常生活にまで支障が出てしまう…。そして、様々な心身の不調が現れ始めると、日々を穏やかに過ごすことができなくなり、非常につらいものになってしまいますね。

このように、「不安が『障害』となって、前に進めなくなってしまっている状態」を、総称して「不安症(不安障害)」と言います。

不安症(不安障害)は、心の病気の一つと考えられています

不安症の原因は、脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリンなど)のバランスの乱れが関与していると言われています。

それだけでなく、仕事のこと、家族のこと、将来のこと…。私たちは誰でも、日常生活の中で、多少の不安や心配事を心に抱えながら生きています。
どんなに成功した人でも、偉大な業績を残した人でも、これまでの人生で一度も不安な気持ちを感じたことがない、という人はおそらくいらっしゃらないでしょう

私たちは、「不安」という感情に対して、どうしてもネガティブなイメージを持ってしまいがちです。
しかし、本来「不安」とは、自分に危険が迫っていることを知らせ、一刻も早くその状況を回避するように促すための、大切な自己防衛システムの役割を果たしているのです。
実は、私たちにとって「不安」は最も身近な感情の一つであり、生きていく上で不可欠な、むしろ肯定すべき存在なのです。

しかし、人は「不安」な気持ちを感じると、心がモヤモヤするだけでなく、

  • じっとしていられなくなる
  • 心臓がドキドキする
  • 冷や汗をかく
  • 体が震える

といった、不快な身体症状が現れ始めることがあります。

じっとしていられなくなる 心臓がドキドキ 冷や汗をかく 体が震える

もし、不安の対象がはっきりしていて、その原因に対して具体的な対処ができ、自分でこれらの不快な症状をある程度コントロールできるのであれば、それは「正常な不安」と言えるでしょう。
しかし、

  • 特にこれといった理由もないのに、強い不安が生じる
  • 明確な不安の原因がある場合でも、その不安が長期にわたって続き、日常生活に支障が出ている

といった場合には、「病的な不安」が疑われます。

病的な不安を抱えていると、「不安」そのものに対する恐れが強くなり、「また不安になったらどうしよう」と、さらに不安になる(予期不安)という悪循環に陥り、ついには日常生活を送ること自体が困難になってしまうこともあります。
そのような、過剰でコントロール困難な不安は、心の病気の大きな分類として「不安症」と呼ばれています。

「不安症」とは、不安感が中心的な症状となる様々な精神疾患をまとめた総称です。
不安症には、以下のような様々な種類があります。

  • パニック障害
  • 全般性不安症(かつての不安神経症の一部)
  • 恐怖症性不安症(広場恐怖、社交不安症、特定の恐怖症など)
  • 強迫性障害(かつての強迫神経症)
  • 社交不安症(SAD)(社会不安症とも呼ばれる)
  • 心的外傷後ストレス障害(PTSD)
  • 急性ストレス障害
  • 適応障害
  • 分離不安症
  • 心気症(病気不安症)

など、様々な種類に分類されています。

不安症(不安障害)にも、様々な種類があります

ここでは、代表的な不安症(不安障害)の種類について、簡単にご説明しますね。

パニック障害

パニック障害とは、「突然、何の前触れもなく、理由の分からない激しい恐怖感に襲われ、動悸、息苦しさ、めまいなどの身体症状とともに、強いパニック状態に陥る」ことを繰り返す状態です。
「死んでしまうのではないか」と思うほどの強烈な恐怖感を伴うこともあります。(これをパニック発作と呼びます)

女性の発症率が男性に比べて高いと言われていますね。
一度パニック発作を経験すると、「また発作が起きたらどうしよう…」という強い「予期不安」に常に悩まされるようになります。そして、発作が起きやすい場所(例:電車やバス、人混み、閉鎖空間など)を避けるようになり、外出が困難になることがあります。このような状態を「広場恐怖」と呼ぶこともあります。

不安神経症(全般性不安症)

特定の対象や状況だけでなく、仕事や家族のこと、健康、経済的なことなど、日常生活の様々なことに対して、はっきりとした理由がないにも関わらず、過剰でコントロール困難な不安や心配が、長期間にわたって続く状態です。
常に心配事が頭から離れず、イライラしたり、落ち着かなかったりして、気持ちが休まる時がありません。また、強い不安から、肩こり、頭痛、睡眠障害、疲労感など、様々な慢性的な身体症状を引き起こすことも少なくありません。
(※ただし、ご本人が気づいていないだけで、詳しくお話を伺うと、不安の背景に何らかの理由が見つかるケースも多くあります。)

