社交不安症カウンセリング

社交不安症(社会不安症・社交不安障害)とは、人との関わりに対して常に強い恐れを感じ、できる限り人との交流を避けようとしてしまう状態を指すことがあります。
その結果、動悸、喉の渇き、めまい、吐き気といった身体的な症状が現れ、そうしたつらい体験を避けるために、社会的な活動から距離を置き、ニートやひきこもりの状態へと移行してしまうケースも少なくありません。

目次

社交不安症は、あなたの人生の可能性を狭めてしまうかもしれません

社交不安症(社会不安症・社交不安障害)とは、人との付き合いや社交的な場面において、「他者から悪い評価を受けるのではないか」「馬鹿にされるのではないか」といった強い不安や恐怖を感じ、それが苦痛となって、職場での人間関係、友人関係、日常生活全般に支障をきたしてしまう状態を指します。

人前で発表する時に不安を感じたり、周りの人から注目されていると感じる時に緊張したりするのは、誰にでもある自然な経験ですよね。
多くの場合、そうした行為を繰り返すうちに慣れてきたり、一度始めてしまえば案外平気だったりして、不安や緊張は比較的すぐに解消されていくものです。

社会不安症 人前で恥をかくことや他人に悪く思われることへの強い不安や恐怖

しかし、社交不安症を抱えている方の場合、その不安がいつまでも消えることなく続き、その影響が動悸や発汗、震えといった身体の症状として現れ、次第に日常生活を送ること自体が困難になってしまう場面が多くなります。

補足:社交不安症は、少し前まで日本では英語の「Social Anxiety Disorder」を直訳した「社会不安障害」という名称で呼ばれていました。しかし、2008年からは日本精神神経学会において、症状に対する誤解がより少ない「社交不安障害」という名称を使うように変更されました。

では、具体的に社交不安症の方が、どのような状況で特に強い不安を感じやすいのか、主な例を見てみましょう。

社交不安症の方が、特に不安を感じやすい状況の例

  • 会議やグループディスカッションで、自分の意見を言うこと
  • 他の人から見られている状況で、何らかの作業や行動をとること(例:人前で文字を書く、食事をするなど)
  • 試験、講習会、セミナーなど、評価される可能性のある場面に参加すること
  • 他の人から食事や遊びに誘われること、または自分から誘うこと
  • 知らない人と会話したり、一緒に作業したりすること
  • 宴会の幹事や、何らかの催し物の企画・運営などを任されること
  • 同僚や先輩、上司に質問したり、頼みごとをしたりすること
  • 目上の人や権威のある人(先生、役職者など)と会話したり、面談したりすること

強い不安や緊張に伴って現れやすい身体的な症状

上記のような状況に直面したり、直面することを想像したりすると、次のような身体的な症状が現れることがあります。

  • 息が苦しくなる、息が詰まる感じがする
  • めまいがする、ふらつく感じがする
  • 心臓がドキドキする(動悸)
  • 冷や汗をかく
  • 吐き気がする、気持ちが悪くなる
  • 手や声が震える
  • 頭が混乱し、パニックになりそうになる
  • 前日の夜から眠れなくなる
  • 頻繁にトイレに行きたくなる(頻尿)
  • 顔がほてる、赤くなる(赤面)
  • 口の中がカラカラに渇く
息苦しい めまい 動悸 冷や汗 吐き気 震え パニック 眠れない 頻尿 赤面 口が乾く

社交不安症(社会不安症・社交不安障害)の症状や特徴を一つひとつ見ていくと、「それは、ちょっと緊張しやすいだけじゃないの?」「単なる『あがり症』や『恥ずかしがり屋』なのでは?」と思われがちです。
しかし、「社交不安症」という不安症は、単なる性格の問題ではなく、感情や思考のコントロールの仕方に問題が生じている状態、つまり治療やサポートによって改善が可能な状態なのです。

