過食症カウンセリング

神経性過食症(過食症)とは、ご自身の思考パターンが影響し、気づかないうちに仕事、家事、育児、人間関係などに過度なストレスが生じ、心のコントロールが限界を超えた時に起こりやすい、ストレス性の不安症の一種と考えられます。また、親子関係や家族の問題が未解決であることも、原因となることがあります。

目次

神経性過食症(過食症)とは

様々なストレスが引き金となり過食症に 痩せた体型への強い憧れ 人間関係 仕事 親子関係や育児

痩せた体型への強い憧れや、仕事、人間関係、親子関係、育児など、様々なストレスが引き金となって起こるこの過食症は、日本でも年々増加していると言われています。

基本的には10代から20代の女性に多く見られる症状ですが、最近では少数ながら男性が過食症に悩むケースも報告されています。

過食症の主な症状

過食症に陥ると、食欲を自分でコントロールすることが難しくなり、ある一定の時間内に大量の食べ物を衝動的に食べてしまう状態になります。そして、多くの場合、太ることへの強い恐怖心や、過食してしまったことへの罪悪感から、食後に無理やり吐いたり(自己誘発嘔吐)、下剤や利尿剤などを乱用したりして、食べたものを体外に排出しようとします。

誰にでも、「今日はちょっと食べ過ぎちゃったな」と後悔することはありますよね。しかし、過食症は、そのような単なる「食べ過ぎ」とは明らかに異なります。食事をコントロールできなかった自分自身に対して、必要以上に強い罪悪感を抱き、激しい自己嫌悪に陥ってしまう傾向があるのです。

神経性やせ症(拒食症)との関係

「過食症」は大量に食べ過ぎてしまうのに対し、「拒食症」は極端に食事を避ける、という違いがあります。そのため、一般的には正反対のものと思われがちですが、どちらも根底には「太ること」に対する強い恐怖心があるという共通点があります。また、「過食症」と「拒食症」は根本的な原因が同じであったり、この二つの状態を行き来したりすることもあるため、はっきりと区別することが難しい場合もあります。

そのため、「過食症」と「拒食症」は、まとめて「摂食症」という総称で呼ばれています。

摂食症は、心の不安定さをもたらすだけでなく、症状が悪化すると、命に関わる危険性や、社会生活を送ることが困難になるほど、深刻な状態に陥る可能性のある、非常に危険な病気です。それにも関わらず、ご自身では「ただのダイエットの延長線上だ」と思い込み、過食や拒食の状態に陥っていることに気づいていない方も少なくありません。

あなた自身は、大丈夫でしょうか?
もし、以下のような症状に心当たりがあれば、「過食」の状態に陥っている傾向があるかもしれません。

  • 他の人よりもお腹が空くのが早い気がする。
  • 一旦食べ始めると、自分の意志では止められなくなってしまう。
  • なぜこんなに食べ過ぎてしまうのか、自分でもよく分からない。
  • 周りの人から「太っている」と思われているのではないかと、常に気になる。
  • スタイルの悪い自分には、価値がないように感じてしまう。
  • 冷蔵庫に食べ物がたくさん入っていないと、不安になる。
  • いつも手元につまめるお菓子などがないと、落ち着かない。
  • 食べ過ぎた後、必ず強い後悔の念に襲われ、惨めな気持ちになる。
  • たとえ体重が減っても満足できず、「まだ太っている」と感じてしまう。
  • お腹が空くと、体調が悪くなったり、気分が落ち込んだりする。
  • ストレスを感じると、食べずにはいられなくなったり、食べる量が極端に増えたりする。
  • 体重を維持するため、あるいは太りたくない一心で、食後に吐いてしまうことがある。
  • 痩せるために、過去に非常にハードなダイエットをしたことがある、または現在している。
  • 夕食前や夕食後にも関わらず、わざわざコンビニなどへ食べ物を買いに行ってしまう。