恐怖症性不安症

特定の対象や状況に対して、客観的に見て危険ではないにも関わらず、非合理的で、過剰な恐怖感を抱き、その対象や状況を極端に避けてしまう症状を指します。
様々なタイプがありますが、代表的なものには以下のようなものがあります。

広場恐怖症

逃げ出すのが難しい、あるいは助けが得られないかもしれないと感じる場所(例:公共交通機関、広い場所、閉鎖空間、行列など)に対して強い恐怖を感じる。

社交不安症(SAD)

他者から注目されたり、評価されたりする可能性のある社交場面に対して、強い恐怖や不安を感じる。(詳細は後述)

特定の恐怖症

特定のもの(例:動物、高所、暗闇、注射、閉所など)に対して、極端な恐怖を感じる。

その恐怖によって、日常生活に何らかの支障をきたしている場合には、通常の「怖い」という感情の範囲を超え、「恐怖症性不安症」と診断される可能性があります。

強迫性障害(強迫神経症)

強迫性障害、強迫神経症とは、自分でも「ばかばかしい」「不合理だ」と分かっているにも関わらず、特定の考え(強迫観念)が繰り返し頭に浮かんできてしまい、その不安を打ち消すために、特定の行動(強迫行為)を繰り返さずにはいられなくなる状態です。

例えば、「手がばい菌で汚れているのではないか」という強迫観念(汚染恐怖)から、その不安を打ち消すために、何度も何度も手を洗い続けてしまう(洗浄強迫)。あるいは、「鍵を閉め忘れたのではないか」という強迫観念(確認恐怖)から、家を出た後も何度も戻って鍵を確認してしまう(確認強迫)、といった行動が見られます。
この不合理な考えやイメージを「強迫観念」、そして不安を抑えるための繰り返しの行動を「強迫行為」と呼びます。

社交不安症(SAD)

以前は「社会不安症」とも呼ばれていました。
他の人から注目されたり、評価されたりする可能性のある特定の社交的な状況(例:人前で話す、食事をする、電話をする、会議で発言するなど)に対して、強い不安や恐怖心を抱き、次第にそのような場面を避けるようになる症状です。

「人前で恥ずかしい思いをするのではないか」「失敗して笑われるのではないか」「変に思われるのではないか」といった恐れが強く、その結果、発汗、動悸、赤面、手足の震えなどの身体症状が現れることがあります。
症状の程度は人それぞれですが、中にはパニック発作を起こしてしまう人もいます。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)・急性ストレス障害

大きな事故、自然災害、戦争、犯罪被害、虐待など、命の危険を感じるような、あるいは心に深い傷を残すような、強烈な体験(トラウマ体験)が原因となって起こる症状です。
「急性ストレス障害」は、トラウマ体験後1か月以内に症状が現れる場合を指し、それが1か月以上続く場合は「PTSD」と診断される可能性が高いです。

過去のつらい体験が、本人の意思とは関係なく、突然フラッシュバック(記憶の再体験)や悪夢という形で生々しく蘇ったり、まるでその出来事が今でも続いているかのような感覚に陥ったりします。
また、その出来事を思い出させるような場所や人、状況などを極力避けようとするため、ひきこもりになってしまうケースも多くあります。

適応障害

人生における特定のストレス(例:就職、転職、転居、結婚、人間関係の変化など)が原因となり、その新しい環境や状況にうまく適応できず、その結果、抑うつ気分、不安感、行動面の変化(例:欠勤、ひきこもりなど)といった様々な心身の症状が現れ、日常生活に支障をきたしてしまう状態を言います。
前述のPTSDや急性ストレス障害とは異なり、必ずしも生命を脅かすような強烈な出来事だけでなく、日常生活の中で起こりうる様々なストレスが原因となり得ます。

夫の転勤先で妻が新しい環境に馴染めなかったり、子どもが転校先のクラスに馴染めず孤立してしまったり…。新しい環境に適応しようと努力しても、過剰なストレスを抱え込んでしまい、不安、うつ状態、頭痛などを発症し、次第に不登校(欠勤)やひきこもりといった行動につながりやすくなります。