社交不安症の大きな特徴の一つに、ご本人にも「自分の不安は、他の人よりも過剰だ」という自覚がある、という点が挙げられます。(ただし、例外もあります)
単なる性格の場合は、本人にその自覚がないことも多いのですが、社交不安症の方は「不安を感じすぎてしまう自分」を自覚しているからこそ、「こんなに緊張している自分は、周りからネガティブな評価を受けてしまうのではないか」とさらに不安に思い、恐怖心を募らせてしまう、という悪循環に陥りがちです。

こうして症状が悪化していくと、自分が恐怖を感じる場所や、恐怖を感じる状況が起こりそうな場所へ行くことを、意識的、あるいは無意識的に避けるようになっていきます(回避行動)。

何らかの理由で、どうしてもその場所へ行かなければならなくなった場合には、そこへ行く前から強い不安を感じ、実際にその場に行くと、(実際にはそれほど注目されていなかったとしても)「みんなが自分を見ている」「評価されている」と感じ、周りの目が気になって仕方がない状態になります。

恐怖の対象が学校や職場になることも非常に多く、その場合は、学業や仕事に支障をきたし、人生設計そのものに大きな影響を与えてしまうことになります。
また、つらい気持ちを少しでも和らげようとして、お酒を飲んだり、タバコを吸ったり、買い物をしたり、といった特定の行動を繰り返すうちに、アルコール依存症や買い物依存症など、他の依存症に陥ってしまうリスクもあります。

社交不安症になりやすい年齢や時期

社交不安症は、精神疾患の中でも比較的若い世代で発症しやすいと言われています。特に、思春期である10代半ばに発症することが多いようです。
その一方で、仕事での昇進や部署異動などで、人と接する機会や責任が増える30代~40代になってから発症される方も少なくありません。

また、思春期よりも前に社交不安症を発症するケースもあります。その場合、特徴として挙げた「自分の不安は行き過ぎている」という認識が、例外的に持てていないことがあります。
その場合は、知らない人と接することを極端に怖がったり、知らない人に会うのを嫌がったりする、といった形で症状が現れることがあります。

社交不安症のセルフチェック

以下の4つの項目にすべて当てはまる場合、社交不安症の可能性があります。一度、専門機関に相談してみることをお勧めします。

  1. 人前での行動(食事、スピーチ、電話など)や、人から注目されていると感じる状況で、著しい恐怖や不安を感じ、戸惑ってしまう
  2. そのような状況で感じる不安は、自分でも「過剰だ」「行き過ぎている」と思う
  3. 不安を感じる対象や状況を、できる限り避けてしまう。あるいは、避けられない場合は、非常につらい気持ちでじっと我慢して耐えている
  4. その不安感によって、学業、仕事、社会生活、日常生活などに支障が出ている。または、著しい苦痛を感じている

社交不安症の原因について

現在も研究が進められていますが、社交不安症の医学的・生物学的な原因は、まだはっきりと分かっていません
仮説としては、脳内で気分を落ち着かせる働きを持つ神経伝達物質(セロトニンなど)や、逆に緊張を促す物質(ノルアドレナリンなど)のバランスが崩れているのではないか、という説や、脳の中で恐怖や不安の信号を伝える部位(扁桃体など)が過剰に反応してしまっているのではないか(その理由は不明)、という説などがあります。

このように、生物学的な原因はまだ解明されていません。
しかし、なぜ特定の状況や人に対して、これほど強い恐怖や不安を感じてしまうのか、という心理的な側面については、ご本人の過去の経験(例:人前で恥ずかしい思いをした、からかわれた、厳しく叱責されたなど)や、育ってきた家庭環境(例:親が過度に批判的だった、安心できる環境ではなかったなど)に、原因やヒントが見つけられることがほとんどです。

ですから、たとえご自身で原因が分からないからといって、「この症状はもう治らないんだ」と諦める必要は全くありません
社交不安症は、適切な治療やカウンセリングによって、克服していくことが可能な症状です。

社交不安症の治療法について:薬物療法と精神療法

社交不安症の治療法には、大きく分けて、精神科や心療内科で行われる「薬物療法」と、カウンセリングルームなどで行われる「精神療法(心理療法)」が存在します。

薬物療法(病院での治療)