もし、これらの項目に3つ以上当てはまるようでしたら、過食のラインを超えている可能性が大きいと考えられます。一度、専門家にご相談されることをお勧めします。

過食症の原因を探る

摂食症、特に過食症の引き金として、やはりダイエットが関係していることが多いようです。

社会的な背景とダイエット

現代社会では、「痩せている女性=美しい、魅力的」という考え方が広く浸透しているように感じられます(実際には、男性が必ずしも痩せている女性だけを好むわけではないのですが…)。そのため、多くの女性にとって、ダイエットはまるで「義務」のように感じられているのかもしれません。

「痩せていることが美徳」とされがちな風潮の中で、周りの人からの「ちょっと太ったんじゃない?」といった何気ない一言が、過食のきっかけになってしまうことも少なくありません。特に、10代の女の子は、身体的な成長に対して不安を感じやすい年頃です。「体が成長すること=太ること」のように感じてしまい、それがきっかけで無理な食事制限を始めてしまうこともあります。

ダイエット⇒義務 「ちょっと太った?」

過食が止められなくなる理由(表面的原因)

過食が「分かっているのに、どうしても止められない」のには、いくつかの理由が考えられます。

コントロールの喪失

最初はダイエットなどをきっかけに、「食べても、運動で消費すれば大丈夫」と、自分自身で食事や運動をコントロールしていたはずなのに、過食症へと移行していくうちに、いつの間にか「食べないと気が済まない」「食べていないと不安だ」という、コントロール不能な状態に陥ってしまうことがあります。

これは、極端な食事制限によって体が栄養不足の状態になると、脳内で食行動を調節しているシステムが正常に機能しなくなってしまうため、と考えられています。その結果、普通の食事量では満腹感を感じにくくなり、ご自身の意図とは裏腹に、つい食べ過ぎてしまうのです。

ボディイメージの歪みと自己評価の低さ

過食症の方には、体型や体重に対する認知が実際と異なり(ボディイメージの歪み)、自己評価が極端に低くなる傾向があるといわれています。例えば、客観的に見れば十分に痩せているにも関わらず、ご自身では「まだ太っている」と思い込んでいたり、明らかに体に異常が出ているのに、「普通の体型なんだから大丈夫」と問題を過小評価してしまったりします。

中には、「太ったら、人に嫌われてしまう」とさえ強く思い込んでいる方もいらっしゃいます。このようなボディイメージの歪みと自己評価の低さが、ご本人の問題への気づきを遅らせ、周りの人が異変に気づいた頃には、摂食症がかなり進行してしまっている、というケースも少なくありません。

過食症の背景にあるもの(根本原因)

このような考え方の歪みの背景には、多くの場合、家庭環境や家族関係の問題が潜んでいます。摂食症を抱える方は、幼少期や思春期に、家庭内に何らかの問題(例えば、両親の不仲や別居、親との信頼感や親密さの欠如など)を経験していることが、非常に多いと言われています。

親子関係の影響

過食症の背景には、家族との関係性の中で、過剰な期待や感情的な抑圧を経験してきた方もおられます。親の意図とは別に、子どもが「自分らしさを出せなかった」と感じたことが、心の負担になっている場合があります。

本来であれば、お子さんの一番の理解者であるべき養育者が、子どもの気持ちを理解することよりも、ご自身の自尊心を守ることを優先し、無意識のうちに子どもをコントロールしようとすれば、子どもは「ありのままの自分は、無条件に愛してもらえないんだ」と感じてしまいます。そのため、子どもは「もっと頑張らなければ、愛されない」と思い込み、「完璧主義」や「良い子」であろうと努めるようになるのです。

「良い子」のSOS

親御さんからしてみれば、「あんなに手のかからなかった子が、どうして…」と、戸惑われることでしょう。お子さんがこれまで「良い子」として生きてきたからこそ、その子が摂食症になったという事実を受け入れることができない、という親御さんも少なくありません。しかし、ご本人にとって、過食という行動は、「もっと私の気持ちを分かってほしかった」「ありのままの私を認めてほしかった」という、心の奥底からの叫び(サイン)なのかもしれません。