分離不安症

主に子どもに見られる不安症で、親や、愛着を持っている特定の人物、あるいは慣れ親しんだ場所から離れることに対して、年齢不相応なほどの過剰な不安や恐怖を感じる状態です。
ほとんどの子どもは、成長の過程で一時的に親から離れることに不安を感じるものですが、その不安が異常なほど強く、長く続き、日常生活(登園・登校など)に支障をきたしている場合に、分離不安症が疑われます。

一般的に7歳から9歳頃の子どもに多く見られ、腹痛や頭痛、吐き気といった身体症状や、悪夢を見るなどの症状が現れることがあります。また、学年が上がると、抑うつ気分や無気力といった形で現れ、不登校やひきこもりの要因となることもあります。

いわゆる「ホームシック」も、寂しさを感じる程度であれば正常な反応ですが、その不安や寂しさが耐え難く、実家などから離れられない、あるいはすぐに戻ってしまう、といった状況が続く場合には、分離不安症の可能性も考えられます。

心気症(病気不安症)

神経症の一種で、「ヒポコンドリー」とも呼ばれていました。(現在は「病気不安症」という診断名が用いられることが多いです)
心気症とは、「自分は何か重い病気にかかっているのではないか」という考えに過度にとらわれ、身体の些細な感覚や変化を、深刻な病気の兆候だと誤って解釈し、その心配を繰り返し他者(特に医師)に訴え続ける状態を言います。

病院で検査を受けても「異常なし」と診断されても、その結果を信じることができず、不安が解消されないため、次から次へと別の病院を受診し続けてしまう(いわゆる「ドクターショッピング」)傾向があります。
ご本人は、強い不安や恐怖心といった精神的な苦痛のために、日常生活に大きな支障をきたしてしまうことも少なくありません。うつ病や他の不安症を併発することも多いと言われています。

不安症は、ストレス社会が生み出す現代病なのかもしれません

不安症やうつ病と診断される人の数は、1990年代の終わり頃から現在にかけて、大幅に増加していると言われています。
なぜ、これほどまでに不安を抱える人が多くなってしまったのでしょうか。

外部からのストレス

不安症は、「現代病」の一つとも言われています。
私たちの日常生活は、仕事や人間関係など、様々な場面で周りの環境に適応していくことが求められます。時には、自分の本意ではない行動をとらなければならない場面も少なくありません。
そういった状況下では、普通に生活しているだけでも、常に外部からの様々なストレスにさらされ、それが心身に少しずつ蓄積され、やがて限界を超えると、心身のバランスを崩してしまうのです。

このように社会が生み出すストレスや不安に対して、うまく抵抗力を持ち、上手にストレスを発散できる方は良いのですが、ストレスが自分の処理能力を超えてしまうと、様々な不安症が引き起こされる可能性が高まってしまうのです。

不安症に陥りやすい方の特徴:背景にあるもの

不安症になりやすい方には、いくつかの共通した特徴が見られることがあります。

その一つは、常に多くのことを心配しており、特に未来に対する不安が非常に強い、という点です。「将来、ちゃんと生活していけるだろうか」「また何か嫌なことが起こるのではないか」と、未来に対してネガティブなイメージばかりを思い描いてしまいがちです。そしてそのネガティブな思考が、さらに不安という感情を増幅させ、ますます自分を追い込み、悪循環にはまってしまいます。

このように、物事に対するネガティブな考え方の癖や、悪いことばかりを想像してしまう性格傾向は、その人が育ってきた環境が大きく影響していると言えます。

多くの場合、

  • 家庭内で、夫婦間や親子間に何らかの問題(虐待、不仲、DV、アルコール問題など)があった
  • 親から適切な愛情を受けられず、安心感を得られなかった

といった経験があると、子どもは自分自身の存在価値に自信を持つことができません

また、一見すると特に問題がないように見える家庭であっても、親が子どもに対して過保護であったり、過干渉であったりすると、「親の期待を裏切ったら、嫌われてしまうのではないか」と、子どもは無意識のうちに感じてしまいます。