脳内の神経伝達物質のバランスを整える薬(SSRIなどの抗うつ薬や、抗不安薬など)を用いることで、不安や緊張の症状を和らげることを目的とします。
「抗不安薬」や「精神安定剤」などがよく使用されます。

しかし、薬物療法はあくまで症状を一時的に抑える対症療法である場合が多く、根本的な解決に至るのは難しいのが現状です。
なぜなら、社交不安症の場合、その背景には「物事の捉え方」や「考え方の癖」といった心理的な問題が、大部分を占めているからです。薬で考え方や捉え方そのものを変えることはできません。ここに、薬物療法の限界があると考えられます。

もちろん、症状が非常につらい場合には、医師の指示に従って薬物療法を受け、一時的に症状を緩和することも有効な場合があります。しかし、根本的な解決を目指すためには、薬物療法と並行して、あるいは薬物療法に頼らない形で、精神療法(心理療法)に取り組むことを強くお勧めします。

精神療法(心理療法・カウンセリング)

当、名古屋聖心こころセラピーで行っているのは、こちらの精神療法です。
精神療法の中でも、社交不安症に対して効果が高いとされているものに、「認知療法(認知行動療法)」や「行動療法」などがあります。

  • 認知療法(認知行動療法)
    「なぜ自分は、特定の状況でこれほど不安や恐怖を感じてしまうのだろう?」と、ご自身の思考の流れやパターンを客観的に理解していきます。そして、不安を感じにくいような、より現実的で、柔軟な考え方や物事の捉え方を身につけていくことを目指します。
    そうすることで、ご自身の不安な気持ちを、意識的に、そして将来的には無意識のうちに、うまくコントロールしていけるようになることを目指します。
  • 行動療法
    不安を引き起こす対象や状況に、あえて少しずつ段階的に挑戦していくことで、徐々に不安を感じないように気持ちを慣らしていく「暴露療法(エクスポージャー法)」などが代表的です。
    例えば、「最初は少人数の前で話す練習をする」→「少しずつ人数を増やしていく」→「最終的には大勢の前でも話せるようになる」といったステップを踏んでいきます。

社交不安症からの克服へ:一歩踏み出す勇気

社交不安症は、ご本人にとって、本当につらい症状です。
私たちの人生において、人との関わりは避けて通れません。その、人生の最も重要な部分に困難を抱えていては、人生を楽しむどころか、毎日が苦痛になってしまいますよね。

でも、この問題の克服は、あなたが思っているほど難しいものではないかもしれません。
ほんの少しだけ勇気を出して、ぜひ一度、名古屋聖心こころセラピーにお越しください。
カウンセリングを通して、あなたの不安を、未来への期待へと、少しずつ変えていくお手伝いをさせていただきます。

名古屋聖心こころセラピーでは、上で挙げた「認知行動療法」の他に、「ヒプノセラピー(催眠療法)」なども組み合わせ、お一人おひとりの状態やご希望に合わせた、最適なアプローチを用いることで、社交不安症からの回復、そしてより楽な生き方への脱却をサポートします。

社交不安症が引き起こす具体的な困難

プレゼン・発表の場や会食での激しい緊張

社交不安症を抱えていると、学校の授業での発表や、会社でのプレゼンテーションなど、人前で何かを発表する場面で、通常では考えられないほどの極度の緊張を感じ、気分が悪くなったり、頭が真っ白になったりすることがあります。
そして、そのつらい経験から、そうした場面を避けるようになり、会社や学校に行けなくなってしまうケースもあります。

また、他の人と一緒に食事をするという、ごく日常的な行為に対しても強い恐怖を感じてしまい、社員食堂やレストランなどに行けず、結果的に一人で食事をとるようになったり、ひどい場合には食事そのものが十分に摂れなくなったりすることもあります。

常に「自分は周りの人から変だと思われていないだろうか」「何かおかしなことをしていないだろうか」といった考えが頭から離れず、人前に出ること自体が怖くなってしまうのです。
その結果、なかなか家から出られなくなり、不登校やひきこもり、ニートといった状態につながってしまうケースも少なくありません。