過食症になりやすい方の性質

悩みを一人で抱え込みやす

「優等生」や「良い子」として周りの期待に応えようとしてきた人は、周りに気を遣う、とても優しいお子さんであることが多いです。そのため、悩みがあっても一人で抱え込みやすく、自分の気持ちを素直に表現することが苦手な傾向があります。また、あまり自己主張をしないため、周りの意見に流されやすく、何気ない一言にも過剰に反応して傷ついてしまうことがあります。

完璧主義の罠

一方、「完璧主義」の傾向がある人は、何事も徹底的にやらないと気が済まないため、常に「もっとこうしなければならない」「まだまだ足りない」と、自分自身を追い詰めてしまう傾向が強くあります。

自己否定感との繋がり

これらの性格傾向に共通しているのは、「ありのままの自分」を受け入れることができず、少しでも理想の自分から外れてしまうと、「自分はダメな人間だ」と強く自己否定してしまうことが多い、という点です。

このようにして、摂食症に繋がりやすい、強い自己否定感が根付いてしまいます。

過食症は幅広い年代の問題です

過食症は、一般的に10代から20代の若い方に多いと思われがちですが、成人してからも、なお過食症に悩まされている女性は多くいらっしゃり、当セラピーにも40代、50代の方がご相談に来られることも少なくありません。また、最近では、男性の方でも、過剰なストレスから過食症になるケースも見られます。

ストレス解消の手段としての過食

仕事上のプレッシャー、パートナー(彼氏や夫)との問題、嫁姑関係の葛藤など、現代社会は複雑な人間関係に満ちており、多くの方が、簡単には解決できないストレスを抱えています。

ストレスからの逃避行動

中には、ご自身の心の中でそのストレスを処理しきれず、手近にあるスナック菓子や菓子パンをむさぼり食べたり、冷蔵庫の中のものを手当たり次第に食べ尽くしたり… といった行動に走ってしまう場合があります。

これは、本来向き合うべきストレスから一時的に目をそらすための逃避行動であり、また、強いストレスの中で何とか自分を保つためのガス抜きの手段として、過食という行動を選んでしまっている状態と言えます。お腹が空いたから食べる、という通常の食事とは異なり、何か心の中にあるモヤモヤとした感情を、食事をすることで気を紛らわせようとしているのです。

そして、その食べる量が、通常の「食べ過ぎ」のレベルでは収まらないのが、過食症の特徴です。そのストレスを取り除けるような他の手段が見つかれば良いのですが、現実には、それを避けることが難しい状況にある場合も少なくありません。

期待と現実のギャップ

親からの期待、周りからの期待、そして「こうしなければならない」という自分自身の中にある強い思いと、「本当は少し休みたい」「もっと楽に過ごしたい」といった本音との間で葛藤し、強いストレスを感じる…。その結果、「もうどうでもいい!とにかく食べたい!」という衝動に駆られ、過食に繋がってしまうのです。

過食がもたらす健康への悪影響

食事は、本来、体に必要な栄養を摂り、生命活動を維持するための大切な行為です。しかし、過食している時には、菓子パンやお菓子、脂っこいものなど、普段は健康のために制限しているようなものを、好んで大量に摂取してしまう傾向があります。

栄養不足と中毒症状

偏った食事では、いくら量を食べても体に必要な栄養は満たされませんので、体も脳も満足感を得ることができません。また、砂糖や精製された炭水化物を過剰に摂取することで、さらに「もっと食べたい!」と感じるような中毒的なサイクルにはまり込み、どんどんと食べる量が増えていってしまう可能性もあります。お腹はもうパンパンなのに、まるで胃がはち切れんばかりに食べ続けてしまう、といった状況にもなりかねません。

自己誘発嘔吐や下剤乱用のリスク

たくさん食べた後には、「太ってしまう」という強い恐怖心から、食べたことを無かったことにするために、無理やり吐いたり、下剤を乱用したりすることもあります。しかし、体は栄養不足(飢餓状態)に陥っているため、そのような状況で少し食べただけでも、かえって脂肪を溜め込みやすくなり、太りやすくなってしまう、という皮肉な結果を招くこともあります。