このような、安心感の欠如した環境の中で育った子どもは、人や物事に対して過剰に反応しやすくなり、大人になってからも、漠然とした不安を抱きやすい性格になってしまう傾向があるのです。

不安症の克服に向けて:一緒に乗り越えましょう

周りの人から見れば、「そんなこと、大したことないじゃないか」と思われるような「不安」であっても、不安症を抱えるご本人にとっては、それは非常に大きく、耐え難い苦痛です。
その「不安」に常に怯え、避けながら毎日を送ることは、本当につらいことですよね。ご本人も、そんな自分自身にがっかりし、自己嫌悪に陥っているかもしれません。

そして、その不安によって、本来の自分らしさを発揮できず、様々な行動が制限されてしまっている状態は、あなたの人生にとって大きな損失であり、非常にもったいない状況です。

名古屋聖心こころセラピーでは、まず、あなたの不安の根本にある原因を、カウンセリングを通して丁寧に探り、一緒に理解していきます。
そして、あなたの潜在意識(無意識)の中に深く根付いてしまった「自分ではどうしようもない不安」のパターンを、より現実的で、客観的な認識へと変化させていくお手伝いをします。
さらに、認知行動療法などの手法を用いて、ご自身で不安をコントロールできるような、具体的な考え方や物事の捉え方を、実践的に身につけていきます。

SSRIなど不安を和らげる薬はありますが、服用をやめると再発してしまうということも珍しくありません。カウンセリングや心理療法を受けていただくことで考え方の基盤を作り、不安を和らげる効果が期待できると言われています。

不安を無理に拒絶しようとすればするほど、それはかえって強まり、心に定着してしまいます。
大切なのは、不安を受け入れるための心の土台を作り、その上で、具体的な対策をしっかりと講じていくことです。そうすることで、必ず良い結果へとつながっていきます。

具体的な不安の例と、向き合い方

心配事がないのに、なぜか不安… これも不安症?

特にこれといった心配事が見当たらないのに、なぜか理由もなく心臓がドキドキしたり、胸がざわざわしたり、漠然とした不安に駆られたりする…。
そのような場合、何か精神的な問題(例:全般性不安症など)や、あるいは身体的な病気(例:甲状腺機能亢進症など)が隠れている可能性も考えられます。一度、医療機関で相談してみることも大切です。

また、「過去に、周りの人からいつも細かいことを指摘されてきた」「自分の意志で行動しようとすると、いつも誰かに反対されたり、失敗を恐れたりしてしまう」といった経験があると、何か新しいことを始めようとするたびに、必要以上に不安を感じ、狼狽してしまう、ということも、不安症ではよく起こります。
それがひどくなると、朝、布団から起き上がれないほどの強い恐怖感に襲われてしまうこともあります。

ですから、まず、その不安の正体を探り、原因を理解することが、不安症の克服にはとても大切になってきます。

人は不安が強くなると、震えや動悸が起こったり、手足が冷たくなったりしますよね。
誰でも、初対面の人に会う時や、会社や学校で何か発表する時などには、ある程度の不安を感じるものです。
そんな時、時には「えいやっ!」と、思い切ってその出来事に立ち向かってみること。それによって、意外とすんなり不安が解消される、という経験をすることもあります。

しかし、不安症を抱えている方にとっては、それが「分かっていても、どうしてもできない」ものなのですよね。
ですから、まずはできる限りの準備をして少しでも不安を軽減し、そして小さな勇気を持って、苦手な状況に少しずつ挑戦してみる。その小さな成功体験の積み重ねが、あなたの自信となり、成長へと繋がっていくのです。

普通の毎日なのに、なぜか不安… それはなぜ?