初対面での会話が非常に苦手で、人を避けてしまう

初対面の人や、あまり親しくない人、目上の人と話をするのは、誰でもある程度は緊張するものです。しかし、社交不安症の場合、その緊張が極端に現れ、顔が真っ赤になったり、言葉がどもってしまったりすることがあります。
仕事などで、お客さんと話をしなければならない場面で、過度に緊張してしまい、うまく対応できない、といった悩みもよく聞かれます。

「恥ずかしがり屋」といった性格は、子どもの頃からの性質である場合もあり、「これはもう治らないものだ」とご本人自身が思い込んでしまっていることも多いかもしれません。
しかし、カウンセリングなどを通して、ご自身の考え方やコミュニケーションのパターンを見直していくことで、少しずつ改善していくことは十分に可能です。

仕事などにおいても、最初は分からないことばかりで不安かもしれませんが、経験を積んでいくことで自信がつき、徐々に緊張しにくくなっていくことも多いものです。
「緊張するから」「周りの目が気になるから」と最初から避けてしまうのではなく、思い切って挑戦してみる、という姿勢も大切になります。

その際に感じる緊張や不安感は、決して無駄なものではありません。その発表や仕事を「成功させたい」という気持ちの表れであり、より良くするための努力を促す原動力にもなります。ですから、できる限りの準備をしっかり整えて臨むことが、結果的に自信につながり、不安を軽減させることにもなります。

社交不安症への対処法:考え方と行動を変える

緊張を和らげることを目指して

社交不安症の大きな特徴は、人前に出た時などに極度に緊張してしまうことです。そのため、治療においては、まずその過剰な緊張感を和らげることが目標の一つとなります。
病院では、医師の判断のもと、精神安定剤などが処方されることもあります。過敏になっている神経系の反応を一時的に落ち着かせ、不安を緩和する効果が期待されます。。

症状がつらい時には、無理をして人に会う必要はありません。しかし、少しずつでも、苦手な状況に身を置いて「慣れていく」こと(前述の暴露療法など)も、長期的には緊張状態を緩和させるために有効な場合があります。

また、緊張のあまり顔が真っ赤になったり、何も話せなくなってしまったりすると、それがさらなる自信喪失につながり、悪循環に陥ってしまいます。
そのような場合も、カウンセリングなどを通して、「なぜ自分はこれほど緊張してしまうのか」「その背景にはどんな思い込みがあるのか」などを自分自身で理解し、整理していく中で、徐々に気持ちが落ち着き、症状が改善していくことが期待できます。

トレーニングで乗り切る力をつける

社交不安症を抱えていると、大勢の人の前に出ると極度に緊張してしまう、ということがあります。
そのような場合、その場面に実際に臨む前に、どのように振る舞うのかを事前にシミュレーションし、練習しておく(トレーニング)ことでも、緊張をある程度和らげることができます。

「あの場所に行ったら、まず席について、こういう風に行動して、終わったらこうやって帰ってくる」という一連の流れを、頭の中で具体的にイメージしたり、実際に声に出して練習したりするだけでも、本番での安心感が違ってきます。

また、人前にいると、つい「周りの目が気になる」「変に思われているのではないか」「笑われるかもしれない」といった不安な考えが浮かんできてしまうことがあります。
そんな時には、「それは、もしかしたら自分の思い込みかもしれないな」「実際には、誰もそんなに私のことを見ていないかもしれない」というように、客観的な視点を持つ練習をすることでも、不安感を和らげることができる場合があります。

特に若い頃は、自意識が過剰になりやすく、周りの目を異常に気にしてしまうことが多いものです。また、実際に周りから色々と言われる機会も多い時期なので、社交不安症に陥ることは、決して珍しいことではありません。
しかし、成人し、社会経験を積むにつれて、「周りの人は、自分が思っているほど、自分のことを見ていない」ということが、だんだんと分かってくるものです。