そして、その「太ることへの恐怖感」から、さらに吐いたり、下剤を使ったり… というコントロール不能な悪循環に陥り、自己嫌悪感ばかりが増していくことになります。

満たされない感情を誤魔化すための過食

過食症の場合、食べている最中に「楽しい」とか「美味しい」といったポジティブな感情をあまり感じていないことが多いようです。ただ無心で、ひたすら食べ続けている、という状態に近いかもしれません。

自暴自棄な心理

食べている時には何も考えず、半分自暴自棄のような気持ちで、自分の中に溜まったうっぷんやモヤモヤとした感情を晴らすために、食べている、という場合も多いようです。

過食は、ご自身の体や心を痛めつける行為ではありますが、「食べて困るのは自分だけだ」という思いが、どこかにあるのかもしれません。「他の誰かを傷つけているわけではないし、食べ過ぎて体調が悪くなっても、困るのは自分だけ。だったら、これでいいじゃないか」というような、どこか投げやりな考え方をしてしまう場合もあるでしょう。

ギャンブル依存や買い物依存のように、金銭的なトラブルに発展したり、家族に直接的な迷惑をかけたりする可能性が低い、という側面から、他の依存行動の代わりに、食べることでストレスを発散し、何とか心のバランスを取ろうとしている、というケースも見られます。

体調が悪くても、過食が止められない心理

過食が続くと、当然、内臓にも大きな負担がかかります。その結果、消化器系の機能に異常が生じたり、様々な体調不良が現れたりすることもあります。

根底にある自己否定感

「命が惜しい」と思えれば、そこで過食を止められるのかもしれません。しかし、心の根底に、「自分なんか、どうなってもいいんだ」「自分が犠牲になれば、それで丸く収まるんだ」といったような、強い自己否定感や自己犠牲的な思いがあると、体調が悪化してもなお、過食をやめることができない、という状況に陥ってしまうことがあります。過食は、ご自身の「自信のなさ」の裏返しでもあるのです。

自分の中に満たされない劣等感や恐怖心などを抱えていて、そのつらい気持ちを何とか処理する(昇華させる)手段として、無意識のうちに「過食」という方法を選んでしまっている場合があります。周りから見れば、何の問題もないように見えても、ご本人の心の中には何らかの歪みが生じており、そのストレスを上手に発散する方法が見つからずに、過食という形でSOSを発している可能性もあるのです。

「聞き分けの良い子」に多い過食症

意外に思われるかもしれませんが、家では親の言うことをきちんと聞き、いわゆる「手のかからない子」だった、という方が、過食症を発症するケースも少なくありません。

抑圧された感情とストレス

親御さんの価値観と、ご自身の本当の気持ちとの間で、常に葛藤(せめぎ合い)があり、そのストレスをどう発散すれば良いのか分からずに、食べることで何とか向き合おうとしている、という状況なのかもしれません。

ご自身の中では、「本当はこうしたい」「こう思っているけれど、これを言ったら嫌われてしまうだろうか…」といった、満たされない欲求や不安を、常に抱えている場合が多いのです。「聞き分けの良い子」は、親御さんにとっては、確かに手が掛からず、都合の良い存在かもしれません。しかし、ご本人は、心の中ではつらく、寂しく、苦しい思いをしていることが、実は多いのです。

親の期待と子どものSOS

ご自身の価値観が絶対だと信じている親御さんは、なかなかそのお子さんの苦しみに気づくことができません。「あなたのためを思って言っているのよ」という言葉で、無意識のうちにお子さんを操作しようとしてしまうこともあります。親御さんとしては、良かれと思って言っていることでも、それがお子さんにとっては大きなストレスとなり、過食という形で突然SOSが現れることもあるのです。

もちろん、親御さんの言うことが、社会的な常識から見て「正しい」場合も多いでしょう。しかし、その「正しさ」に常に合わせ続けることは、お子さんにとっては気力や体力が追いつかず、非常につらい道のりである場合もあります。「良い子」でいる努力を続けることに疲れ果て、その感情の爆発の矛先が、過食という自分自身を傷つける行為に向かってしまうこともあるのです。