日常生活が特に問題なく送れているように見えても、漠然とした不安が心の中から消えない、ということもあります。
現代社会には、事故や事件、失業、いじめ、自然災害など、心配の種となるような出来事が、残念ながらたくさん存在します。テレビやインターネットのニュース、ワイドショーなどでは、毎日のように悲惨な出来事が報道されています。
もともと感情が豊かだったり、感受性が強かったりする方の場合、そうした情報に過剰に反応してしまい、まるで自分がその出来事を体験したかのように感じて、不安が増幅されてしまうこともあります。

もちろん、そうした情報に触れて、危険を察知し、注意したり、警戒したりすることは、自分や家族を守る上で大切なことです。万が一のために備えたり、子どもに危険がないように気を配ったりするのは、決して悪いことではありません。
しかし、その不安が大きくなりすぎて、夜も眠れなくなったり、食欲がなくなったり、体調を崩してしまったりするようであれば、それは少し問題かもしれません。

あなたの性格的なものもあるかもしれませんが、周りの人の反応や、客観的な状況などをよく観察し、「自分の考えは、少し行き過ぎているのかもしれないな」と気づくことができれば、少し気持ちが楽になっていくこともあります。

ストレスの多い現代社会においては、常に心から安心感を抱いて過ごすことは、難しくなっているのかもしれません。
しかし、そんな中でも、少しでも安心できる時間や空間を見つける努をしたり、自分なりのストレス解消を見つけたりして、不安を少しでも和らげるように努めていくことが、不安症を悪化させないための、大切な心がけと言えるでしょう。

不安に思っても、意外と何も起こらない、という気づき

毎日を過ごしていると、「何か悪いことが起こるのではないか…」と、ついネガティブなことを考えて不安になることもあります。
しかし、実際に一日一日を振り返ってみると、心配していたような大きな問題は、ほとんど起こらない、ということの方が多いのではないでしょうか。

自分の中にある不安が、実は根拠のない、漠然としたものである、ということに気づくことができれば、その不安に振り回されることなく、自分自身でそれをコントロールしていくことも可能になります。

もちろん、その不安を解消するためには、自分自身が「大丈夫だ」と思えるような、安心できる環境を整えていくことも大切です。
「不安で仕方がないから、何もしない」のではなく、「この不安が少しでも和らぐように、何か具体的な行動をとってみよう」と考えてみましょう。
例えば、心配事を紙に書き出して整理してみる、信頼できる人に相談してみる、リラックスできる方法を試してみる、などです。
あるいは、自分自身に向かって、「大丈夫、きっとうまくいく」と、肯定的な言葉をかけてあげることも、意外と効果があるかもしれません。

また、もしあなたが子どもの頃に、不安定な家庭環境で育った経験があるなら、「また、あんなつらいことが起きるのではないか…」というような、過去の経験に基づく不安を抱きやすいかもしれません。
家庭は本来、一番安心できる場所であるはずなのに、そこが常に緊張を強いられる場所であったとしたら、大人になっても、なかなか心からの安心感を得られない、という場合も出てきます。不安症に陥る方の多くが、そのような家庭環境で育ったという背景を持っているのは、残念ながら事実です。

不安症と家庭環境:親の関わり方が影響することも

心配性・過保護・過干渉が、不安の温床に

不安症に陥る要因として、虐待などの明らかな問題があった場合だけでなく、一見すると「良い家庭」に見える場合でも、親御さんが極度の心配性であったり、子どもに対して過保護・過干渉であったりすることが、影響しているケースも少なくありません。

親が心配するあまり、何でも子どものために先回りしてやってあげてしまったり、子どもの一挙手一投足に口を挟んでしまったりすると、子どもは自分で考えて行動する機会を奪われ、自主性が育ちにくくなります。その結果、自分の判断や行動に自信が持てなくなり、何か問題が起きた時にも、自分で解決する力が身につかないまま大人になってしまう、という可能性があります。
そして、「どうせ誰かが何とかしてくれるだろう」と他力本願になったり、逆に「何でも周りのせいだ」と責任転嫁したりするようになることも考えられます。

子どもが自分の行動に自信と責任を持って成長できるように、親は適切な距離で見守ることが必要です。
不安を感じやすい背景には、自分自身での成功体験が少ない、ということもあるのかもしれません。
何か辛いことが起きた時に、それを自分の力で乗り越えられた、という経験があれば、「また同じような状況になっても、きっと自分なら対応できるはずだ」と思えるようになり、漠然とした不安に苛まれることも少なくなるでしょう。
必要以上に過保護や過干渉になりすぎず、お子さん自身の力を信じて、本当に必要な時にだけ、そっと手助けをする、という関わり方が大切です。

