解離性障害カウンセリング

解離性障害とは、まるで地に足がついていないような感覚がしたり、自分自身が現実と夢の中を行ったり来たりしているように感じられたり、記憶が曖昧で自分が何者なのかはっきりしなかったり、生きている実感が乏しかったり、常に自分の中に別人がいるような感覚を持ったりする状態を指すことがあります。
解離性障害にも多くの種類がある
「複数の人格が存在する…」そんな風に聞くと、少し驚かれるかもしれませんね。
人は、予想もしなかったような大きなショックを受けた時、その出来事に関する記憶が一時的に抜け落ちてしまったり、あるいは、本来の自分とは異なる人格が現れたりすることがあります。そして、その異なる人格の存在によって、日常生活や人生そのものに支障が生じるようになると、それは「解離性障害」と呼ばれる状態かもしれません。
「解離」とは?
解離性障害の「解離」という言葉は、使われる場面によって意味合いが変わることもありますが、心理学的には一般的に「現実感が薄れていて、現実世界で起きた出来事が、自分自身の意識の中でうまく統合されない」状態を指します。
このように説明すると、何かとても特殊なことのように感じられるかもしれませんが、実は「解離」自体は、特に珍しい現象ではなく、私たちが日常生活の中で体験していることでもあるのです。例えば、「何かに夢中になっていて、周りから声をかけられてもなかなか気づかなかった」「授業を聞いているうちに、意識がぼんやりとしてきて、空想にふけってしまった」といった経験も、広い意味では「解離状態」の一種と言えます。

「解離性障害」とは?
しかし、強いストレスを受けることによって、この解離の状態が著しく強くなり、「過去の出来事や、自分自身に関する大切な記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっている」「まるで自分のことを外から眺めているような気分になる」など、日常生活に明らかな支障をきたす状態になると、「解離性障害」と診断される事が多くなるようです。
解離性障害は、その主な症状によって、一般的に以下の4つに分類されます。

1.離人症性障害(離人症)
離人症性障害(離人症)とは、自分が生きているという実感(現実感)が持てず、また、自分の周りの世界や環境に対しても現実感がない、と感じる症状を指します。より厳密には、周囲の世界に対して現実感が失われる状態を「現実感喪失症」、自分自身の体や心に対して現実感が失われる状態を「離人症」と呼び分けることもあります。
この離人感や現実感消失の症状は、他の解離性障害と併発しやすく、精神的な症状の中では、不安や抑うつに次いで多いと言われています。
もし、以下のような状況に当てはまる場合、離人症性障害の可能性があります。
- 自分の感情、考え、あるいは体から、まるで自分が離れてしまい、外から自分を傍観しているような感じがする。
- 上記の症状が、何度も起こる、または継続的に続いている。
- 離人体験(自分を傍観しているような状態)の間も、意識ははっきりと保たれている。
- この離人感が原因で、ご本人が著しい苦痛を感じていたり、社会的、職業的な活動に支障が出たりしている。
- これらの症状が、薬物の影響や、他の精神疾患、あるいは身体的な病気によるものではない。
2.解離性健忘と解離性遁走
通常、「健忘」とは、ある特定の出来事や期間の記憶を思い出せない状態を指します。その頻度や範囲によっては、「物忘れ」と言われる程度のこともあり、必ずしも大きな問題とはなりません。しかし、「解離性健忘」の場合は、自分の名前や年齢、家族構成など、普通では絶対に忘れるはずのない事柄に関する記憶を忘れてしまうことがあります。
このように、解離性健忘とは、「自分に関する重要な個人情報」や「家族に関する情報」をも忘れてしまう傾向が強い症状を指します。そして、解離性健忘によって、自分自身がこれまでどのような環境で生きてきたのかを忘れてしまった場合、「解離性遁走(とんそう)」を引き起こしてしまう可能性があります。
「解離性遁走」とは、全く予期しない時に、それまで自分が生活していた場所から突然姿を消し(失踪し)、時にはそれまでの記憶をすべて忘れたまま、全く新しい環境で、別人として新しい生活を始めてしまうことを言います。自分自身の情報は忘れていても、日常生活に必要な知識や技能は失われていないため、周りの人がその人が解離性遁走の状態にあることに気づくのは、非常に難しい場合があります。
そうして失踪先で新しい生活を始めた後、ある日ふと、失踪する以前の記憶を取り戻し、逆に失踪してから後の記憶を忘れてしまう、ということも起こり得ます。
解離性遁走は、脳の病気などでも似たような症状が現れることがあるため、その可能性が疑われる場合は、まず精神科などの医療機関で詳しい検査を受けることをお勧めします。