もちろん、自分の身だしなみや行動をチェックするために、ある程度、人の目を意識することは社会生活を送る上で必要です。しかし、それが過剰になっていないか、そのバランスを見極めることが大切です。

視線恐怖:見られていることへの恐怖

自分の行動や容姿に自信がない場合など、「見られている」こと自体に強い恐怖感を感じてしまう(視線恐怖)こともあります。
しかし、これも経験を積み、成功体験を重ねることで、改善していく場合が多いです。

最初は、分からないことや、どうしたら良いか分からないことばかりで、不安を感じるのは当然です。しかし、周りの人から注意を受けたり、アドバイスをもらったり、指導を受けたりする中で、「ああ、こうすればいいんだな」ということが分かり、少しずつ自分の行動に自信が持てるようになります。そうやって、一つひとつできることが増えていく中で、レベルアップしていくのです。

「分からない」ことに対する不安感や恐怖感は大きいものです。しかし、「こういう風に振る舞えば大丈夫だ」という具体的な対処法や成功体験が身につくことで、人前に出ても過剰な恐怖感や不安感を感じることが少なくなっていくケースもあります。
ですから、普段から人前で話す練習をしたり、苦手な場面にも少しずつ挑戦してみたりすることが、結果的に良い方向につながるはずです。

「人目が怖いから」と家にこもってしまえば、ますます外に出られなくなってしまいます。人に会う回数や時間を自分でコントロールしながら、少しずつでも行動を起こしていくことが大切です。
大勢の前で話すのがどうしても苦手であれば、まずは少人数の前で話すことから始めてみるのも良いでしょう。

人のことを気にしすぎる自分と、どう付き合うか

社交不安症に陥ると、「周りの人が、自分のことを逐一観察していて、何か言ってくるのではないか」と常に監視されているような感覚に陥ってしまうことがあります。
確かに、若い頃は親や先生、会社の上司など、自分の行動に対してあれこれと口を出してくる人はいるものです。しかし、それに対して過剰に反応せず、「自分なりに、これだけできていれば大丈夫」という基準を持つことが大切です。

本を読んで知識をつけたり、カウンセリングなどを受けて、「どの程度の振る舞いが、社会的に見て一般的な範囲なのか」を知ることも、客観的な視点を持つ助けになります。
何事も、行き過ぎてしまうと、日常生活に支障が出てしまいます。「自分は、もしかしたら過度に人目を気にしすぎているのではないか?」と、自分自身を客観的に振り返ってみる必要もあるでしょう。

社交不安症のままでいると、過度な緊張から、かえって不自然で奇妙に見える行動をとってしまう、ということにもなりかねません。
そして、その緊張を避けるあまりに、人目を避け、部屋に閉じこもってしまう…。そうなると、やはり何らかの対策を講じる必要が出てきます。

自己評価の低さが、不安を増幅させる

社交不安症を抱えていると、人ごみに行くだけで、「みんなが自分を見ている」「笑っている」「馬鹿にしている」「悪く思っている」といったように、物事を極端にネガティブに捉えてしまいがちです。
しかし、実際のところ、周りの人は、あなたが思っているほど、あなたのことを気にしていません。
人は、自分自身や、自分の興味のあることには関心を向けますが、それ以外のことに対しては、一般的にはほとんど無関心であることの方が多いのです。

しかし、もしあなたが、親から過保護に育てられたり、過干渉な教育を受けてきたりした場合、自分の判断や行動に自信が持てず、「常にこれでいいのかな?」「自分は周りから変に思われていないかな?」といった不安な感覚を抱きやすくなってしまうことがあります。

また、人から批判されたり、何かを指摘されたりすることを極端に嫌う傾向があると、「何か言われるのが怖い」と感じて、自宅に引きこもってしまうケースもあります。
本来であれば、「何か言われても、自分には関係ないわ」くらいの、ある種の鈍感力を持てると楽なのですが、気にしやすい性格も相まって、なかなかそう割り切れない、という場合も多いでしょう。