大人になっても続く、過剰な心配性

不安症の原因には、親御さん自身の心配性が、深く関わっている場合が非常に多いと感じています。
「こうなったらどうするの?」「ああなったらどうするの?」
そんな言葉を、子どもの頃から母親(あるいは父親)に繰り返し掛け続けられて育った環境であれば、それはまさに、不安症になるための土壌が作られてしまった、と言っても過言ではないかもしれません。

子どもの頃から不安を感じやすい傾向があると、その思考パターンは、大人になっても当然のように続いてしまいます。それは、もはや考え方の「癖」として、深く染み付いてしまっているからです。
また、日々のニュースなどで心配になるような出来事を目にするたびに、「自分にも同じようなことが降りかかってくるのではないか…」と、過剰に反応し、不安を募らせてしまうことにもなります。

しかし、そこで不安感に押しつぶされてしまうのではなく、状況を客観的に、冷静に見つめ、「この点は大丈夫」「これも、心配するほどのことではないな」という感じで、少しずつ安心できる要素を見つけ、積み重ねていく練習をしてみましょう。

不安になった時には、「この不安は、漠然としたものなのか? それとも、何か具体的な原因があって起こっているものなのか?」を、自分で今一度よく考えてみることも、不安症への克服に繋がります。

不安を一人で抱え込まないで

信頼できる相手に、話してみることも大切

漠然とした不安感が強まってきたら、誰かに話を聞いてもらうのも良い方法かもしれません。
家族、友人、パートナーなど、あなたの話を親身になって聞いてくれる人に、まずは相談してみましょう。
話すことで、不安が完全に解消されるわけではないかもしれませんが、誰かに聞いてもらうだけでも、気持ちが少し楽になり、心が整理されることがあります。そして、それが、不安を解消するための具体的な行動を起こすための一歩となることもあります。

不安には様々な種類があり、ただ漠然と不安を感じるというだけでなく、動悸やめまい、発汗といった身体症状を伴うことも多いですよね。
そんな時には、慌てたり、パニックになったりせずに、まずは深呼吸をするなどして落ち着き、そして信頼できる身近な人や、私たちのようなカウンセラーなどに話を聞いてもらい、その不安な気持ちを少しでも静めていくことが大切です。

パニック体験が、特定の場所への恐怖を生むことも

一度、特定の場所で不安のあまりパニック発作などを起こしてしまうと、「また、あの場所で発作が起きたらどうしよう…」という強い不安(予期不安)から、その場所を避けるようになってしまうことがあります。
例えば、人混みでパニックになった経験があると、人が多い場所が怖くなったり、学校でパニックになった経験があると、学校そのものが怖い場所だと感じられたりするようになるでしょう。

そんな時には、無理は禁物ですが、少しずつ、短い時間からでも、その苦手な場所に身を置いてみる、という段階的な暴露療法(エクスポージャー法)が、治療の一環として行われることもあります。
パニック発作は、その瞬間は「死んでしまうのではないか」と思うほど、非常につらい体験です。しかし、実際には命に関わることはなく、時間が経てば必ず収まるものです。
そのことを頭だけでなく、体験を通して理解していくことでも、予期不安が和らぎ、苦手な場所にも少しずつ慣れていくことができるようになります。

周りの理解が得られにくい、不安症のつらさ

不安症を抱えるご本人にとっては、毎日が本当につらい不安との戦いです。しかし、その苦しみは、周りの人からはなかなか理解されにくい、「目に見えないつらさ」でもあります。
周りから見ると、「そんなことで、何をそんなに心配しているの?」と、軽く見られてしまったり、理解してもらえなかったりすることも、少なくありません。

確かに、客観的に見れば、他の人が不安に感じないようなことに、過剰な不安を感じている、というケースもあるでしょう。しかし、ご本人にとっては、それが日常生活や仕事、学業などに大きな支障をきたすほどの、深刻な問題なのです。

周りの理解が得られにくい

特に若い頃は、周りの目を気にすることも多いので、「人から自分がどう見られているのか」を必要以上に気にしてしまうこともあります。
また、親などの期待に応えたい、という気持ちが強いあまりに、無理をしていることに気づかず、それが達成できないことへの不安から、つらくなってしまう場合もあります。