子どもの過食症は、こころのSOS

過食は、体の健康にとって、本当に良くありません。若くして糖尿病などの生活習慣病になるリスクもありますし、様々な体の不調を引き起こす可能性があります。健康的な生活を送るためには、バランスの取れた食事を適量摂り、適度な運動をすることが大切です。

心のバランスを保つための過食

「分かっていても、過食に走ってしまう」のは、そうすることでしか、ご自身の心のバランスをかろうじて保つことができない、という切実な状況があるからなのかもしれません。

自分の中には、「本当はこうしたい!」「こう思う!」という強い気持ちがあるのに、それを表現することができない…。それが大きなストレスとなっていきます。そこに、さらに親御さんからのプレッシャーなどが加われば、お子さんの心はますます追い詰められ、その行き場のない不安感や怒りを、過食という形で発散しようとしてしまうのです。

親御さんの言っていることは、確かに正しいのかもしれません。そして、その通りにすれば、将来的には幸せになれるのかもしれません。しかし、その「正しさ」が、今のお子さんにとっては、非常につらく、重荷になっている場合もあるのです。もちろん、時には我慢することも必要でしょう。しかし、自分の中に湧き上がってくる素直な思いを、誰にも話すことができない… そのような状態が続けば、心のダムがストレスで満杯になり、ある日突然、決壊するように、過食症という問題が溢れ出てきてしまうこともあるのです。

過食行動は、心の中の苦しみやストレスを処理する一つの手段として現れることがあります。中には、身体的・心理的負担を伴う行動パターンとして、自己破壊的な意味合いを含むこともあります。

ダイエットの反動が過食を招く

ダイエットをしていると、甘いものや炭水化物など、いわゆる「太る原因」とされる食べ物を、厳しく我慢している方も多いかもしれませんね。

中毒性とリバウンド

炭水化物や甘いものには、中毒性があるとも言われています。そのため、普段からそれらを頻繁に摂取していると、体がそれに慣れてしまい、摂取量が減るとイライラしたり、つらく感じたりすることがあります。

しかし、この場合も、その中毒症状が抜ければ、やがて体は慣れていき、過剰に炭水化物や甘いものを欲しがらなくなっていきます。体の生理的な仕組みから考えると、特定の食べ物がないとイライラしてしまう、といった症状は、一種の中毒症状に陥っている可能性も考えられます。その場合は、原因となっている食べ物を少しずつ減らしていくことも、効果的な場合があります。

ただし、炭水化物を完全に抜いてしまうような極端な制限や、過度な我慢は、かえってリバウンドを招き、爆発的な過食のきっかけになってしまうこともありますので、注意が必要です。

容姿に対する偏見が過食症に影響する

人から「ちょっと太ったね」と言われたり、鏡に映る自分の二重顎を見て「嫌だなあ」と感じたり… そんな経験はありませんか? また、テレビや雑誌で美しいモデルさんなどがチヤホヤされているのを見ると、「やっぱり痩せていて綺麗な人の方が、人から好かれるんだ」「太っていることは、良くないことなんだ」という、社会に蔓延する外見至上主義的な風潮に、知らず知らずのうちに影響され、ご自身の考え方が形作られていく場合があります。

周囲の態度と自己肯定感

「容姿で価値は決まらない」と心から受け入れる

そんな中で、もし、ご両親やパートナー、親しい友人などが、あなたの容姿によって態度を変えるようなことがあれば、あなたは深く傷つくことになるでしょう。どんな外見であろうとなかろうと、変わらない態度で、ありのままのあなたを受け入れ、接してくれる存在がいることで、「私は愛されているんだなあ」と、心からの安心感を得られるのではないでしょうか。

「どんな容姿の自分でも、大丈夫なんだ」「外見だけで私の価値が決まるわけではないんだ」ということを、心から受け入れる(認知する)ことができれば、過食した後に吐いたり、下剤を乱用したりすることもなくなり、自分に自信を持って、もっと楽に過ごせるようになるはずです。