さらに、日常的な気分の落ち込みなどが根底にある場合、それがさらに気力を奪い、ネガティブな思考を強めてしまう、という悪循環も考えられます。

避けてばかりではなく、自分から動くことも大切

何の準備もなく、苦手な場面に飛び込んでいくのは、失敗につながりやすく、かえって不安感や恐怖感を強めてしまう可能性があります。ですから、不安を感じるのであれば、それに対して自分なりに対策を立てることも必要です。
人前で発表するのであれば、事前に内容をしっかり準備し、発表練習なども行っておくと、自信を持って臨めますよね。

朝礼などで話す機会があるのであれば、日々のニュースなどに関心を持ち、自分の意見をまとめて話す練習(トレーニング)をしてみるのも効果的です。
若い人たちに、人前で話す機会が多く与えられるのは、自分の意見を論理的にまとめ、分かりやすく伝える能力を養うための、トレーニングの一環という意味合いもあります。

そうした機会の意図を理解しつつ、「多少、不完全でもいいや」くらいの、大らかな気持ちで臨めると良いのですが、社交不安症の方は完璧主義な傾向がある人も多く、失敗を極度に恐れるあまり、そうした機会を避けてしまう、ということもあるのでしょう。

もし、一人で考え方や行動を変えていくことが難しいと感じるなら、カウンセリングなどを利用して、専門家のサポートを得ながら取り組んでいくのも良い方法です。
自分ではよく分かっていなかった自分の考え方の癖や、行動パターンが、客観的な視点(人から見るとどう見えるか)を知ることで、腑に落ち、改善への大きなヒントになることもあります。

社交不安症の克服には、段階を踏むことが大切

職種や役職によっては、大人数の前で話すことが求められる場面もあるでしょう。しかし、それがどうしても難しいと感じるなら、最初は少人数の前で話すことから始めてみる、というように、段階を踏んでいくのが良いでしょう。

社交不安症の方の中には、昇進などをすると責任ある行動や役割を求められるため、それを恐れて昇進を断ったり、転職してしまったりする、という人もいるほどです。
しかし、昇進するということは、会社からあなたの実力が認められている証でもあります。そこは自信を持って、新しい役割に取り組んでいく道を選んでほしい、と私たちは願っています。

もちろん、役職が上がれば、大変なことも増えてくるでしょう。もし、あまりにも負担が大きいと感じるなら、周りの人に相談することも大切です。
もし、社交不安症の症状がひどく、相談すること自体が難しい場合には、自分の状態を正直に説明し、周りの人に理解と協力を求めることも、時には必要になってくるかもしれません。

まずは、カウンセリングなどを通して、「なぜ自分は、特定の状況でこれほど強く不安を感じてしまうのか」という原因を、ご自身でよく理解するところから始めましょう。
決して、「これは性格だから仕方ない」と諦めないでください。自分の考え方を少しずつ変えていくことが、治療の、そして回復への大切な第一歩です。

「社交不安症である」ことを、まず認めることから

社交不安症のままで過ごしていると、日常生活の様々な場面で、多くの支障が出ていることが多いはずです。
公衆の面前で話すのが怖い、というだけでなく、

  • 同僚や家族、友人に、簡単な頼みごとをするのさえ苦痛に感じる
  • 外を歩いていると、みんなにジロジロ見られている、笑われているのではないかと不安になる
  • 電話をかけるのが怖い
  • 権威のある人と話すのが極端に苦手

など、様々な不安が常に付きまとっている、という場合も少なくありません。

そうしたつらい状況を自覚し、「自分は社交不安症なのかもしれない」と認めること。そして、ただ逃げるのではなく、少しずつでも苦手な場面に身を置き、慣れてみる(行動療法)ということも、克服のためには必要になってくるでしょう。

また、周りからあれこれと言われることで、どうして良いのか分からなくなってしまう、という場合もあります。
そのような時にも、カウンセリングなどを通して、「自分は今、何に困っていて、どこから取り組んでいくのが良さそうか」ということを整理できるようになれば、変わっていく自分自身を実感し、それが喜びや自信にもつながっていきます。