そこで、「まあ、できなくても仕方ないか」と、ありのままの自分を認められると良いのですが、「完璧でない自分は愛されない」「できない自分はダメなんだ」と感じてしまうことで、不安感がますます増幅してしまう…。そんな悪循環に陥ってしまうこともあります。
失敗を恐れるあまり、新しいことに挑戦できなかったり、行動に移せなかったりすることも多く、それが生活の質を低下させてしまうことにもつながります。

不安を乗り越え、経験を力に変える

不安を恐れず、様々な経験を自分の糧にする

もし、あなたが抱えている過剰な不安感を克服することができれば、これまで怖くてできなかった、様々な体験や経験をすることも可能になります。
たとえ失敗することがあったとしても、その失敗から多くのことを学び、人として一回りも二回りも成長することができます。
「怖いから」と自宅に閉じこもっていることは、実は、多くの貴重な学びや成長の機会を、自ら失ってしまっていることにもなるのです。

少しでも「やってみたいな」と興味を持てることがあれば、勇気を出して参加してみる、経験してみる。それは、あなたの世界を広げる、非常に良いきっかけとなります。
あれこれと考えて不安になるばかりではなく、まずは一歩踏み出してみて、それから考える、というスタンスも、時には大切かもしれません。
そのためには、安心して挑戦できるような環境に身を置いたり、サポートしてくれる人を見つけたりすることも有効でしょう。
無理はせず、自分のできる範囲で、少しずつ不安感を取り除き、不安症と決別することを目指しましょう。

一人で無理なら、誰かを頼って大丈夫

不安症を抱えている方は、周りの人からの理解が得られにくく、一人で孤立してしまうと、さらにつらい状況に陥りがちです。ですから、カウンセリングや専門機関などを頼ることも、回復への有効な選択肢の一つです。

カウンセリングなどを通して、自分の中にある考え方の偏り(認知の歪み)に気づき、それを修正していくことで、「ああ、こんな風にも考えられるんだな」とか、「今までの自分とは違う、新しい視点が見つかった」といった発見があります。

自分で無意識のうちに作っていた「こうあるべきだ」という枠に閉じこもるのではなく、「自分には、こんなこともできるんだな」とか、「こんなことをしていると、楽しいな」というポジティブな経験を増やしていくことで、自分に自信が持てるようになってくるでしょう。
自分の得意な分野を伸ばしたり、好きなことを見つけて楽しんだりすることも、不安感を和らげる助けになります。

周りの人も、もし身近に不安症で苦しんでいる人がいたら、温かく支え、応援してあげられるような環境を作ってあげられると、なお良いでしょう。
ご本人が好きでやっていることを、「そんなこと、やっても意味ないよ」などと否定してしまうのは、ご本人をさらに萎縮させてしまいます。好きなことを続けたり、楽しめることを見つけたりして、ストレスを上手に発散できるようにサポートしていくことで、不安の解消につながることもあります。

「叱られるのではないか」という恐怖も、不安症のサイン

不安症の方の中には、自発的に何か行動を起こそうとする時に、常に周りからの干渉を受けたり、「そんなんじゃダメだ」といったように否定的な言葉を掛けられたりした経験から、新しいことに挑戦する意欲そのものが削がれてしまっている、という方もいらっしゃいます。
常に「また何か言われるのではないか」「失敗したら叱られるのではないか」といった漠然とした不安感を抱え、自分自身の価値を肯定的に感じることができなくなってしまうのです。

その背景には、社会における古い固定観念や、昔ながらの価値観などが、根強く残っている場合も多いかもしれません。
気をつけなければいけないのは、そうした一方的な価値観を、子どもや配偶者など、身近な人に押し付けないようにすることです。

「そんなんじゃダメだ!」とか、相手を一方的に責めたりするような関わり方は、相手の自信を奪い、不安感を増大させ、不安症の予備軍を作ってしまうことにもなりかねません。
できれば、「頑張っているね」「よくできているよ」といった、相手の存在や努力を肯定するような、温かい言葉で接していくことが、お互いの心の健康にとって、とても大切です。

社会は常に大きく変化しています。「こうしていれば絶対に大丈夫」という保証は、もはやどこにもないのかもしれません。親自身も、自分なりのしっかりとした考え(ビジョン)を持ちながら、子どもと一緒に社会の変化に対応し、未来を考えていく、という姿勢が必要になるでしょう。