3.解離性同一性障害(多重人格障害)
解離性同一性障害とは、耐え難いほどのつらい出来事などを経験した際に、そのつらさから自分を守るために「解離」が生じ、その解離された自分自身の気持ちや記憶などが、解決されないままに成長し、あたかも別の人格のようになって現れる症状を言います。少し前までは「多重人格障害」という名称で呼ばれていました。
解離性同一性障害の症状には、これまで説明した「離人症性障害」「解離性健忘」「解離性遁走」といった、他の解離性障害の症状も含まれていることが多く、それだけ複雑な状態であると言えるでしょう。
以下の診断基準に当てはまる場合、解離性同一性障害の可能性があります。(DSM-5に基づく簡易的な説明です)
- 自分の中に、2つまたはそれ以上の、はっきりと他と区別されるパーソナリティ(同一性、または人格状態)が存在する。それぞれの人格は、それぞれ独自の考え方や感じ方、記憶を持っているように見える。
- それらの人格(同一性)のうち、少なくとも2つ以上が繰り返し現れ、その時々の本人の行動を支配する(主導権を握る)。
- 自分の名前や住所、過去の出来事など、重要な個人的情報を思い出すことができない。それは、単なる物忘れの範囲を超えている(解離性健忘の症状がある)。
- これらの症状が、薬物の影響(例:酔っ払って性格が変わる)や、他の精神疾患、身体的な病気によるものではない。また、子どもの場合は、空想上の遊び相手やごっこ遊びなどによるものではない。
解離性同一性障害が「多重人格障害」ではなく、「解離性同一性障害」と呼ばれるようになったのは、1994年以降のことです。これは、現れる複数の人格は、全く別の独立した人格というよりも、元々は一つの人格であったものが、耐え難い経験によって断片化(解離)したものである、という考え方を明確にするためです。
ただ、ここでは分かりやすくご理解いただくために、「同一性」のことを「人格のようなもの」あるいは「人格」と表記しています。
この症状は、「境界性パーソナリティ症」と症状が似ている部分があるため、重複していたり、間違って診断されたりすることがあります。両者の主な違いは、まず「境界性パーソナリティ症」の場合、ご本人のパーソナリティ(基本的な性格)は一貫しているものの、他者に対する評価や感情が極端に変化し、それによって態度が別人のようにガラリと変わることがあります。
一方、「解離性同一性障害」の場合は、置かれている状況などによって、ご自身の同一性(人格)そのものが入れ替わってしまうため、他者に対する態度が別人のようにガラリと変わる、という点に違いがあります。つまり、「境界性パーソナリティ症」では他者への見方や感情が大きく揺れ動くのに対し、「解離性同一性障害」では自分自身のあり方(同一性)そのものが変化してしまう、というのが見分け方の一つのポイントです。
4.特定不能の解離性障害
解離性の症状が見られるものの、これまで挙げた「解離性健忘」「解離性遁走」「離人症性障害」「解離性同一性障害」のいずれの診断基準にも、はっきりと当てはまらない場合には、「特定不能の解離性障害」と分類されることも、稀にあります。
解離性障害には必ず原因がある
解離性障害の原因を考える際には、「なぜ、これほど強い解離が起きるのか?」という点を考えることになります。解離は、身体的な機能の障害というよりも、心因性(心理的な原因による)の障害であると考えられています。
原因は一人ひとり異なる
しかし、そこまでは分かっていても、「なぜ、その心因性の障害が起こるのか?」という点については、まだ確固とした定説が存在しないのが現状です。心のことは非常に複雑で、医療機関を受診しても、なかなかはっきりとした原因が見つからない、という場合も多いかもしれません。そのため、解離が起こる要因は人それぞれ様々であり(多因性)、一人ひとりの状況や背景に合わせてアプローチを考えることが、改善を目指す上で非常に大切だと考えています。
幼少期のストレスとの関連
ただし、一般的な傾向として、解離性障害を発症する方のほとんどが、幼い頃に強い精神的ストレス(例えば、いじめ、自己表現が許されない環境、ネグレクト、虐待、衝撃的な出来事の目撃など)を経験している、という共通点が見られることは事実です。「原因のない結果はない」ということになりますね。
認めたくない記憶を消すための「解離」
大きな事故に遭ったり、精神的に大きなショックを受けたりした時に、自分が自分でないような、ぼんやりとした感覚になったり、まるで遠くから他人が自分を見つめているような感覚に陥ったりすることがあります。楽しいとか嬉しいといった感情もよく分からなくなり、逆に悲しいとかつらいといった思いも、どこか他人事のように感じてしまう…。
幼少期の経験と感情の麻痺