思うようにいかない現実 → ストレス → 過食症という悪循環

過食になってしまう原因は様々ですが、多くの場合、自分の思うように物事が進まないことへのフラストレーションや、様々な問題を一人で抱え込んでしまうことが、大きな要因となっています。家庭環境の問題、仕事上のプレッシャー、学業の悩みなど、私たちは日々、様々なストレスにさらされています。そのストレスをうまく発散する手段が見つからない時に、手近な「食べる」という行為で、一時的に気を紛らわせようとしてしまう場合が多いのです。

過食によるバランス維持?

「太っている自分はだらしないなぁ」「このお腹、どうにかしたいなぁ」と感じて悩んでいる一方で、食事以外の面では、意外ときちんとしている、という方も少なくありません。もしかしたら、他のことをきちんとこなすために、過食という行為によって、無意識のうちに心のバランスを保とうとしている、という側面もあるのかもしれません。

健康へのリスク

過食は、心身の健康に直接影響を与える行為です。自分でコントロールが効かなくなってしまうと、非常に危険な状態に陥る可能性もあります。甘いものや脂っこいものを過剰に摂取し続けると、次第に味覚が鈍くなり、さらに濃い味や甘いものを求めるようになります。また、胃腸や肝臓などの内臓にも大きな負担がかかります。

若い頃は体力があるため、多少の無理がきくかもしれませんが、その無理が積み重なり、年齢を重ねてから、深刻な健康問題として現れてくることも少なくありません。注意が必要です。

体重に一喜一憂しない心の強さを持とう

「体重が20年間、ほとんど変わっていない」という方の話を聞くと、「特にダイエットには興味がない」とおっしゃる方も多いものです。しかし、多くの場合、自然と変わらないスタイルをキープされています。食事に関しても、「ビールを飲みすぎた翌日は、ちょっとだけ控えようかな」と思う程度で、特に過度な制限をしているわけでもなく、かといって食べ過ぎることもなく、健康的な体を維持されています。そういった方々の中には、社会的に認められ、活躍されている方も少なくありません。

それは、ご自身の仕事や活動を通して、周りからそれなりの評価を得て、それが確かな自信に繋がっている、というケースが多いからかもしれません。仕事ができるビジネスパーソンの中には、体を鍛えている方も多いですが、それは単に健康のためだけでなく、「他人からどう見られるか」という視点も意識し、体型維持も自己管理の一環と考えている場合もあります。

もちろん、中には、ただ単に「食べても太らない体質」という方もいらっしゃるでしょう。しかし、そうした方々は、食事よりも、例えばファッション(洋服、靴、カバンなど)といった、他のことに関心や時間、お金を使っている場合もあります。もし、あなたが過食に走りやすい傾向があるなら、オシャレや身の回りの整理整頓など、食べる以外のことに興味や関心を移してみると、何か変化が訪れるかもしれません。

制限が多すぎることが、過食症の引き金になる

オシャレや音楽、異性などに興味を持ち始める年頃に、そうした関心を親から否定されたり、あるいは何らかの出来事で自分に自信が持てなくなったりすると、「もうどうでもいいや」というような投げやりな感情が湧き起こり、その負の感情を抱えたまま、ヤケ食いをしてしまう…。それが、過食症の始まりになってしまうこともあります。

「痩せ」への執着と罪悪感

「痩せている方が良い」という思いが心の根底にあり、食べることへの罪悪感を常に抱えつつも、食べることをやめられない… という、苦しい負のサイクルに陥っている場合もあります。

親からの過干渉

親御さんから、事あるごとに「ああしなさい、こうしなさい」と過度に干渉されて育った場合、長い間、ご自身の欲求を抑え込んできた経験から、その満たされなかった欲求が、過食という形で現れている可能性もあります。様々な制限を受け、自分のやりたくないと感じることも無理にやらされ続ける中で、ストレスが溜まりに溜まり、過食という形で感情が暴発してしまうのです。