親から子への否定的な言葉が、不安症の原因になることも

子どもに向かって、「そんなんじゃダメだ!」「どうして、そんなことをしたんだ!」と感情的に叱責したり、責め立てたりすることは、子どもの脳の発達にも悪影響を及ぼす可能性のある、「マルトリートメント(不適切な養育)」になることがあります。
両親は、子どものことを心配するあまり、つい厳しい言葉を言ってしまうのかもしれません。しかし、その言葉が、子どもの不安感を増幅させている可能性もあるのです。

「大丈夫だよ、なんとかなるよ」「こういう方法もあるかもしれないよ」といった、安心感を与え、具体的な解決策を一緒に考えるような関わり方をすることで、子どもは安心して、前向きな気持ちを持つことができます。

マルトリートメントの影響は、子どもの精神面だけでなく、その後の学校生活や学業、社会に出てからの仕事など、人生の様々な側面に影響を及ぼす可能性があります。脳の発達そのものにもダメージを与える可能性が指摘されており、非常に重要な問題です。

また、今あなたが抱えている不安症の背景に、実は子どもの頃からの、そうした家族からの否定的な働きかけが原因となっている場合もあります。
家族には悪気がなく、それが当たり前のコミュニケーションだと思っているために、繰り返されてしまいがちなのですが、それがご本人にとっては、知らず知らずのうちに、不安症を引き起こす原因となっている、というケースも少なくないのです。

不安症は、カウンセリングで改善が期待できます

不安症は、きちんとしたカウンセリングなどの治療やサポートを受けることで、良くなっていく症状です。
もしあなたが、言いようのない不安感に常に苛まれているのであれば、一度カウンセリングなどを受けて、ご自身の考え方の癖などを客観的に認識し、その考え方をより柔軟で、楽なものへと変えていけるように、トレーニングしていくことをお勧めします。

また、カウンセリングを受けるのは、ご本人だけでなく、ご家族にとっても効果がある場合があります。
ご家族が抱えている不安感を、無意識のうちにご本人にぶつけてしまっている、という可能性もあります。ですから、ご家族自身の不安感を取り除く、ということも、治療の一環として行うと、より効果的かもしれません。

親になると、自分の考え方を、知らず知らずのうちに子どもに押し付けてしまっている、ということは、誰にでもあるものです。そのことに親自身が気づき、関わり方を変えていくことでも、お子さんの状態が良くなっていく可能性は十分にあります。

また、成人してからであっても、ご自身の本来の性格や気質をきちんと把握した上で、不安が解消されるような具体的な行動をとっていくことで、より不安は収まっていくでしょう。

聖心こころセラピーでは、心理療法なども用いながら、あなたが不安を感じやすい思考パターンなどを、少しずつ、無理なく変化させていくお手伝いをします。
一人ではなかなか考え方を変えることが難しいと感じる場合には、ぜひ一度カウンセリングを受けて、ご自身の考え方の癖を知ることから始めてみませんか? それが、改善への大切な第一歩に繋がっていくはずです。

私たちは、あなたが不安症を解消するための手段を、十分に心得ています。
一緒に、つらい不安からの脱却に向けて、取り組んでいきましょう。

参考文献・参考資料

  • 樋口輝彦・大野裕(編著)(2006) 『不安障害のすべてがわかる本』 講談社
  • 大野裕(2003) 不安障害の認知行動療法 精神科治療学 第18巻 7号
  • アメリカ精神医学会(著),日本精神神経学会(監訳)(2023) 『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアルテキスト改訂版』 医学書院

この記事の著者

榊原カウンセラーは臨床心理士・キャリアコンサルタント・管理栄養士。日本福祉大学大学院修了(心理学修士)、名古屋学芸大学卒。公立小学校での栄養教諭を経て、現在は心理・教育・栄養の複合的な視点から支援活動を行う。日本心理学会・日本心理臨床学会会員として、心の健康や対人関係に関する情報発信・執筆にも力を注いでいる。

この記事の監修者

医師。藤田医科大学医学部を卒業後、臨床医として救急・集中治療など幅広い分野で経験を重ねる。現在は稲沢市民病院に勤務。ACLSプロバイダー認定を受け、急変対応やチーム医療の現場に携わる。心理領域への関心も深く、臨床現場での視点から本サイトの監修に協力。

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