解離性障害になる背景には、幼少期などにDV(家庭内暴力)などのショッキングな状況に遭遇した場合や、ネグレクト(育児放棄)などで、小さい頃に泣いても母親から十分にあやしてもらえなかった、といった経験が影響していることもあります。
そうした経験を通して、人間らしい豊かな感情を感じることが、まるで危険なことのように感じられ、感情そのものが麻痺してしまっている、という場合も少なくありません。しかし、カウンセリングなどを通して、認知行動療法や潜在意識に働きかけるアプローチなどを行うことにより、少しずつ自分自身を取り戻していくことは可能です。
特定の期間や出来事に関する記憶が思い出せなくなる「解離性健忘」
ショッキングな出来事が起こったり、愛情の乏しい家庭で育ったりした場合、自分の行動や言ったこと、さらには自分の名前や住所といった基本的な記憶までもが、抜け落ちてしまう(健忘)ことがあります。
解離性健忘とは
通常の“物忘れ”とは異なり、特定の期間や出来事に関する記憶が思い出せなくなる症状を「解離性健忘」といいます。日常的な出来事や一般常識は保たれていることが多いです。
一方で、心的外傷やストレスとなる出来事に関する記憶を思い出せなくなることが特徴です。具体的には、特定の出来事に関する記憶や、自分自身の個人情報(名前や年齢、住所など)、重要なライフイベント(結婚や引越しなど)の詳細など、広範囲の個人的な記憶が失われることがあります
解離性障害における複数人格の統合は可能か?
解離性障害によって現れる複数の人格(同一性)を、カウンセリングや心理療法によって統合していくことは可能です。
トラウマからの回復と統合
解離という状態は、多くの場合、トラウマになるような出来事から自分を守るための逃避行動でもあります。ですから、その原因となったトラウマ体験と向き合い、それを乗り越えていくことで、解離の必要性がなくなり、自然と症状が落ち着いてくる場合もあります。
周囲の理解とサポート
ただ、一緒にいるご家族やパートナーにとっては、少し怖いと感じる部分もあるかもしれません。すごく優しかった人が、次の瞬間には全く別人のように、例えば怒りっぽくなったり、子どものようになったり…。そのように人格が入れ替わる様子を目の当たりにすると、ほとんどの人は戸惑いを覚えることでしょう。「もしかして、演技をしているのでは?」と感じてしまうこともありますが、多くの場合、人格が入れ替わっている間は、別の人格の時の記憶が飛んでいることが多く、やはり通常の演技とは異なる様子が見られます。
いずれにしても、この解離性障害を放置していては、ご本人が満足のいく社会生活を送ることが難しくなってしまいます。周りの人に理解してもらえず、一部の特定の人に頼りきりの人生になってしまうのも、決して望ましいことではありません。より良い、あなたらしい幸福を目指すためにも、適切な対策を講じていくことが大切です。
大切な記憶が抜け落ち、自分が誰だか分からなくなる
「自分のことがよく分からない」というのが、解離性障害の大きな特徴の一つです。
日常的な解離との違い
一般的な感覚で説明すると、例えば、何かに夢中になっていて人の話を全く聞いていない状況や、自分で何かをしている時に、まるで別の自分がそれを見ているような感覚に近いかもしれません。
普段は、多くの場合、自分の意志を持って行動しています。しかし、例えば、子どもの頃に、父親に母親が殴られているのを目の当たりにしながら、「これは現実じゃない、嘘かもしれない」と、そのつらい状況を自分の身に起こっている現実として受け止められないような、不思議な感覚や錯覚に陥りやすくなるのです。
記憶のメカニズムと防衛反応
誰でも、楽しかった記憶は覚えていたいけれど、つらかった記憶は忘れたい、と思うものです。そのため、何か非常に衝撃的な出来事が起こった時に、脳が自分自身を守るために、その記憶を一時的に「忘れる」という働きをすることがあります。カウンセリングに来られる方の中にも、「子どもの頃の記憶があまりはっきりしない」とおっしゃる方は少なくありません。
しかし、カウンセリングを進めていく過程で、これまで心の奥底にしまい込んでいた(伏せていた)、子どもの頃のつらく厳しい記憶や感情が、少しずつ蘇ってくることがあります。それは一時的に苦痛を伴うかもしれませんが、それこそが、本当の意味での改善への大切な第一歩となるのです。
無意識に「思い出さないこと」を選ぶ解離性健忘
幼少期であっても、大人になってからであっても、ご自身の身に起こったショックな出来事を忘れるために、記憶の一部または全部を失ってしまう(健忘症)場合があります。大きな事故に遭った後などに、一時的に記憶喪失のような状態になることもあります。
記憶の回復と新しい生活
思い出の場所を訪れたり、何かをきっかけに、失われた記憶が段々と蘇ってくることもありますが、中には、記憶が戻らないまま、全く別の場所で、新しい生活を始めている、という場合(解離性遁走)もあります。