回復の第一歩は、自分の弱さや不安に気づき、それを否定せずに受け入れることです。
そうすれば、あなたが抱えている「人への苦手意識」というコンプレックスを、少しずつ払拭していくことができるようになるでしょう。
いつか、「昔はこんなことで不安を感じていたんだよね」と、笑いながら話せる日が来ることを、私たちは信じています。

場数を踏みながら、自信をつけていく

人の前で何かを話したり、自分の意見を言ったりすることに緊張を感じる場合には、自分の意見を表現する練習をしてみるのも良いでしょう。
まずは、家族や親しい友人など、安心して話せる相手から始めてみてください。そして、少しずつ、もう少し距離のある人に対しても、自分の意思を伝えられるように、段階的に挑戦していくことが大切です。

知らない相手だと、その人の特徴や反応が読めないので、発言することが怖いと感じる場合もありますよね。そんな時は、最初は無理に話そうとせず、まず相手の話をじっくりと聞くことに徹するのも良い方法です。
相手がどんな人であるかが少しずつ分かってくれば、どのように話せば良いのか、そのヒントが見えてくる場合もあります。

その場合も、無理に相手に合わせる必要はありません。自分の出来る範囲で、自然体で関わっていけば良いのです。「合う人もいれば、合わない人もいるさ」くらいの、大らかな気持ちで考えていきましょう。

社交不安症を乗り越え、人間関係を再構築していくために

人間関係を再構築 自分の気持ちを言葉にする

社交不安症を抱えていると、知らず知らずのうちに、人との関わりを避けてしまいがちです。
しかし、少し勇気を出して、人と話をしてみる、自分から働きかけてみる、ということも大切です。
一人で自宅にこもり、不安な気持ちを抱えていると、どうしても物事を悪い方へ、暗い方へと考えてしまいがちになります。

いきなり色々な人に話しかけるのは、ハードルが高いかもしれません。そんな時は、精神科のデイケアや、私たちのようなカウンセリングの場で、専門家のサポートを受けながら、少しずつコミュニケーションの練習をするのも良い方法です。

名古屋聖心こころセラピーでは、認知行動療法などの精神療法を通して、あなたの性格や考え方のパターンを見つめ直し、より楽で、あなたらしいあり方へと変化させていくお手伝いをしています。
カウンセリングの中で、少しずつ自分の気持ちを言葉にする練習(トレーニング)を重ねながら、あなたの性格やライフスタイルを、より良い方向へ変えていくことが可能です。

「このままではマズイな…」
もしあなたがそう感じているのであれば、一度カウンセリングにお越しになり、ご自身の考え方や思考パターンに変化を促し、社交不安症を克服するための一歩を踏み出してみませんか?

私たちは、社交不安症からの回復をサポートするための、確立されたプログラムと豊富な経験を持っています。
一人で悩まず、ぜひご相談ください。

参考文献・参考資料

  • 岡田尊司(2012)『社交不安障害 理解と改善のためのプログラム』 幻冬舎新書
  • 音羽健司・森田正哉(2015) 社交不安症の疫学-その概念の変遷と歴史- 不安症研究 第7巻 第1号
  • アメリカ精神医学会(著),日本精神神経学会(監訳)(2023)『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル テキスト改訂版』 医学書院

この記事の著者

榊原カウンセラーは臨床心理士・キャリアコンサルタント・管理栄養士。日本福祉大学大学院修了(心理学修士)、名古屋学芸大学卒。公立小学校での栄養教諭を経て、現在は心理・教育・栄養の複合的な視点から支援活動を行う。日本心理学会・日本心理臨床学会会員として、心の健康や対人関係に関する情報発信・執筆にも力を注いでいる。

この記事の監修者

公認心理師・臨床心理士。教育支援センターやスクールカウンセラーとして不登校支援や保護者相談、教職員へのコンサルティングに従事。心療内科や児童発達外来にて心理検査・カウンセリングも担当。現在はオンラインカウンセリングや、心理学と仏教を融合させたセミナー活動などを行っている。

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