過食をしたからといって、根本的な問題が解決するわけではありません。しかし、「食べたい!」という衝動を抑えきれずに、ただ無心で食べるという行為を繰り返してしまうのです。

過食症の克服に向けて、大切なこと

過食や嘔吐を繰り返していると、心と体に様々な異常が現れてきます。合併症として、うつ病や強迫性障害、女性の場合は無月経、さらには内臓機能の異常など、数えきれないほどの症状が連鎖的に引き起こされることもあります。ご自身の体の声に、常に注意を払う必要があります。

心のケアと生活習慣の見直し

改善のためには、体調管理や生活習慣を見直すことも大切ですが、それ以上に、まずご本人が心地よく過ごせるような考え方を身につけていくことが重要です。

カウンセリングによって、過食を引き起こしている「根本原因」を正しく理解し、もしかしたら家庭環境や親御さんとの関係性の中で十分に得られなかったかもしれない「自分を大切にする心(自己肯定感)」を取り戻していくこと。それが、これまであなたを苦しめてきた「自分にフィットしていない考え方」や「偏った価値観」を見直し、改善を図り、もっと自由に、あなたらしく生きていくための大きな力となります。

どんな時に「満足感」を得られるかを考える

もし、あなたが様々な感情や不安、不満を、過食することで紛らわせているのだとしたら、「自分はどんな時に、本当の意味での満足感を得られるのだろうか?」ということを、一度じっくりと観察してみることも大切です。

食べる以外の楽しみを見つける

食べ物以外にも、あなたが「面白い!」と感じられるものや、心から興味を持てるものが見つかれば、食べ物への過剰な執着心も、自然と薄れていくことがあります。

「何か食べたいなぁ」という衝動が湧いてきた時に、信頼できる誰かと話してみる、あるいは、食べる以外のことで、自分なりの満足感が得られるような経験を少しずつ増やしていくことで、過食の波も次第に落ち着いてくる場合があります。もし、それを一人で見つけるのが難しいと感じる場合には、カウンセリングを通して、ご自身の本当の気持ちに気づいていくのも良い方法です。

自分の気持ちを表現する大切さ

「私は、本当はこんなことに興味があるんだ」「こんなことをしてみたいと思っているんだ」ということを、素直に言葉にして話せるようになれば、少しずつ心の中が変わってくるかもしれません。また、あなたの気持ちを周りの人に伝えることで、「ああ、そんなことを考えていたのか」と理解してもらえるようになり、周りの人の対応も変わってくる可能性があります。

もし、自分の気持ちをうまく表現できないと感じる場合でも、カウンセリングを通して、ご自身の心を整理整頓していくことは可能です。心の中のモヤモヤを、食べることで紛らわすのではなく、「自分はこう思う」「こんなことがしてみたい」といった、ご自身の希望や考えを、きちんと相手に伝えられるようになれば、過食への依存も少しずつ減っていくでしょう。

カウンセリングでは、そのお手伝いをすることができます。あなたの心のあり方について、カウンセラーとじっくりと向き合い、取り組んでいくことをお勧めします。

参考文献・参考資料

  • 西園マーハ文(2022)『摂食障害の精神医学 「心の病気」としての理解と治療』 日本評論社
  • アメリカ精神医学会(著),日本精神神経学会(監訳)(2023)『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル テキスト改訂版』 医学書院

この記事の著者

榊原カウンセラーは臨床心理士・キャリアコンサルタント・管理栄養士。日本福祉大学大学院修了(心理学修士)、名古屋学芸大学卒。公立小学校での栄養教諭を経て、現在は心理・教育・栄養の複合的な視点から支援活動を行う。日本心理学会・日本心理臨床学会会員として、心の健康や対人関係に関する情報発信・執筆にも力を注いでいる。

この記事の監修者

公認心理師・臨床心理士。教育支援センターやスクールカウンセラーとして不登校支援や保護者相談、教職員へのコンサルティングに従事。心療内科や児童発達外来にて心理検査・カウンセリングも担当。現在はオンラインカウンセリングや、心理学と仏教を融合させたセミナー活動などを行っている。

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