ご家族は心配して行方を探しますが、ご本人の記憶ははっきりせず、自分が誰であるのかさえ分からない、という状況も起こり得ます。これは、高齢の方の認知症の症状にも似ていますが、青年期や比較的若い頃に起こる健忘症の場合は、解離性障害の一つとして分類されます。
記憶を取り戻す際の注意点
失われた記憶を取り戻すためには、あまり急かさずに、ゆっくりと心と体を休めることが必要になります。ご本人にとっては、忘れていたい、思い出したくない記憶である可能性も高いため、記憶を取り戻していく過程では、細心の注意と専門的なサポートが必要になります。
解離性障害の克服には、治療者との信頼関係が重要
解離性障害は、「本当なのだろうか?嘘なのではないか?」と、周りの人には非常に見分けがつきにくいという側面があります。時には、まるで演技をしているかのように見える一面を見せることもあるかもしれません。
周囲の困惑と本人の苦悩
しかし、ご本人には自覚がないところで症状が現れており、ご本人に尋ねてもはっきりしない場合も多く、ご家族もどう対応して良いか分からず困惑してしまうことがあります。
信頼関係に基づくアプローチ
解離性障害の改善を望むのであれば、まず、治療者(カウンセラーなど)との間にしっかりとした信頼関係を築くことが、何よりも重要になります。そして、焦らず、辛抱強く、改善に向けてアプローチを行っていくことが大切です。
ジキルとハイドのように、極端な二面性を持つことも、解離性障害(特に解離性同一性障害)の特徴の一つです。普段は穏やかで優しい人に見えるのに、突然、全く別人のような、例えば攻撃的な一面を持つ人格が現れる時には、注意深い対応が必要になります。
つらい出来事があった時などに、「これは自分とは関係ないことだ」と、無意識のうちに現実から逃避したり、感情を切り離したり(遮断)することで、結果的に記憶が抜け落ちてしまう、という場合もあります。家庭内に問題がない場合でも、学校でのいじめ、性的な被害、親しい人の死、事故など、精神的に大きなショックを受ける出来事を目の当たりにすると、発症しやすいと言われています。
自分の意思で行動するために、認知療法などが有効
心の中にしまい込んでいるつらい記憶は、無理にすべて思い出す必要はありません。しかし、「本当の自分が分からない」「日常生活に支障が出ている」と感じている場合には、一度、聖心こころセラピーにお越しいただき、カウンセリングを受けながら、ご自身の人格や心のあり方について、一緒に考えてみるのも良い方法です。
自分が自分でないような感覚や、何をやっても上の空、という状態が続くのは、人生において非常につらく、寂しいものです。「生きている」「幸せに暮らしている」という実感が、心から湧き上がってくるように、改善に向けて一緒に取り組んでいきましょう。
解離性障害の改善に向けて
解離性障害を発症している方は、その症状によっては、周りの人たちから「演技をしているのではないか」と誤解され、ご自身が置かれているつらい状況を理解してもらうことが難しい、という問題を常に抱えています。また、ご本人が解離性障害であることに気づいていないことも多く、まずはご本人、そしてご家族が、解離性障害という状態を正しく理解することが、改善への第一歩として非常に重要です。
信頼関係と心理療法
そして、解離の引き金となった出来事や、その時のご自身の気持ちを明確にしていくために、治療を行う側(カウンセラーなど)との間に、安心できる信頼関係を築いていきます。その上で、なぜ強い解離が起きるのか、その根本的な原因を一緒に考え、その原因を解消するために、様々な心理療法(認知行動療法など)を組み合わせて行います。
解離性障害には、特効薬のような有効な薬はなく、確立された画一的な治療法も存在しない、と言われることもあります。しかし、決して改善しないわけではありません。
名古屋聖心こころセラピーでは、適切なカウンセリング、コーチング、認知行動療法などの心理療法を丁寧に行い、一人ひとりに合った対策を打ち出していくことが、解離性障害の改善に向けての一番の近道であると考えています。
複数の自分がいるような感覚は、とても疲れますよね。自分自身を覆い隠そうとする、仮の自分とは、そろそろ決別しませんか? 私たちは、そのための具体的な方法(対策・脱却法)を、これまでの経験を通して心得ています。
参考文献・参考資料
- 岡野憲一郎(2015) 解離性障害をいかに臨床的に扱うか 精神神経学雑誌 第117巻 第6号
- アメリカ精神医学会(著),日本精神神経学会(監訳)(2023)『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル テキスト改訂版』 医学書院